「我が家の近くで奇妙な妖怪が農民に悪さをしている。満開の桜を見がてらに退治にこないか」と高校時代の友人に誘われて、備前の国へ旅に出た。
昼過ぎに大坂を立ち、高速で摂津を抜け播磨の国へ。
まずは池田家52万石の姫路城へ行き藩主輝政公にご挨拶。世界遺産とあって伴天連の旅人のなんと多いことか。
早々に姫路を出てバイパスで備前へ。和気(わけ)という地に至る。ここは奈良時代末の貴族、和気清麻呂の誕生地である。清麻呂は、神護景雲3年、僧道鏡が皇位を奪わんとする時、宇佐八幡宮に勅使として詣で、神託を受け復奏、銅鏡の野望を阻んで国家の危機を救った人物である。
その霊験にあやからんと清麻呂を祀る和気神社に参拝する。
例年になく桜の開花が早かったので、ここの神社の桜もわずかな花を残すのみ。
「一週間前は、満開で綺麗あったんやけどなあ」
神社からしばらく走って和気鵜飼谷温泉の湯につかる。アルカリ性単純温泉だが、イオウ分を含んでいるためか、ねっとりと体にまといつく泉質。美容にも良く、特に神経痛・関節痛・筋肉痛などに良いとされている。
湯からあがると黄昏前。途中にある川の堤防のあちこちには桜並木が整備されているのだが、どれもが「一週間前は」の桜であった。
夕食はステーキ屋と言ってくれたが、「肉は50gほどしか食べられない」と言うと、ならば惣菜を買って家飲みにしようということになる。
スーパーに寄って友人宅へ。戦後すぐに建てられた民家であろう、天井の太い梁(はり)には碍子(がいし)という電気の線がむき出しに取り付けられている。
蛍光灯には松下幸之助が発明したという二股ソケットが付いている。なんとも懐かしさの漂う家である。
到着するなり、まず一杯。一杯が重なりその夜は酒につかる。
次の日はあいにくの雨。
妖怪退治はあきらめて津山の街並み見物へ。
途中、悪しき獣の手配書があった。
その夜も湯郷温泉と酒につかり、「一週間前は」の桜を見ながら、来年こそはと心に秘めて備前の国を立った。