最近のマツダは目に見えてブランドイメージが高くなったと感じる。
この本を読んで共感したことの一つは、著者前田氏はマツダのブランド作りをするにあたってマーケッティングの視点からではなく物作りの視点から取組んだこと。日本はかつて1980年ごろまではひたすら一人前の良い製品を作ることを目標にして、それが結果として実力の向上に繫がって行ったのだが、一旦一人前になると、より激しい競争の中で他社に勝つための物作りが目標となり、効率よく車を開発し、効率よく売って会社の業績を上げることが経営者の大きな関心事となった。その中で、近頃業績を上げるために仕事の手抜や偽装が始まっているのはとても悲しい。製造業は物作りの心が大事であり、氏はそこに重点を置いている。アップルやダイソンが高いブランドを築けたのも経営者の物作りに対する強くてしっかりした姿勢があるからだと思う。
もう一つ共感したのは、氏が工芸に着目している点だ。工芸は物作りの原点であり、工芸家には純粋な物作りの姿勢を持っている人が多い。自分がデザインの現場にいた時は新しいものや海外のものに目が行って、工芸にはそれほど関心が無かったのだが、いま工芸の世界に入ってみると優れた工芸作家の造形力や物作りへの意識の高さを多々感じるようになった。その一方で、最近の新型車の造形にガッカリし、作り手の考えに疑問を感じることがある。日本は世界屈指の工芸大国であり、そこから得られるものは色々ある。デザインというのは自由であり、個人の好みも多種多様で良いのだが、その中でも高みを目指すなら製造業の作り手が工芸を良く見るのは良いことだと思う。
企業の中でブランドを作る難しさは並大抵ではない。自分自身がそうした場で非力だっただけにつくづくそれを感じる。それゆえ、これからのMazdaのデザインに期待が膨らむ。