ひねって・焼いて・陶

陶芸の様々な技法、釉薬、お会いした陶芸家の方々の話等々、私が陶芸で学んだこと、発見したことなどを綴ります。

型で作る酒器 その4 仕上げ そして まとめ

2015年06月27日 | 制作現場
口縁を手で仕上げた後、内側の接合部が盛り上がっているのでそれを指で仕上げます。指が届かない下の
方は指に代わる道具で仕上げます。これは丸棒の先に削った木の球を付けそれにスポンジを巻き付けた
ものです。少し湿らせて使うと指先に近い感覚で仕上げが出来ます。名付けてフィンガーエクステンション。



下の画像は型を半分外したところ。本体の下端と底との境目に継ぎ目が残るのでそれを
仕上げます。また、型の継ぎ目も同時に仕上げます。仕上げは真鍮ベラで飛び出した部分を削り、
シリコンベラで表面をならします。僕はアメリカのポリマーリブ(Polymer Rib、日本ではヒュース・
テンとうい店がカラースクレイパーという名前で販売)と呼ばれるシリコンベラを愛用しています。一般
に市販されてるゴムベラは安いのは良いですが、初めからエッジに傷が付いていることもあり、仕上げ
たら作品に筋が付いたりするので要注意です。真鍮ベラは厚み0.15mmの真鍮板を使い易い形に
切ったものです。市販のステンレス製ヘラは硬くて小さな丸みには合いませんが、これは良く曲がります。



ここで紹介した石膏型の手法はこうした食器作りには向いていないと先輩に言われました。この手法は大型の
1点ないしは数点の付加価値の高い作品を作るのに向いていて、こうした形の食器を数作るなら鋳込みの方が
向いているとのことです。確かにこの仕上げの手間は結構かかります。プロとして実用の器を作っている
限りは効率も大事。そして作る効率を考えると一般的陶芸手法での形の自由度はかなり限られてきます。
例えば轆轤作りの急須の形状を見ると作家の作品と言えどもその形状はけっこう似通っています。もちろん
限られた範囲の中で優れた表現も出来る訳ですが、僕の心情としては形の自由度が欲しい。それは単に形に
変化を求めるのではなくて、理にかなった中で形に特長を持たせたい。しかし、かと言って形の自由度が得
られる鋳込みは陶芸とは作業が全く違います。先輩からは、鋳込みの仕事と陶芸の仕事を両立させている人
は誰もいないとも言われました。うーん、どうするか・・・・?!取りあえずこのやり手法をもう少し進化
させてみようかと思います。


型で作る酒器 その3 タタラの成型

2015年06月23日 | 制作現場
さて、いよいよ成型です。平らなタタラを皺が入らないように石膏のメス型に当てはめるのはかなり
難しいです。そこで予めオス型を作っておき、それである程度成型してタタラを石膏のメス型に当
てはめ易い形にしておきます。オス型の大きさはタタラの厚み分(5mm)だけ成型する形より小さく
しておきます。写真のオス型は轆轤成型で作った酒器の完成品、つまり原型より12%ほど収縮した
ものを使っています。表面に薄い布(要らなくなったシーツなど)を両面テープで貼り付けているので
粘土がくっ付きません。
タタラ作りの場合はこの布が大変に役に立ちます。タタラの下に敷いて置くと自在にタタラを動かせる
し、時間が経ってもタタラに付着することがありません。ローリングピン(パン生地用のローラー)
などでタタラを伸す時にもタタラの上に布を挟めばローリングピンに粘土が付着することがありません。


下の写真は、右側がオス型にタタラを載せてざっと成型した状態。オス型を保持する為にスタイロフォ
ームの台に載せてあります。これを左側の石膏メス型に当てはめます。


しかし、その前に予め石膏型の底の角に少し粘土を付けて置きます。この部分はシャープで折れが強い
のでタタラが型に追従しきれないからです。


タタラを石膏型に載せたら、オス型は押さえ付けないで直ぐに外します。


次にスポンジでタタラを丁寧に押さえ付けて型に馴染ませます。


トリマーでタタラの外周をトリムします。




接合部にドベを塗り左右の型を合わせてゴムバンドで固定。




型の上面にはみ出た粘土をワイヤートリマーで型の上面に沿ってトリムします。

型で作る酒器 その2「石膏型と自作トリマー」

2015年06月17日 | 制作現場
原型を元に石膏型を左右作ります。石膏の型取りの方法は広く一般に紹介されているのでここでは省略します。
次に出来上がった石膏型に溝を掘ります。何のための溝かというと、左右の型に置いたタタラの接合部を実際
に必要な長さよりも数ミリ長くカットするためのガイドとなる溝です。接合部が数ミリ長いことにより、左右
の型を合わせた時に接合部に圧力がかかるのです。下の画像の溝は三角断面で深さ5mm、幅9mmで稜線から
1mmひかえています。溝は先の尖ったエグザクトナイフなどで掘ります。ちなみに、この溝を型に付ける技
法は陶磁器デザイナーの栄木正敏さんに教えていただきました。



