つい先日、帰省していたときのこと
海を見に行こうと車を走らせていると
遠い記憶がよみがえってきた
ひとけのない夕方の海
「お母さーん、待ってー」
どんどんどんどん…沖に向かって泳いでゆく母を
浮き輪に乗った私は、ばしゃばしゃばしゃばしゃ…ばた足をして追いかける
こちらを振り向くこともなく
沖に向かって泳いでゆく母…
他愛もない家族での海水浴のワンシーンを、今、何故こんなにも鮮明に思い出したのか…
その時に、寂しいとか、悲しいとか、不安だとか…幼い私がそんな感情を抱いたのかは、今の私にも思い出せないのだけれど
そのシーンを鮮明に思い出したときに
悲しみの涙が止めどなく流れた
「お母さーん、待ってー」
リフレインする声は波の音に吸い込まれてゆく…
きっと、今でも呼んでいるのだろう
あまりにも急に別れた母を…
きっと、今でももがいているのだろう
ばしゃばしゃとばた足をして…
海に着いた…
きれいなブルーの海が広がっている
誘われるように波打ち際まで行ってみた
母なる海は…ここだった