50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

その間中、いすくむ英次を・・・

2015-01-09 21:55:10 | 小説
その間中、いすくむ英次を小沢久との間には変容なく、遠縁関係の関係の外はもとのありさまに戻っていた。小沢久は頑健らしい体を通路に突っ立て、素知らぬ顔をきめこむ。先程の路線妨害のことを考えるので、時刻表を熟知する男が車上から名を転がす風景が浮かんだりしていた。妻子がいる身が、大きな事故となれば大変だったのだから。頭痛がほとんどおさまる英次。バスは二度三度、そして六度七度停止、発進と進行して、小沢久が姿を消していなかった。通路が実際拍子抜けのような空間に、子供の日にある一種退廃な雰囲気かも知れないものを感じさせて、最後部席に移ってきている小沢久には英次が気がかりでしょうがない。切ると叫んだ声が彼の良心に引っかかって容易に離れないのだ。それをずっと忘れられないなら、弱ったなと車窓の日ざしを横ざまに受けながら、つくづく悩ましくなる。次で降りて、「一杯やってこうかい」
八度目の停留所である。英次の横手を数人の男と女と子供が通り抜けて行き、英次は停留所横の鉢花を車窓に見つけて
「おうちの花が咲いている」
衰微の色を染めた三色の花片群。小沢久がよぎるが、たちどころに軒端を行く人影、商店の明かり、果物群、看板、電器店の商品群などなどと英次の眼前に飛び去って行った。そうして英次は記憶力の回復を今ほど、兆候のうちに知った例がなかった。

(つづく)