四十代のとき、少しばかり書道を習ったことがある。
ちょっと小粋な感じのする初老の女の先生だったのだが、生粋の江戸っ子で、言うことは手厳しかった。
「なんで、そんなに慌てて書くの? なにか用事でもあるんですか?」
「どうして、押さえる時にそんなに力をいれんの? 団子みたいになるでしょ。お腹でもすいてんの?」
「どうして右にはらう時に筆の向きを変えるんですか? 縦のままの方がきれいな三角になるでしょ!」
こんちくしょうと思い、ある日、何枚も清書を重ねて、渾身の一枚を提出したとき、
「あーあっ! 上手に書いてるのに、なんで半紙の真ん中にこんなに小じんまりとおさめるの? あなた、字の黒い部分ばかり見てんのでしょ! 余白の白い部分も黒い字と同じくらいに大事なんだから。自分のことばっかり考えずに家族も大切にしなさい!」
これはけっこう身に染みた。
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