ある日のぶらさがり記者会見で、平助が景気の良い打ち上げ花火を上げた。
それは今後の政策活動指針としての具体的目標をスローガン化したものである。
その名は『プラン・シェア40』
確かにネット政府は国民アンケートで今後の重点取り組み目標策定に当たっての国民の要望調査発表をしている。
平助内閣はその流れに沿って具体的活動方針を明文化し、国民に示す事は職務の範疇から逸れてはいない。
だがその内容は、具体的目標値として職務を超え、踏み込み過ぎている。
しかもその内容は、第四代平助内閣の任期一年で完結できる内容とは言えない、壮大な取り組み方針であった。
マスコミはこの派手な打ち上げ花火に素早く反応、真意を問う取材合戦が始まった。
そもそも『プラン・シェア40』とは何ぞや?
分かり易く云うと日本がかつて得意とし、日本経済を牽引していた産業の各分野を凋落から救い上げ、再び国家の柱として復活させようとの取り組みの事。
その具体的明確な目標値を各分野別で、世界シェア40%を達成しようというものであった。
例を挙げると、半導体・造船・自動車・テレビディスプレーを中心とした家電製品・次世代スマホ等の携帯電話・純国産OS『トロン』をメインとしたPCなどの電気駆動メカ製品・航空機産業・先端技術の特許件数などの各分野である。
これらの各分野のシェアを40%に引き上げるべく、育成を政府として後押しする集団護送船団の形成こそ、将来の帰趨を制する鍵であるとの結論に達した。
故《ゆえ)に近年日本近海で発見されたエネルギー開発や鉱物資源に頼らず、また水素変換技術に偏重することなく国内産業全体を押し上げ、再び継続的国力増強を果たすには、国民ひとりひとりの奮起が絶対必要条件であると考え、敢えて政府の方針として発表したのだった。
平助は具体的内容と詳細説明の場として設定した記者会見の場は、衆議院本会議場であった。
敢《あ》えてこの場を説明の場として選んだのは、確固たる政府の決意であり、平助内閣一代で完結するのではない、数代先に至るまで継続する国家プロジェクトであるとの国の決意を国民に示すための重要な意義を持っていた。
だから通常国会開幕の第一声のタイミングでの平助内閣の声明に、この『プラン・シェア40』の国民向け説明として演説する事にしたのだった。
国民の皆様、私竹藪平助が何故、ネットアンケート結果より一歩踏み込んだこの計画を公表したのか?これからその説明をいたします。
近年日本近海で発見された資源エネルギーは膨大な埋蔵量であります。
また、水素のエネルギー変換の新技術を商品化・流通システムの確立の流れを見ると、それらを活用するだけでも、これからの日本の国力復活を果たす重要な要素として輝ける未来を想像できます。
しかし、それだけに頼るのが日本人の国民性に合致した政策と云えるのでしょうか?
ちょっと失礼な事例になりますが、中東の産油国を見てください。
彼らは自国で産出される石油資源のみに頼り切り、自前の産業育成に目も向けていないのでしょうか?
いえ、そんな事はありません。
でも有効な産業の育成ノウハウを持たず、何をどうしたら良いか分からないから遅々として進展しないでいます。
彼らも必死です。でも目に見える結果がなかなか出せないでいる。
しかし彼らは諦めず、気概を決して捨てていません。
それが彼らの今の実態であり、状況なのです。
それに対し日本は、無資源の状態から明治維新以降、近代国家の仲間入りを果たし、戦後は世界第二位の 経済大国にまで上り詰めています。
これは自画自賛ではなく、歴史的事実です。
つまり私たちの先人は、そうした偉業を成し遂げる経験をしてきました。
それに比べ、現在の私たちはどうでしょう?
様々な要因からGDP規模を縮小させ、世界順位も落とし続けています。
だからと云って私は昔のプライドにしがみつき、GDP世界第二位の地位を取り戻そうと云っている訳ではありません。
むしろそんなのは驕りに繋がり、増長した鼻持ちならない人を増やすような負の結果しか齎さないと考えています。
だからスローガンを敢えて世界GDP順位アップにしませんでした。
ただ、奮起は必要だと思っています。
もう少しでアメリカに追いつき、GDP世界一の順位も目前に迫っていた勢いが失われて以降、日本人は何だか諦めムードや沈滞ムードが支配し始め、無気力になってきたように思います。
以降、どれだけ順位を落とそうとも、あれだけ輝いていた花形産業が落ちぶれ、消失しても何も思わない社会。
そこは中東産油国の国民と対照的ですね。
自分の収入がどんどん減り続け、重税に悩み、各種ハラスメントに怯え、居心地の悪い居場所しか無い、自信を持てないメンタルなど。
いつしか仕方ないと思っていませんか?
諦めていませんか?
現実逃避していませんか?
明るい未来を見いだせないのは自分のせい?
でも自分の一生は、かけがえのない自分のモノ。
残りの人生を諦めで過ごし、死を待つのですか?
それで良いのですか?
人はそれぞれ背負うものは違います。
高みの目標を達成するため、日々努力している人。
寝たきりの生活から自力で起き上がれるよう努力し、自立を目標にしている人。
家族のため、必死で働く人。
人々は様々な障害を乗り越え、日々生活しています。
今の日本を見ると、全体に沈滞した雰囲気に染まっています。
生活水準の落ち込みや、国力の低下を数字が証明し表しています。
だから私は国民の皆様に向け、敢えて訴えかけます。
尚一層の奮起を!
昔のモーレツコマーシャルにあった『24時間戦えますか?』なんて極端な要求をしようと思っているのではありません。
具体的な理想や目標を高く掲げ、昔の日本人が世界に誇る事業を達成してきたような体験を今の私たちが再現すべく、今一度頑張ってみてはいかがでしょう?
