座席の肩口で聞く少女のような女の声に、英次は覚えがあって、首をねじり、
「はいっ」
と素直に叫んでいた。型通りの人間を積んだ車中で英次は特に目立った存在の上で叫んだものだった。山口夏子、なっちゃんが少女の姿を見せて思い浮かんできて、笑いかけて、
「なっちゃんです」
色白の丸顔の目が大きい女とその少女とが、同一人だと直感的に判断し得た。
「あなた、小沢英次よ」
山口夏子は複雑な表情をしながら、つまり半ば同情半ば高慢の表情をして、隣の男に寄り添った。里帰りしている山口夏子を無論、英次が知る由もないが、隣の男は小沢久といって同じ小学校と中学校の同窓だった。二人が夫婦というのではなく、今日はその同窓会の役員会の帰路たまたま出あって、その状況に英次が出くわしたわけで、五年前の事故やその後の事情を知り尽くされていた。薄紅のカーディガン、肉厚の脇と乳房に、英次の目線が一瞬弾かれたように目を伏せる。一人の少女を思い、いつまでも眉をすぼめている。
(つづく)
「はいっ」
と素直に叫んでいた。型通りの人間を積んだ車中で英次は特に目立った存在の上で叫んだものだった。山口夏子、なっちゃんが少女の姿を見せて思い浮かんできて、笑いかけて、
「なっちゃんです」
色白の丸顔の目が大きい女とその少女とが、同一人だと直感的に判断し得た。
「あなた、小沢英次よ」
山口夏子は複雑な表情をしながら、つまり半ば同情半ば高慢の表情をして、隣の男に寄り添った。里帰りしている山口夏子を無論、英次が知る由もないが、隣の男は小沢久といって同じ小学校と中学校の同窓だった。二人が夫婦というのではなく、今日はその同窓会の役員会の帰路たまたま出あって、その状況に英次が出くわしたわけで、五年前の事故やその後の事情を知り尽くされていた。薄紅のカーディガン、肉厚の脇と乳房に、英次の目線が一瞬弾かれたように目を伏せる。一人の少女を思い、いつまでも眉をすぼめている。
(つづく)