ひらひらと猫が乳呑む厄日かな / 秋元不死男
子猫がぺろぺろと舌を動かして穏やかにお乳を飲んでいる。厄日(やくび)にもかかわらず。
季語は「厄日」で秋。
今年は、昨日の9月1日が厄日だった。
立春から数えて「二百十日」にあたる。
五代将軍綱吉の頃、幕府天文方(てんもんかた=暦の係り)であった安井春海が、二百十日に釣りに行こうと漁師に船を頼むと、
「この時期は海が荒れるのでやめた方がよろしゅうございます」と漁師が言う。
それから二百十日の前後に注意していると、毎年大嵐が起きた。
これは一大事と、「二百十日」を暦に書くようになったという。
大嵐は台風のこと。
元は中国語で、台湾を通ってやってくる大嵐を「台風(颱風)」と言っていた。
それが英語になって「typhoon(タイフーン)」。
その英語が明治になって日本に伝わり「台風」が使われるようになった。
江戸時代は台風と言わずに「野分(のわけ)の風」と言っている。
鶏頭の皆倒れたる野分かな / 正岡子規
稲が実るこの時期に、野分はまことにやっかいである。
そこで、農家にとって二百十日は厄日になってしまった。
漢字の「厄」は、厂(がけ)の下に人がうずくまっている形。
トリプル台風がうろうろしているが、大きな厄日にならないことを祈る。
この厄日の時期に開催される富山県八尾の「おわら風の盆」は、台風の被害がなく豊穣であることを祈る祭りでもある。
♪八尾よいとこ おわらの本場 <キタサノサードッコイサノサ> 二百十日を オワラ 出て踊る♪ (越中おわら節)
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