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今日の筆洗

2021年10月18日 | Weblog

五年ほど前、旅館で先輩記者と大げんかになった。原因はトイレである。酔った先輩が部屋のトイレで立って小用を足そうとして的を大きく外した。ご存じだろう。旅館の浴衣を着て用を足すのはなかなか難しい上にお酒が入っている。結果、地獄絵図である▼今も腹が立つが、この先輩、あろうことか、報告すべき事実を隠し、そのままにしていた。知らずに後から入った自分は絶叫することになる▼先輩の不始末を非難し、「今の時代、こういうトイレでは小用も座って済ませるものだ」と説得するが、相手はわびながらも「立つのが普通」と譲らぬ。オジサン二人が夜中に口論である▼あほうな話を思い出したのは最近の調査結果である。生活家庭用品メーカー、ライオンの調べによると、男性で便座に座って小用を足す人はもはや六割を超えているそうだ。「それみたか」と、あの先輩に伝えたくなる▼「座り派」に転向したのは単身赴任をした十数年前である。汚せば、掃除するのは自分。汚すリスクを軽減するため、座るのは自然なことだったし、その習慣は単身生活後も続く。同居する人間を怒らせるリスクも回避できる▼「座り派」が増えたのはコロナの影響で清潔への意識が高まっていることもあるそうだ。昔懐かしい漫画のせりふに「立つんだジョー」というのがあったが、時代は「座るんだショウ(小)」か。


今日の筆洗

2021年10月16日 | Weblog

一九〇一年の正月、報知新聞が「二十世紀の予言」を掲載した。二十数項目の中には、東京と神戸を二時間半で結ぶ列車やエアコン、ファクス、電子メールのような機械、技術の登場など的中と思わせる見事な予言が多く、二十世紀の終わりごろ、驚きとともに話題になった▼獣との自由な会話など、外れもある。天災をひと月前に予測し、大砲を撃って暴風を防ぐというのもあった。当時から防災への切実な願いが存在していたのだろう。残念ながら現実は予言ほど進んではいない▼果たされなかったその予言をいつの日にか、現実のものにしてくれるのではないか。今月、横浜国立大に設置された台風科学技術研究センターには、そんな期待もしたくなる。台風に関連するさまざまな分野の第一線の専門家らが力を合わせ、防災、減災を目指す。日本初の台風専門の研究機関という▼メカニズムに謎も多い台風を詳しく観測し、データを解析する。高精度の予測もテーマであるという。大砲ではなく、上空から投下する氷などで、勢力を弱める研究をしている方もいるそうだ▼風力を発電に利用する研究もある。前世紀は、数千人の命を奪う台風が列島を襲った。今は凶暴化が恐れられている。切実な思いは変わらない▼時間はかかるのだろうが、予言に応えるような二十一世紀の画期的な成果が報じられる日が来るかもしれない。


今日の筆洗

2021年10月15日 | Weblog
米国でこんな実験をした。二人の人物の顔写真を見せ、どちらが選挙に受かりそうかを尋ねる。二人は実際に選挙に出た人物なのだが、聞かれた人は、なんの情報もなくても高い確率で当選者を言い当てられたそうだ▼『第一印象の科学 なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』(みすず書房)によると人は他人の顔を見てどういう人物かを一瞬で判断する。選挙でいえば顔だけで「有能そう」と選びやすいそうだ。先の実験で当選者を言い当てられるのもそんなところに理由がある▼さて、衆院が解散し、事実上の選挙戦に入った。政権選択やコロナ対策など大きな分岐点となりえる総選挙だが、三十一日の投票までの日数は十七日間。戦後で最も短いそうだ▼所属政党や候補の政策、主張にじっくり耳を澄まし、慎重に判断していただきたいところで、まさかとは思うが、投票までの時間のなさに顔で選ぶようなことはおやめになった方がよろしかろう▼実際、顔の印象はあまり当てにならないらしい。第二十九代米大統領のハーディングは観相学上、政治家としていい顔をしているそうだ。まじめそうに見える大きなあご。広い額には知性も感じるが、大統領としての評判はあまり芳しくなく、米国では「成功しなかった歴代大統領」の一人に数えられると聞く▼十七日間は短いが、各党の政策を比べるには十分な時間だろう。
 

 


