河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

61 / 闇

2023年07月05日 | よもやま話

ネオン瞬く歓楽街の居酒屋で、顔見知りになった常連客の四人が、話し込んでいるうちに意気投合した。
「ええ、皆さん海釣りに行かはりますのかいな! どないです、私、ボートを持ってますんで皆でいきまひょ! ちょうど明日は新月。新月と満月の日は、満潮時と干潮時の潮位の差が大きい大潮でぎょうさん連れまっせ!」
次の日の夕方、港に集まった四人は意気揚々とボートに乗った。
沖に出て、エンジンを止めて竿を出した。
潮まわりがいいのか、思いのほかよく釣れる。
みんな夢中になっているうちに、すつかり暗くなった。
用意のランタンを灯し、ビールを片手に竿をだした。

そろそろ帰ろうとしたとき、潮の流れが変わったのか、かなり沖に流されていることに気がついた。
新月で月明りは無く、まったくの闇夜である。
方角がまったくわからない。
ランタンをかかげて必死に方角を知ろうとするが見当がつかない。

そのうちに、四人の中でいちばん年配の男が「灯を消せ!」と叫んだ。
ぽかんとしている三人に男がもう一度叫ぶ。
「灯を消すのや!」
その気迫に押されてランタンを消した。
真っ暗闇になった。
しかし、闇に目がなれてくると、全くの闇と思っていたのに、遠くの方に街明かりがかすかに見えてきた。
それで、ようやく方角がわかり、四人は無事に帰ることができた。

闇の中でしか見えないものがある。
だのに、四人は闇を恐れて日々ネオン街をさまよっていたのだ。
それに気づいた四人は、ネオン街に通わなくなった。
※昔、通っていたスナックのマスターから聞いた話である。

コメント
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