古今東西のアートのお話をしよう

日本美術・西洋美術・映画・文学などについて書いています。

映画 “怪物” “真実” カンヌ国際映画祭

2023-05-23 14:03:50 | 映画(レビュー感想)
第76回カンヌ国際映画祭
(5/16〜5/27)

マイケル・ダグラスとカトリーヌ・ドヌーヴが開会宣言

2018年の最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」是枝裕和監督など、日本映画の出品、受賞が話題になるカンヌ国際映画祭

今年は、コンペテッション部門で、是枝裕和監督の「怪物」、役所広司主演のヴィム・ヴェンダース監督「パーフェクトデイズ」、カンヌ・プルミエール部門に北野武監督の「首」、小津安二郎監督のデジタル修復版の「宗像姉妹」「長屋紳士録」の特別上映など日本映画関係の話題も豊富だ。

昨年の「ベビーブローカー」に続いてノミネートされた、是枝裕和監督の「怪物」、パルムドール獲得を期待しましょう
音楽は坂本龍一で、大島渚監督「戦場のメリークリスマス」の雪辱なるか
パルムドールの発表は最終日の5/27
・・・・・・・・・・・・
2019年ヴェネチア国際映画祭オープニング作品・「真実」是枝裕和監督

ジュリエット・ビノシュ、是枝裕和、カトリーヌ・ドヌーヴ
「万引き家族」2018年でパルムドールを獲得した是枝裕和監督は、翌年、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュを主演に迎え「真実」を撮る。

カンヌのグランプリ受賞は、この映画のためにあったのではと思わせるほど… 

私は「万引き家族」より「真実」の方が好きですね。


キャストに日本人は一人も出てきませんが、小津安二郎、成瀬巳喜男の匂いがする作品。

彼らの作品と同じように、ドラマチックな展開はなく、久しぶりに会った大女優の母と脚本家の娘の関係を、劇中劇(映画中映画)をまじえて静かに進行する。

35mmフィルムで撮影された、柔らかな画面の質感が美しい。

ストーリーは、
『世界中にその名を知られる、国民的大女優ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、自伝本「真実」を出版。海外で脚本家として活躍している娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)、テレビ俳優として人気の娘婿(イーサン・ホーク)、そのふたりの娘シャルロット、ファビエンヌの現在のパートナーと元夫、彼女の公私にわたるすべてを把握する長年の秘書─。“出版祝い”を口実に、ファビエンヌを取り巻く“家族”が集まるが、全員の気がかりはただ一つ。「いったい彼女は何を綴ったのか?」
そしてこの自伝に綴られた<嘘>と、綴られなかった<真実>が、次第に母と娘の間に隠された、愛憎うず巻く心の影を露わにしていき―。』
公式映画サイトより

大女優ファビエンヌ
チェーンスモーカーです…

「ひどい母親で下手な女優であるより、ひどい母親、ひどい友人でも大女優のほうがましでしょ。あなたが許してくれなくてもファンは許してくれるから」とファビエンヌは娘のリュミールに語る

さすがですね。(サングラスをとると、美川憲一に見える瞬間もありましたが!?)

分かり合う母と娘

この映画の見どころの一つは、ドヌーヴ、ビノシュ、イーサン・ホークの主役ラインと同じように、脇役を温かく見つめる演出が素晴らしい。


孫娘、ドヌーヴの秘書“リュック”、ドヌーヴの二人の夫、そして、劇中劇「母の記憶に」で“サラ”(亡くなったドヌーヴの妹)の再来と言われる“マノン”を演じるマノン・クラヴェルが魅力的。“サラ”と同じハスキーな声が印象的でジャンヌ・モローを彷彿とさせる。

また映画にはドヌーヴの「昼顔」へのオマージュが随所にあり、壁のポスター「THE BELL OF PARIS」、ドヌーヴが紅茶が“ぬるい”と何度も言うシーン、ドヌーヴが着る、サンローランデザインの女学生風ワンピース(のイメージ)も出てくる。

