夢の中を歩く怖さもあるように膝頭が幽かにふるえ、雄吉は自分の笑顔のぎこちなさを知りながらいる。「だから今夜は黙って過ごそうじゃないの」いかにも冗談めかしてそういったのだ。動転、卒倒しかねない妙子のためにも・・・・・・。
「ああ。愉快ですね、お父さん」
英次はそういった時、自家の小さな門に十数歩の路上、何々会社社長宅の門灯を潜る若い女を横目に見て、つと足を止め、
「行く行くはずっと大きい家を立てましょうよ。ぼくは明日から、本当の会社へいくつもりでいます。だって弁護士の資格を持っているんですもの。それにいつだって優れた友人たちに恵まれていた、ぼくだったんですから」
英次は五年間の英次が大いに吹っ切れたように、背伸びをして見せるのだったが、雄吉は夢なら覚めずにあって欲しい心持ちを、内心ネアカの父親に立ち戻ってふくらませていた。自家の通りを辿って吹いた夜風が涼しく、心地よく雄吉の顔と白髪頭に触れて行った。肉体はあってなくて、血は頭にのぼりつめたようであり、門灯の明かりに顔が紅潮しているのであった。英次の正気をその言葉が確信させている。今朝の吉兆がまさしく当たっているとふと有頂天になるところだったのだから。「英次はもともと頭のいい息子」といって踊り出しかねない、ネアカな父親に立ち戻ったのは幾年ぶりか知らん・・・・・・と雄吉は思った。
「それはそうとおとうさん。その家を守る軍隊が必要だった。つまり知恵と労働の軍隊が、けれども今のぼくには備わっているわけです」
自家を背にし、きまじめな息子の表情で、正気の英次ほど難物なのを雄吉にこの時になって初めて、雄吉の経験則が嬉しく知らせている。
(つづく)
「ああ。愉快ですね、お父さん」
英次はそういった時、自家の小さな門に十数歩の路上、何々会社社長宅の門灯を潜る若い女を横目に見て、つと足を止め、
「行く行くはずっと大きい家を立てましょうよ。ぼくは明日から、本当の会社へいくつもりでいます。だって弁護士の資格を持っているんですもの。それにいつだって優れた友人たちに恵まれていた、ぼくだったんですから」
英次は五年間の英次が大いに吹っ切れたように、背伸びをして見せるのだったが、雄吉は夢なら覚めずにあって欲しい心持ちを、内心ネアカの父親に立ち戻ってふくらませていた。自家の通りを辿って吹いた夜風が涼しく、心地よく雄吉の顔と白髪頭に触れて行った。肉体はあってなくて、血は頭にのぼりつめたようであり、門灯の明かりに顔が紅潮しているのであった。英次の正気をその言葉が確信させている。今朝の吉兆がまさしく当たっているとふと有頂天になるところだったのだから。「英次はもともと頭のいい息子」といって踊り出しかねない、ネアカな父親に立ち戻ったのは幾年ぶりか知らん・・・・・・と雄吉は思った。
「それはそうとおとうさん。その家を守る軍隊が必要だった。つまり知恵と労働の軍隊が、けれども今のぼくには備わっているわけです」
自家を背にし、きまじめな息子の表情で、正気の英次ほど難物なのを雄吉にこの時になって初めて、雄吉の経験則が嬉しく知らせている。
(つづく)