昔から香典返しにはお茶が多かった、というか、かつてはほとんどお茶だったという記憶がある。そもそも香典とのかかわりは、地域社会のそれよりは、会社関係のものが多い。もちろん生業の変化によるものだが、かつてのように多くが農業従事者だった地方農村ならば、香典の繋がりは地域や姻戚関係に限られた。しかし、サラリーマンがほとんどとなった現代では、香典とのかかわりは会社で教わることとなる。そしてわが社の場合もそうだが、「お互い様」という意味で、香典額は低く抑えることが了解されている。それは「お返しはしないように」という計らいなのだが、かつては生活改善なる言葉が耳慣れていて、返礼のないケースもあったが、今はほぼ100パーセント金額にかかわらず返礼品がつく。「赤字ではないのか」などと思ったりもするが、それも含めて「お互い様」となっている。香典額に応じて返礼をする、という考えもかつてはあったが、葬儀の現場の変化で、そのような紛らわしい対応もしなくなった。したがって返礼品は「皆同じ」ようになった。とはいえ、中には通例より多く香典が包まれていると、後日さらに返礼を追加で送ってくる、などということもかつてはあった(今もあるのかも)。しかし、そもそも「お互い様」の理論は、前例に則ることから、その際に「お返し」をすれば良い、というのが原則なのだろうが、やはり人それぞれなのだ。
今でこそ香典は現金となったが、昔は品物だったという。もちろんわたしはそのような時代は知らない。『長野県上伊那誌』(昭和55年)によると、「以前は白米・糯米・赤飯・おはぎ・それに野菜を添えたのがあった」とある。すぐに使える物が、葬儀の場では必需品だったということになる。そういう意味では、返礼品として使われるお茶もそのひとつだったのだろう。
先ごろ「大切な先輩が亡くなられた」を記したが、訃報を聞いたのは午後7時前だった。本社に連絡をとったりしてひと段落したところで、ふと「お別れにいつ行けば」と考えた。週末だったことから「今夜寄ってみよう」となったわけであるが、日ごろから妻は口癖のように葬儀の前には人寄りがあるから、すぐに出せるモノを持って行ってあげると良い、と言う。時は新型コロナウイルス騒動で、いつもより人寄りは控えられるだろうが、とはいえお別れに訪れれば、お茶も出す。ということでお茶菓子を持ってお別れに訪れた。
カタログギフトの会社のページに「香典返しでお茶がよく選ばれる理由」というものがあった。そこには次のような理由が並んでいる。
仏教との深い関係があるから その昔、日本が中国の僧侶を招いた際に、その僧侶が万病に効く薬として日本に持ってきたのが、「お茶」です。その後、庶民の間で広まったことで、「仏事にはお茶」ということで定着しました。これが由来と考えられ、香典返しの品物として選ばれるようになりました。
お茶は「境界を区切る」 お茶には、「境界を区切る」という意味があります。そのため、故人とお別れをするためにお茶を飲むのだそうです。また、お茶は葬儀や法要などで振舞われ、参列者たちに飲まれます。お茶によって「境界を区切る」だけでなく、「境界を越える」ことで、参列した方同士が親しい間柄になるとも言われています。
体にいいものだから 前項でご紹介したように、お茶は中国の僧侶から万病薬として、日本に伝え、広まったものです。「茶は養生の仙薬なり」と言われるように、昔から長寿の秘訣として、飲まれてきました。このことから、相手の健康を思う贈り物として、香典返しの品物に選ばれています。
消えものだから 香典返しでよく選ばれる品物は、飲食料品や消耗品といった、食べたり、使ったりすることで無くなる「消えもの」がほとんどです。不幸があったことに伴い、形が残るものを控えるため、「消えもの」が選ばれています。そのため、お茶も飲むことで消費できる「消えもの」とされています。
また、お茶は好みにあまり左右されないため、複数の方に贈る香典返しに最適です。もし、お茶が好みでない方に贈る場合でも、来客用のお茶として振る舞うことができるため、問題ありません。
日持ちするから お茶の利点の1つとして挙げられるのが、日持ちする点です。一般的に袋に入ったお茶の保存期間は6ヶ月。缶に入ったお茶は1年ほどとされています。 長期間保存できるお茶は、贈った相手にも大変喜ばれる品物です。 また、お茶は高温多湿をきらいますが、保存環境がよければ、美味しい状態を長く味わうことができます。
小分けされているから お茶のもうひとつのメリットが、小分けされているという点。香典返しとして選ばれている品物は100g程度の小分け袋が複数入っているものが多く、受け取った方がもし使い切れなかったとしても、誰かにプレゼントをすることができます。
また、最近ではティーバッグのお茶も選ばれているようです。一人暮らしの方にはティーバッグを選ぶなど、相手によって贈り分けてもいいでしょう。
確かにそれらしい「理由」と捉えられるが、別の会社のページには
貧しかった昔は村の中で葬儀が発生すると、親族や近隣の人が相互扶助の精神を発揮して米やお茶・酒など、葬儀に必要な品物を持ち寄って手伝いました。葬儀が終わると「おかげさまで無事終了し、その時頂いた品物がこれだけ残りましたのでお返しします」というのが習慣で、これが「香典」と「香典返し」の原点です。
と記載されていた。きっとお茶を香典として用意することも、昔はあったのだろう。
さて、冒頭、かつては返礼品と言えばほとんどお茶だったと記した。ところが最近はお茶、それも緑茶一辺倒ではなくなった。会社の女性から聞いた言葉であるが、香典返しにお茶をもらっても「家では使わない」という。ようは日本茶を飲まないのだ。今の若者(若者ばかりではなさそうだが)は、日本茶を飲まない、と言うかお茶の葉からお茶を飲む、という習慣がほとんどない。お茶といえばペットボトルだと思っている。片付けなくてはならないお茶の葉は使わないのである。その背景からくるのか、香典返しにお茶が多いのは今も変わらないが、いっぽうでお茶が少なくなったのも事実。かつてはお茶があり余るほどあったのに、最近は「お茶無いの」などと妻に聞くほど、自宅には品薄である。そういえば、会社でも、昼食時にお茶を飲むのは、年寄りばかりだ。
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