ファビエンヌは“サラ”の遺品であるこのワンピースを“マノン”にプレゼントする。


昼顔のドヌーヴ

マノン・クラヴェル



劇中劇の「母の記憶に」、ファビエンヌ(ドヌーヴ)がセザール賞を取ったという「ヴァンセンヌの森の女王」が物語の秘密を解き明かすモチーフになっている。

ファビエンヌの食堂に掛かる、尾形光琳「群鶴図」風絵画、「母の記憶に」のセットの折り紙などジャポニスムも画面のアクセントに登場。

映画は、ファビエンヌ邸の庭の樹木の紅葉シーンから始まる。35mmフィルムの画像が美しい。

和解した後、リュミール(ビノシュ)が、庭で「こんな電車の音がしたかしら…」と言うと「冬に葉が落ちると聞こえるの」とファビエンヌが答える。

庭でファビエンヌが「パリの冬空はなんて素敵なのかしら、見てごらんなさい」と言い、皆で空を見上げ、カメラは、葉の落ちた樹木を引いていく…

「海街diary」の頃に比べると、

映画の成熟度が高く、

小津安二郎作品のように、

軽妙で明るく、観終わった後に

暖かみが残る作品

★★★★★

お勧めします


「昼顔」「海街diary」は見ておくといいかも


ランキングに挑戦中
下のボタンを2つ、ポチッ、ポチッと押して頂けると嬉しいです!

 にほんブログ村 美術ブログへ


小説 ホテル・アイリス

2023-05-16 15:10:30 | 本(レビュー感想)


1994年に「密やかな結晶」「薬指の標本」を発表した小川洋子は、1996年「ホテル・アイリス」を発表する



小川洋子と映画主演の永瀬正敏


「密やかな結晶」で意図的に隠された性的表現は、「ホテル・アイリス」で解放される

物語は、海辺のホテル・アイリスのフロントに座る17歳のホテルの娘、泊り客だった老人と出会う…


『染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の 皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を 這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほ どいい。乱暴に操られるただの肉の塊となっ た時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ 出してくる......。 少女と老人が共有したのは 切なく淫靡な暗闇の密室寄る辺ない男女 の愛から生まれた、究極のエロティシズム。』文庫本背表紙解説より
サディズム、マゾヒズムの愛をテーマにしており、その表現は直截的で、「O嬢の物語」を思わせる

『・・・それを知るためには本箱のガラスを見るしかない。 両腕は手首で縛られ、背中へ回されていた。乳房はぶざまに押しつぶされ、形をとどめていなかったが、触れてもらうのを望むように乳首はうす桃色に染まっていた。膝を折り曲げている紐が、太ももと腰骨につながり、股間を大きく押し広げていた。 わずかでも閉じようとすると、紐がいっそうきつく締まり、一番柔らかい粘膜に食い込んできた。これまでずっと暗闇に閉ざされていた襞(ひだ)の奥に、光が当たっていた。』



【参考】
ハンス・ベルメール写真集より


伊藤晴雨 画譜より




『・・・男はさっきまで暗闇にあった指を、わたしの類で拭った。ねばねばしたもので顔が濡れた。

「気持いいか?」

男は聞いた。 わたしはあごを揺らした。 うなずくつもりなのか、否定するつもりなのか、もうどちらでもよかった。

「気持いいんだろ?」

男は四本の指を一気に口の中へ押し込んできた。 わたしはむせて嘔吐しそうになった。

「さあ、どんな味がする?」

わたしは舌でそれを押し出そうとした。唾液が唇の端を伝って流れた。

「よだれが出るほどいいのか?」 わたしは懸命にうなずいた。

「淫乱」

男はもう一度叩いた。

「はい、いい気持です。お願いですから、もっとやって下さい。どうかお願いします」』

ホテルアイリスより抜粋




・・・ん〜どうなんでしょう?
「密やかな結晶」の方がはるかにエロティシズムを感じる

文学でエロティシズムを表現するのは難しい

そもそも、文学のエロティシズムは言葉によって、無意識の沼の底に投げ込まれた小石を拾い上げられた時に生まれる
意識レベルのエロは“ポルノ”あるいは、経験によって艶笑譚になるだろう
蓮見重彦の「伯爵夫人」やサドのある種の作品はまさに艶笑譚である
その意味では、ホテルアイリスのラストは「文字通りの“オチ”」になって笑える



「密やかな結晶」と読み比べて
みましょう

★★★☆☆

ラストは対照的だ


【参考】映画 ホテルアイリス



ランキングに挑戦中
下のボタンを2つ、ポチッ、ポチッと押して頂けると嬉しいです!
 にほんブログ村 美術ブログへ


大谷翔平 5勝目、3ランホームラン!!

