50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

とその時だった。雷鳴が・・・

2015-01-29 20:09:09 | 小説
とその時だった。雷鳴が、男には猛禽めく雷鳴が降ったのは。女らの声と雷鳴と。と男は生来の怖がりだが、一瞬立ちつくしてしまった風でも、女の声に助けられたもので、
「さいわい雨はなさそう」
遠のく雷鳴で、男はピノキオの図柄のベンチにどっかと腰かけていた。
女が、砂場で黙然と遊ぶ子らに駆け、イチョウの梢に小さい蜘蛛の巣を見る。男は女を目で追った。とっさにクモが打ち落されたらしい・・・・・・大都会の蜘蛛。マンションの谷間、遠のく雷鳴、それでもそよぐ風が初夏のあの香を運んでくると、男に蜘蛛を思う余裕を生むようだった。彼はふといっている。
「仕様がない。クモは巣を張れば、それは獲物がかかるかも知れまいが、命あってのモノダネ・・・・・・」
そう男は巣を張らないで生きたがった。強く、
「この方が第一安全だろう。ぼくの方がさあ」
という呟きを目線の中に泳がせる。

(つづく)