太平洋戦争が終わってからしばらく、ブラジルの日系人社会は「勝ち組」と「負け組」が対立した▼勝ち組は日本の敗戦を受け入れない人々の呼称。「信念派」とも呼ばれ、一般人の多くが該当した。日系人指導層の多くは現実を認める負け組で別名「認識派」。負け組の要人を狙うテロが頻発し、落命した人もいる▼開戦までに邦字紙発行は禁止された。現地の言葉を理解しない日系人も多く、戦時中の情報源はプロパガンダ含みの日本発の短波放送。敗戦を伝える放送も聞けたらしいが、やがて「敗戦はデマ」という話が広まったという。国立国会図書館がネットに公開した資料などに教わった▼今のロシア社会にも対立はあるようだ。先日の記事で、ウクライナ侵攻に反発し、アルメニアに移住した二十代の女性が「私たち若い世代は両親や祖父母と口げんかばかりするようになった」と語っていた。若い人はネットで海外の情報にも触れるが、高年齢層は国営メディアに頼る傾向にある▼プーチン大統領は最近も国営テレビに出演。ロシア軍が攻めるウクライナ・ドンバス地域出身という共演の少女が「私はロシア人、ロシアを誇りに思う」と言うと、「すばらしい」と称(たた)えた▼ロシアの学校では、平和の大切さを訴えた教師が生徒らの密告で解雇されたという。ロシアの正義を信じる「信念派」一色に国を染めたいのだろう。