今日の筆洗

2021年10月14日 | Weblog
「マカートニーとレノン リーダーが仲間割れ」。五十一年前の新聞を探すと、そんな見出しの記事が、全国紙に小さく載っていた。ビートルズの主要メンバーである二人が、意見の相違によって、決定的にたもとを分かったという英紙の報道を伝えている▼世界一有名なバンドが、法的に正式な解散をするのは、その約五年後らしいが、通常は、かの「仲間割れ」の年が解散の年とされている▼半世紀の沈黙を破るかのように、ポール・マッカートニーさんがその「仲間割れ」の内実について口を開いた。英BBC放送に語ったという。自分がきっかけという説を否定し、ジョン・レノンが望んだからとしたそうだ▼解散の理由をめぐっては、レノンと結婚したオノ・ヨーコさんが原因という見方をはじめ、多くの説が語られてきた。マッカートニーさんはレノンがオノさんと新しい生活を始めていたことを指摘しつつ、オノさんに責任はないとした▼五十年以上過ぎるのに、解散の詳細な経緯に関心が集まるバンドも他にないだろう。どこかで成り行きが異なっていたなら、多くの人の宝物になるはずのもう何曲か、何枚かが残されていたかも。そんな想像ができるからでもあろうか▼続いていた可能性と続けたかったという願望をマッカートニーさんも語ったそうだ。あったかもしれない続きを思い、聞くのもいいかもしれない。
 

 


今日の筆洗

2021年10月13日 | Weblog

ニューディール政策で名高いルーズベルト米大統領には就任前、軽量政治家の印象があったそうだ。米メディアによると、俳優出身のレーガン氏も「カンニングペーパーなしにはしゃべれない人物」とみられた。新自由主義的なレーガノミクスを進める大統領となる。「前評判と違う」と人々を驚かせた大統領たちである▼現在のバイデン氏も大統領選では「トランプ氏の対抗馬」の印象が強かった人であろう。七十代後半の年齢もあり、過渡期の人ともみられていたはずだ。「ねぼけたやつ」を意味した、トランプ氏による「スリーピー・ジョー」の揶揄(やゆ)は、痛いところを突いたようにも感じたものだ▼それがどうだろう。異例の規模の歳出拡大を盛り込む予算教書を発表した。レーガン氏にさかのぼる「小さな政府」から、「大きな政府」へ米国の大転換を意味している。前評判の印象とは少々異なる大きな手を打っている▼「トリクルダウンが機能したことはない」とも断言する。富める者が豊かになれば、貧しい者にも恩恵があるとする理論の否定だ▼新自由主義的な政策の下で拡大し、固定化している格差を根本から是正しようとする決意の表れだろう▼大きな政府の弊害も指摘されている。議会の抵抗も考えられる中で、かじ取りは続く。わが国からも、米国が目指す方向の変化を、驚きつつみることになりそうである。


今日の筆洗

2021年10月12日 | Weblog
入門に際しては両親、とりわけお母さんが反対した。どうしてもその道に進みたかった男の子は落ち込み、毎日、壁に向かってぼんやり座り続けるようになる。家の中が暗くてしょうがない。両親はついに音を上げ、男の子を送り出したという▼その道は独自の至芸や人間国宝につながっているんだよ。壁の前の若者に教えたくなる。落語家の柳家小三治さんが亡くなった。八十一歳。「青菜」「小言念仏」。それほどでもない噺(はなし)が小三治さんが演じるとどうしてあんなにおかしかったのか▼噺を覚えるのが苦手だったそうだ。せりふや筋を覚えるだけならさほど難しくはないだろうが、小三治さんの場合は「了見で覚える」▼まず登場人物の心持ちになって、その人の言葉として覚えていくというから、やっかいな作業だったのだろう▼せりふや動きよりも人物の了見を重視した芸は派手さには欠けたかもしれぬが、その分、人間を丁寧に描けた。どんなに滑稽な噺でもその笑いの裏にある、悲しみや寂しさのようなものまでつい想像させる。そんな高座だった。談志さんの「凄(すご)み」や志ん朝さんの「華やかさ」に対し、小三治さんは「深さ」か▼二日の「猫の皿」が最後の高座だったと聞く。以前、最後は「粗忽長屋」でと書いていたので、まだまだ続けたかったのだろう。寂しい。ファンには「小三治」ではなく「大惨事」である。
 

 


今日の筆洗

2021年10月11日 | Weblog
「はやく行きたければ一人で進め。遠くまで行きたければみんなで進め」。岸田さんが所信表明演説で言及していた、ことわざである▼強い眠気を誘った前任者の棒読みを思えば岸田さんの演説はまだ聞きやすい。経済的格差を協調によって乗り越えようと訴える、この言葉も印象的だった▼同じことわざを二〇一六年の米民主党全国大会でブッカー上院議員が引用して話題になったが、そのオリジナルがはっきりしない。ノーベル平和賞のアル・ゴアさんも気候変動問題への取り組みを訴えるのに引用したことがある▼アフリカのことわざという説がある。助け合いながらみんなで進むことを良しとする内容は西洋の個人主義とは異なる。アフリカらしいおおらかさや包容力も感じるが、現地では聞かないという報告もあるそうだ▼もう一つ有力なのが英国の詩人キプリングの詩からという説。ただ、内容は「最もはやく到着する人間は一人で行く者である」「遅れる人間を待つのはおろか」と、ことわざの意味とはまるで違う▼ともすれば、キプリングの詩の方になびきやすく、われ先にと進み、遅れる者を見捨ててしまう世の中かもしれぬ。その風潮の中にあってみんなで進もうとどう説得し政策を展開していくのか。岸田さんの旅の荷物は重かろう。言葉は美しくとも、それができなければ、この新政権も遠くまでは行けまい。
 

