既製の玄関飾り(松川町ホームセンター「すまいる」)
しめ縄さまざま(飯田市上郷黒田「キラヤ」)
正月飾りを販売しているところに説明書きがある例も最近は目立つ。たとえば松川町のみなみ信州農協の店舗では、「注連飾りの飾り方」という説明が貼り出されていた。そこには「地区により飾り方・商品に違いがあります」と注記されるとともに、家の間取り図を示し飾る場所を解説している。前編で触れたオヤスについては「「水」、「火」等のもろもろの神様に供えます」とあり、その指している場所はキッチンのシンク周りやトイレ、浴室となっている。指示している場所に本当に飾る家があるのだろうか、と疑問がわくが、通常は前編でも触れたように、入口などにはつきものりオヤスであるとともに、どこにでも飾りとして使われているオヤスと捉えるが、松川町では違うのだろうか。また、神棚飾りの解説には、「種類があるので、各家庭で決める」とされ、例示されている図は「大根注連」「牛蒡注連」「鼓銅注連」「一般的な注連縄」の4種類がある。この図はネット上に一般的に出回っている図だ。そして玄関飾りに示されているものは、いわゆる注連縄と、既製の店舗でよく売られている飾りである。もちろん近年は、こうした飾りを好んで買う人も多いのだろう、店によってはそうした飾りを中心に販売しているところが多い。
同じ松川町のホームセンターで売られていた既製の飾りは、飾り専門の業者のものを置いていて、そうした業者も今は数多いようだ。「吉祥」という千葉市の業者の飾りの背面にある説明書きを紹介しよう。
新年の幕開けを彩るお正月飾りはひとつひとつが手作りです。
開運を祈り、幸せを願う心を込めて作りました。
●お正月飾りとは?
お正月飾り、各家庭に新年の神様お迎えして幸運を授けていただく行事と言われてきました。お正月飾りは、その年神様をお迎えする日印であり、お迎えした年神様はそこに宿りお正月の聞とどまってもらいます。一年が幸せとなるよう古い不浄を払い、商売繁盛、家内安全、一家和楽を祈願する意味も込められています。
●お正月飾りはいつ飾りいつ片付ける?
昔から、お正月の準備を始める日のことを「正月事始め」といいました。12月13日が正月事始めにあたります。その日からお正月飾りは飾られます。一般的に、お正月の準備は28日までに終わらせるといいます。
29日は「苦立て」といって避けられてきましたが、「29日=福(ふく)」と見なして、縁起が良いと考えることもあります。大晦日は、「一夜飾り」といって不吉だと考えられてきましたが、元旦の朝に飾りつけすれば全く問題ありません。
松の内(一般的に7日ですが、地域により異なります)を過ぎたらお飾りを外し左義長(どんと焼き)と呼ばれる火祭りで燃やしますが、近年では、環境問題等の配慮からお住まいの各地方自治体の指示に従って処分していただいております。
というものだ。千葉市で作られたものだから、当然のこと関東系の習俗と言えそうだが、「正月事始め」については、ウィキペディア(Wikipedia)にもあり、「正月事始め(しょうがつごとはじめ)とは、正月を迎える準備を始めること。かつては旧暦12月13日、現在は新暦12月13日に行われる。昔はこの日に門松やお雑煮を炊くための薪など、お正月に必要な木を山へ取りに行く習慣があった。 」とあるが、「年年隨筆「六巻」には、江戸では十二月八日を事始としており、尾張では十二月十三日を事始としている、との記事がある。 」とも記されている。ということは、12月13日という日は中京の習俗と言えるのだろうか。他地域でも販売していることから、地域差を考慮した文面となっているのだろうが、現代らしい記述として「環境問題等の配慮からお住まいの各地方自治体の指示に従って処分」がある。あえて言うなら、いまもってその処理方法として広範に行われているどんど焼きは、伝統行事の枠を超えているのかもしれない。ちなみに、2枚目の写真の「キラヤ」は、ホームセンターではなく、食料品中心の飯田下伊那のチェーン店である。
さて、このあたりで飾りつけがされるのはいつなのか。12月13日という日は「煤払い」を行う日、という記述が見られるが、飾り付けをするには早い。ただし事例を拾うと、「十二月十三日神棚や自在鍵の煤を払い、火棚の吊し縄を新しくし、恵比寿様の福縄を新しく作る」(駒ヶ根市火山)というものが『長野県上伊那誌 民俗編上』(昭和55年)ある。同書には「十二月十三日は煤掃年取りで家中の煤を払い、炉端の煤を払い、鍵筒(自在鍵)を吊ってある古い縄の上へ、新しい縄をふた巻きたすきようにかける。夕飯は鰯か秋刀魚をつけて御馳走」(宮田村)ともあるが、事例としては少ない。実際には松迎えは25日から28日ころ、松飾りをするのは、30日あるいは31日といったところが多い。
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