50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

今日、子供の日の黄昏時・・・

2015-01-14 20:47:08 | 小説
今日、子供の日の黄昏時、雄吉の期待を背中に向けて、英次のリュックを見ない濃紺のそこは、幾分雄吉の目に心強く映るのだった。居住区に向く路上の明かりが消えて行く。ものをたわいもなくいったのは父の方で子といっても三十五歳の子の沈黙に期待を寄せた。寄せたがるのだが雄吉の目には、いつもの妙子が浮かびかけている。住宅街特有の臭気を嗅ぎつけていて、雄吉の気が緩みかけていた時である。道筋の前栽にもう初夏の微風が爽やかな夜風となり、心を撫でて渡る時、英次の笑顔がひょいとふる返って、
「おとうさん」
といって、パパといわずに雄吉を一息に戸惑わせて驚かす。「公園では今日いろんなことがあってね。おとうさんがいつかよく戦争の話を聞かせてくれただろう。戦争は好きじゃない、けどもあの話のおかげかも知れないのです。あの車を見た時に・・・・・・」
「あの車?」と確かに状態の変化を知る父親。
「ええ、後で詳しくお話しますが、とにかく頭の中の霧が晴れて行くような感じだった。それはさておいて、おとうさん、ぼくはもう大丈夫みたいなんです。今日までの間、ありがとうございましたといわせてください。おかあさんにも。まだ少々頭が混乱しています」
と英次は淀みなく話していた。夜風が雄吉の白髪や肌に優しい。

(つづく)