 


今日の筆洗

2021年10月09日 | Weblog
<羽(はね)なければ、空をも飛ぶべからず。竜ならばや、雲にも乗らむ>。今から八百年以上前、都を襲った地震を経験している鴨長明は『方丈記』に思いを記した。羽がないので飛べない、竜であるなら、雲にも乗ろうと▼飛んで帰れるなら…。一昨日の夜から未明にかけて、駅にできた長蛇の列の中、そんなことを思った方がいたかもしれない。首都圏を揺れが襲った。犠牲者が報じられていないのが何よりだ。不安の一夜を過ごした方、首都圏に震度5強のニュースを緊張して見た方は多いだろう▼交通機関が一時止まり、いわゆる「帰宅困難者」が多数出た。エレベーター内に閉じ込められたケースや複数の水道管に破裂なども起きている。駅が開放されるなど、経験を生かした対応もあったようだが、大都市は災害への弱みをまたみせた▼いつか見た光景である。帰宅困難者の問題を大きく浮かび上がらせたのは十年前の東日本大震災だった。最大震度5強も、それ以来だという▼あの経験を忘れる人はいないとはいえ、十年の時が流れれば、記憶が少し奥に退いてもおかしくないだろう。首都圏直下型の大地震も懸念されている。思い出そう、いずれ来る災害に備えよ。駅の混乱など既視感のある光景は、語っているようだ▼われわれは空を飛んで逃げ出すことのできない地震の国に生きている。あらためて、そんなことも思う。
 

 


今日の筆洗

2021年10月08日 | Weblog

一見、関係なさそうなところに意外な影響が及ぶ。古くからある、風が吹けばおけ屋がもうかるという例えについて、物理学者の寺田寅彦は<一場の戯談(じょうだん)もあながち無意義な事ではない>と随筆で述べた。宇宙にある無限の事物も互いに関係しないものはないと。「万物相関」なる言葉も使って、説いている▼なにやら難しい話になったが、遠い土地の天候やコロナの感染状況が思いがけないかたち、早さで及ぶような出来事が多くないか。コロナ禍が万物の関係を近くしたかと思わされる昨今だ▼菓子やマーガリンといった身近な食品などで、値上げが相次ぐ。ガソリンまで高い。風とおけ屋ほどの遠いつながりでないが、世界で経済回復への期待が高まり、大消費国の需要が拡大し、そこに農作物の産地で天候の不順が起きて、投機的な動きも加わり、最後には家計の痛みになる。そんな流れがあるようだ▼しばらく前には、木材の高騰が起きている。米国の在宅勤務者の増加が、米国の住宅着工の拡大につながり、わが国に影響が及んだそうだ▼蛇口の盗難事件というのも起きているらしい。公共の場などの水道の蛇口である。コロナ禍から回復途上の中国などで金属の需要が高まって、価格が上がり、盗む対象になっているという▼コロナが収束に向かえば蛇口が消えるでは、冗談にならない。万物相関の時代のいやな話だ。


今日の筆洗

2021年10月07日 | Weblog
野球映画の傑作といえば若き日のルー・ゲーリッグを描いた「打撃王」や「フィールド・オブ・ドリームス」「さよならゲーム」あたりを思い出すが、小欄のお薦めは米映画「エンジェルス」(一九九四年)。何度見てもほろりとさせられる▼やくざな父親が幼い息子を捨て、家出する。こんなことを言い残した。地元の弱小チーム、カリフォルニア・エンゼルス(現在のロサンゼルス)が優勝したら帰って来るよ▼父親としてはもう帰って来ないという意味で言ったのだろうが、息子はその言葉を信じて、弱いエンゼルスを必死で応援する。すると天使がやって来て、息子の願いをかなえるため不思議な力でチームの勝利に力を貸す…。見たくなりません?▼映画ではエンゼルスは優勝できないものの見事なハッピーエンドが用意されている。そのエンゼルスの大谷翔平選手。最高のシーズンを終えた▼天使の力がほんの少し足りなかったか。本塁打王、ベーブ・ルース以来の二桁勝利・二桁本塁打の記録には惜しくも届かなかったとはいえ近代野球においては信じられぬような成績を残した。断言したい。今年の大谷は史上最高の選手である▼コロナが感染拡大していた憂鬱(ゆううつ)な日々を思い出す。夜空を切り裂く鋭い打球。快足、そして右腕が投じる速球にどれほど慰められ救われたことか。大谷の背中に翼がないか確かめたくなる。