と云っても、『プラン・シェア40』に掲げた特定産業の勃興のみに拘って欲しいと呼びかけているのではありません。
今自分の前に立ちはだかる壁を乗り越え、前進する確固たる意思を持って欲しいのです。
あなたの前の壁がどんな壁であっても、他人から見てどんな壁であっても、あなたにしか乗り越えられない前進の証なのです。
突然ですが皆さん、自分は野球やサッカーなどのスポーツ選手だと想像してください。
あと一球、あと一打、あとひとゴールで勝負が決まる。
あと1センチ、あと1秒で勝負が決まる。
自分の次の行動如何で勝負が決まる。
意を決し、眦を上げ、正面から挑戦し、全力で結果を受け止める。
そうした奮起の決意と行動が自分を動かし、社会を動かし、結果として国家が動くのです。
そうした意味で『プラン・シェア40』という具体的で分かり易い目標を、国家の立場として掲げました。
目の前の困難、何するものぞ!!
そうした気概を持って欲しく、このスローガンを策定し、国民の皆様にご提示申し上げます。
と、まあ、意思薄弱で無力な私が偉そうに一段高いところから言っているが、お前が言う?
皆さまそうお思いになるでしょう。
私にも挫折の経験は無数にあり、地べたに這いつくばって涙を流したことが有りました。
そして私が首相に選任されそうになった時、私は政府の担当官に質問しました。
「どうして私が選ばれたのですか?私には何の取り柄も無いぐうたらな男に過ぎません。
競争が苦手で、辛い事からも目を背け生きてきました。
そんな私の何処に首相の資質があると云うのです?」
そうしたら彼は云いました。
「そうしたあなただから適任なのです。
あなたは御自分が取るに足らない、一般の弱く臆病な庶民に過ぎないと思っているようですが、そう云う人材が一念発起しこの国のリーダーとして先頭を切って戦う姿勢を持つことが重要であり、首相の資質なのです。」
(本当はこの取るに足らない、の言葉のあと、この担当官板倉は、顔に締まりがない、服装にセンスが無い、足が短い、女性にモテそうもない、といった余計なデスりもさりげなく言っているが、ここの部分は省略)
更に続けて
「あなたは誠実な人です。そして正直な人です。
人に負けない挫折と苦労を経験してきた人です。
あなたには人の痛みを察し、何とかしたいと自分の感情を突き動かす人です。
だからそういう人を国家のリーダーとして掲げ、国民のための明るい社会を築けるよう、人事委員会が取り計らったのです。」
そう言って説得されました。
私は何故か妙に納得してしまいます。
私は小心者で狡く、無力な小市民に過ぎません。
でもそんな私でも適任だと言ってくれたのです。
だから私は奮起しました。
私のような何処にでも居る一般市民でも頑張ればできる職種『内閣総理大臣』を身をもって証明する事が、後に続く人々に対する責務だと思い、そう云う意味でも国民の皆様の前で自分をさらけ出し、表明しました。
その想いを察し、受け止めていただけたら幸いです。
この一件の舞台裏の一幕
平助がこの演説をぶつ前のぶら下がり会見で大きな波紋を興し、事前に知らされていなかった板倉には当然烈火の如く叱られている。
「平助さん、何ですか、あれは?」
とぼけ顔の平助は平然と聞く。
「あれって何ですか?」
「あれって、あれですよ!」
「だから、そのあれって何?」
「あなたがぶち上げた『プラン・シェア40』とやらですよ!
元々あなたがトボケた顔してるからって、当たり前のようにトボケないでください!」
「あぁ、あれね。国民ネットアンケートの要望を見ていてね、多くの国民の沈滞ムードを感じたの。
だから一発、景気づけにね。」
「景気づけにね、って、アータ《あなた》、自分の言っていることが分かっているんですか?
あんな大掛かりなプランを思い付きでぶちまけるなんて!どうするんですか?
今後どうやって話を進めるんですか?
国が本気で実行するとしたならば、綿密な市場調査と実行計画やその工程を策定しなければいけないんですよ!どうするんですか?」
「アッ!『どうするんですか!』って二度言った!
出たよ!板倉さんの『どうするんですか!』病!
そんなに僕を追い詰めないでください。
どうせいつかやらなければならない事なら、今から始めれば良いじゃないですか。
今からプラン策定の専門部会を作り、市場調査も、その分析も、行動計画も進めて行けば良いじゃないですか。
どうせ私の代で達成できる訳ではないし。
「・・・・アータ《あなた》ねぇ・・・。」
呆れてモノが言えない板倉であった。
そして家に帰るとカエデが
「その話、面白そうね!私も乗った!!」
「カエデ・・・、「私も乗った」って、カリブの宝探しじゃないんだよ!何に乗るんだ?」
「だから専門部会を作るんだろ?私もそのメンバーに入れてもらうと云う事よ。」
「専門部会って・・・、まだ何も決まっていないけど、そこは頭の良い人を結集させる部署になるんだよ。どこぞの貧乳の行くところじゃない事ぐらい分からない?」
「どこぞの貧乳って・・・、誰が貧乳じゃ!こんな豊満なスタイルの私に対して失礼な!!
大体その部会メンバーと貧乳の何処に関連性がある?エッ、エッ?
それに私って頭良いじゃない?
少なくとも平助より成績は上だったよね。」
「あぁ、僕はカエデより頭の悪い総理大臣ですよ!ゴメンアンサイね!!
分かったよ!好きにして。でも選ばれるかどうかは関知しないよ。」
どうせ選ばれることは無いとタカを括る平助。
しかしカエデは部会メンバーとして選出された。
但し正式メンバーではなく、お茶くみや会議場サポート要員として。
(これはカエデに頼まれた(脅された)板倉の配慮だった。)
つづく