サムスンはそんなに甘い会社ではないはずだ──。
経営再建中のシャープは6日、韓国サムスン電子と資本提携をすると発表した。サムスンの日本法人を引受先とする第三者割当増資を実施(1株290円)し、発行済み株式の約3%に当たる104億円の出資を受けることになる。
資本増強に向けての前進と受け止められ、市場ではシャープの株価が急上昇。一時356円と2割近くも上がり、約1カ月ぶりの高値をつけた。
実のところ、世界最大のテレビメーカーとなったサムスンは、以前からシャープの上客だ。
生産能力を持て余している亀山第2工場は昨年、「担当役員がサムスン詣でを繰り返して、月産30万台以上(32型テレビ用)の受注を決めた」(シャープ関係者)ことで、ギリギリの稼働率を保っている。
また、省エネルギーに優れた“虎の子”の液晶パネル「IGZO(イグゾー)」も、すでに「サムスン製のパソコン向けなどに生産が内定している」(業界アナリスト)ため、亀山第2、堺工場という主力工場のざっと3割がサムスン向けで埋まっているのである。
かつての宿敵ではあるものの、「大口顧客から出資を受けるのは自然なこと」と、サムスンの出資を経営再建への前向きなニュースとして受け止める社員すらいる。
しかし、したたかなサムスンの狙いは他にもありそうだ。
「サムスンが示した複数の協業シナリオに、複写機事業が含まれている」と、複数のシャープ関係者は不安な胸中を明かす。 シャープは電卓を主力製品としていたことから、オフィス向け事業に地道に取り組み、複写機も40年以上の歴史を持つ。部門の売上高は約2900億円、利益率は7.2%の優良事業に育っている(2012年度通期見込み)。
そしてこの複写機こそ、今や日本メーカーが世界シェアを独占する数少ない領域の一つだ。
調査会社のIDCによると、複写機の世界シェア(12年、A3判対応機種)では、1位リコー(19.3%)、2位キヤノン(18.0%)、3位ゼロックスグループ(16.5%)に続き、シャープは5位(9.7%)につける。
年間何万枚と印刷しても壊れず、紙詰まりもしにくい緻密な機械構造、素早く書類を読み取る光学部品と半導体技術、そしてトナーなどの化学材料は、各メーカーの「秘中の秘」。さらにサービス網がなければ企業向けのビジネスはできない。
日本のお家芸を結晶させた商品だからこそ高い利益率を維持できており、プリンタ事業に注力するサムスンもこの領域ではシェア1%未満と相手にならない。
そんなサムスンが溺れるシャープに垂らした糸は、再建への命綱か、それとも“獲物”を狙う釣り糸なのか、その結果は近いうちに明らかになるはずだ。
一部 (「週刊ダイヤモンド」編集部 後藤直義)引用
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