タタラをカットするツールは自作のトリマーです。木材を加工して本体を作りますが、前述のガイドとなる溝に
ぴったりはまる形状にしてあります。本体の外周にはナイフで溝を刻んだ上でその溝に0.36mmのステンレ
スワイヤーをはめて巻き、両端をワイヤー止めのアルミ管でかしめます。要所要所を接着剤で固定して出来上
がり。これを溝に沿って移動させるとタタラの端末をたやすく一定にカットできます。このワイヤートリマー
は用途に応じて色々なものを作っています。”技を磨く前に最適の道具を作って仕事を簡単にする”というの
が僕のモットーです。技を磨くのはそう簡単では無いということもありますが、こうした道具を作ること自体
が愉しみなのです。材料さえ揃えればこの程度の道具ならば10分ほどで作れます。適切な道具を準備して
おけば後々の作業はずっと効率化します。


石膏型で作る酒器 その1 「原型をインダストリアルクレイで作る」

2015年06月15日 | 制作現場

タタラを石膏型で成型して酒器を作る技法を紹介します。
下の写真がその完成品です。

先ず、酒器の原型を作ります。私の場合、インダストリアルクレイで作ります。インダストリアルクレイ(以下クレイと略す)は、陶芸の世界ではあまり、と言うかほとんど使われていない材料ですが大変に便利なものです。これは自動車や家電のデザインモデルを作るのに使用される合成粘土で、油土とか油粘土と呼ばれるものとは異なり、非常に細かな細工ができて、常温では硬いのが特長です。そのメリット、デメリットを以下に挙げます。

メリット:
・常温では硬く、金属の道具などで削ることが出来、ディテールの細工ができる。
・形状を修正する時に足して盛ることが容易。
・異物さえ混入しなければ何度でも繰り返し使えるので材料としての無駄がない。
・油を含んでいるので石膏での型取りがしやすく離型剤が要らない。
デメリット:
・使う前に暖めるという準備とそのための器具が必要。
・道具や机などにクレイが付着し易いので使用後に溶剤などで手入れが必要。
・指先に付いたクレイは指紋の中まで入り込むので手袋が必要。
・暖めたクレイを手袋無しで指先で強く擦り続けると火傷することもある。
 メーカーは手袋を使うように勧めているが仕事はやり難くくなる。

クレイは専用のクレイオーブンもしくはクレイシェーパーと呼ばれる土練機で60度に暖めて柔らかくして使います。しかし、どちらも高価なので僕は炊飯器の保温モードで暖めています。但し、保温モードで放って置くと60度を超えてしまうので、15分ピッチの24時間タイマーに接続し、適温になったところで15分冷やす、30分暖めるのを繰り返して使っています。60度を大きく超えると粘土は溶けて液状になりガスが出て成分も変化してしまいます。インダストリアルクレイの価格は620gで約1500円と石膏に比べると5倍くらいしますが、何度も繰り返し使えることを考えるとむしろ経済的です。



原型作りの概要は以下の通りです。
使用するクレイの量を必要最小限にするため、木材や発泡材などでコア(芯)を作ります。コアは実際の形状よりおよそ10~20mmくらいひかえた形状にします。
次にその周囲に、暖めて柔らかくなったクレイを空気が入らないように注意してこすり付けます。実際の形状より大きめにしてから色々な道具でクレイを削って成形します。クレイの足りない部分にクレイを盛るには、予め下地のクレイをドライヤーで暖めておいてからその上に柔らかいクレイを盛り足します。



普通、陶磁器用の型の原型は石膏で作りますが、インダストリアルクレイが何故使われないのかはよく分かりません。磁器鋳込みの方とお話したことがありますがその方もインダストリアルクレイをご存知で無かったので理由は分からずじまいでした。陶磁器産業と一般の工業の間には行き来が少ないからかもしれません。