偶然、といえば英次はすべてそうなのだったが、中学生時分に雄吉の口癖だったものが鉤の中の言葉を口にするように、耳目に応じて口走らせた。大きな響でコマーシャルを流す車と、バス停で佇む人々がいて、英次の耳目に輝かしく届いた。ただ大音響を吐く車体に見る、赤青色が美しく、宣伝カーのイメージすら持たない英次の気分を揺さぶり、輝く車上の男と共に、できるものならと英次はその車に乗って見たい。追って行きたいのを精いっぱいこらえるのも、尊いようにわけもなく思うし邪魔をしたくないと思うし、結局英次の小心が原因なのだけれども、夕陽にメロディーが響く車に向かって、両手を晴天に突きあげていながら、
「バンザイ」
と脳裏を感激の声で満たした。車上から男がなぜか手をふって応える時、バス停の目顔を英次は一身に引き受ける羽目におちいっている。その車と大音響は輝く男たちを乗せて、英次のために現れて去って行くようにどんどん遠ざかる。正気に、とその瞬間に・・・・・・さようならと英次は呟いたのだ。人々の目顔を一顧も目の中にしてはいなかったが、リュックを背にする変人を今、それらが英雄に化したようで、軍艦色に見える影を市庁を過ぎた角に消えるところまで、上気した英次を皆は劣らず負けずうっとりとして見たようだからだ。
(つづく)
「バンザイ」
と脳裏を感激の声で満たした。車上から男がなぜか手をふって応える時、バス停の目顔を英次は一身に引き受ける羽目におちいっている。その車と大音響は輝く男たちを乗せて、英次のために現れて去って行くようにどんどん遠ざかる。正気に、とその瞬間に・・・・・・さようならと英次は呟いたのだ。人々の目顔を一顧も目の中にしてはいなかったが、リュックを背にする変人を今、それらが英雄に化したようで、軍艦色に見える影を市庁を過ぎた角に消えるところまで、上気した英次を皆は劣らず負けずうっとりとして見たようだからだ。
(つづく)