その灯を仰ぎ、目を閉じて、英次の脳裏には・・・・・・白い画布を見る。突然画布は真っ赤だ、意識が三次元に揺れ戻るような気分で見るうち、赤青白の車を描いた。鮮やかなまま、ずんずん去って行って、叫ぶように、「ありがとう!」・・・・・・
とその時夕陽が目を射したので、はっとして、英次は目が覚めた時に、バスは英次の停留所を放送しているのだった。夢を見たのは幾年ぶりだろう、と英次はふと思っていた。しかしその夢は再び戻らず、永遠に記憶の壁に閉ざされてしまうだろう。バスの出口で雄吉が運転手に二言、三言何かいっている声を、はっきりとレトロスペクションと呟きながら耳にしていたものだからである。そしてその時に浮き出た懐かしさは束の間に果てていたもので、
「英次」
と呼ぶ雄吉の声に、「はい」とばかりに大きく応えているのだった。付き添いの人のどうのと聞き慣れた運転手の小声が流れ、
「どうか、今しばらくのご勘弁を。すみません。すみません」
と雄吉はいった。リュックを提げる英次をバスの外から迎えていた。運転手を労働の邪魔で無理もないと雄吉は思い、無表情の英次を空の頭で受け取るようにして待っていた。そしてわが子の恙ない肉体をひたすら、喜ぶことに専念したいと英次の足もとに目を配る。
(つづく)
とその時夕陽が目を射したので、はっとして、英次は目が覚めた時に、バスは英次の停留所を放送しているのだった。夢を見たのは幾年ぶりだろう、と英次はふと思っていた。しかしその夢は再び戻らず、永遠に記憶の壁に閉ざされてしまうだろう。バスの出口で雄吉が運転手に二言、三言何かいっている声を、はっきりとレトロスペクションと呟きながら耳にしていたものだからである。そしてその時に浮き出た懐かしさは束の間に果てていたもので、
「英次」
と呼ぶ雄吉の声に、「はい」とばかりに大きく応えているのだった。付き添いの人のどうのと聞き慣れた運転手の小声が流れ、
「どうか、今しばらくのご勘弁を。すみません。すみません」
と雄吉はいった。リュックを提げる英次をバスの外から迎えていた。運転手を労働の邪魔で無理もないと雄吉は思い、無表情の英次を空の頭で受け取るようにして待っていた。そしてわが子の恙ない肉体をひたすら、喜ぶことに専念したいと英次の足もとに目を配る。
(つづく)