ロシアの首都モスクワには核攻撃に備えた地下シェルターがあり、数は七千以上とも。その一つが「冷戦博物館」として公開されており、約三年前に特派員が訪れている▼核攻撃を受けた場合に軍司令部を置く施設で、ソ連時代にスターリンの命で造った。地下六十五メートルにアリの巣のような空間が張り巡らされ、壁は厚いコンクリートや鋼鉄でできている。長机が置かれた部屋では米ソの核戦争が迫った一九六二年のキューバ危機の際、幹部会議が連日、開かれた▼「世界の都市の物語11 モスクワ」(木村浩著)によると、核攻撃に備え、政治の中枢クレムリンと要人の別荘がある郊外を結ぶ秘密の地下鉄があるとのうわさも長く、流布していたという▼ロシアが掌握したとの認識を示したウクライナ南東部マリウポリでは、製鉄所地下にウクライナ兵がまだ立てこもっているようだ。地下にトンネルやシェルターがあり、避難した市民もいるという。核攻撃も想定した施設と伝わる▼今回の侵攻で核兵器使用も辞さぬ姿勢を示すロシアのプーチン大統領。米中央情報局(CIA)長官は最近、「戦術核や小型核に頼る恐れを軽視できない」と述べた▼冷戦博物館には「核のボタン」のコーナーがあるという。見学者が押すと、モニターにきのこ雲や吹き飛ぶ建物、逃げ惑う人々が映る。醜悪な展示だが絵空事とも思えず、気が重い。