2023-05-16 13:23:58 | スポーツ
前回登板は

7回103球、被安打6、四死球2、

奪三振7、3失点


で今季初黒星•́⁠ ⁠ ⁠‿⁠ ⁠,⁠•̀


打者大谷もノーヒット



今日は3番投手兼DH



7回98球、被安打4、四死球2、

奪三振5、5失点 、ホームランを3本打たれるが…



二刀流の本領発揮!!




3ランホームラン!!


ヒット2本、3塁打あと2塁打が出ればサイクルヒットの大活躍

6打席4安打1四球
自らのバットで勝利を呼び込んた


エンゼルス9対5オリオールズ



大谷翔平5勝目!!



しかし、自分に厳しい大谷翔平は、3ホーマー5失点には納得していない次はスッキリ勝ちたいね(⁠◠⁠‿⁠◕⁠)




ランキングに挑戦中
下のボタンを2つ、ポチッ、ポチッと押して頂けると嬉しいです!

 にほんブログ村 美術ブログへ

小説 密やかな結晶

2023-05-15 12:59:22 | 本(レビュー感想)

小川洋子(1962年〜) 岡山市生まれ
は、1990年の「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞
以前、1994年の「薬指の標本」を読んで感動しましたが、同年に「密やかな結晶」も出版されていたんですね…

物語は、

『その島では、記憶が少しずつ消滅して いく。鳥、フェリー、香水、そして左足。何が消滅しても、島の人々は適応し、 淡々と事実を受け入れていく。小説を書くことを生業とするわたしも、例外では なかった。ある日、島から小説が消えるま では・・・・・・。 刊行から25年以上経った今も なお世界で評価され続ける、不朽の名作。』文庫本背表紙より



『その島では、記憶が少しずつ消滅して いく。』とは、島の人々に共通して、ある言葉とその概念が消えてしまうのです。例えば、「香水」だとすると、その香りはもちろん、何のためのものか、それにまつわる個人的記憶=物語まで消えてしまい、“小瓶に入ったただの水”になってしまうのです

住民は最初は戸惑い、懐かしがったりするが、“消えてしまったもの”は意味がない、しょうがないと、川に流したり、焼いたりして、二三日後にはそのことさえ忘れてしまい、誰も気にかけない

島の住民の中に少数だが記憶が無くならない特別な人がいる
記憶に関わる事を取り締まる「記憶狩り」を実行する秘密警察、に連行されて亡くなった“わたし”の母もその一人だ

毎日、何かが消えて行く島で
“わたし”の両親は亡くなり、兄弟もなく一人で暮らしている
“わたし”は小説家で、これまでに3冊の本を出した
3冊とも“何かをなくす”テーマだ

“わたし”が今書いている小説は、タイピストとその恋人の物語
“わたし”の担当の編集者R氏は、記憶をなくさない人だった
やがて、R氏は秘密警察にマークされ“わたし”が自分の家の秘密の部屋に匿うことになる…

小川洋子はこの小説を書くにあたって、「アンネの日記」をいつも手元に置いていたそうだ

ある日突然、ナチスドイツによって消されていくユダヤ人の記憶とユダヤ人自身
街の人々は、最初は理不尽さに憤ったが、次第に見て見ぬふりで無かったことと、無関心に慣れていく

アンネは、隠れ家で日記を書き、記憶を物語として残すことで、何もかも奪っていく「ナチス・ドイツ」へ抵抗した

「アンネの日記」が「密やかな結晶」の重要なモチーフになっている


私は一つの読み方として、

小川洋子は本質的に「エロティシズム」の小説家であり

密やかな結晶は、性的な言葉や

性的な表現を意識的に排除して

人間の無意識にあるサディズム、マゾヒズムを物語にひそませているのではないかと思っている それは、性的でもあり政治的でもある


“わたし”が書いているタイピストとその教師で恋人の物語では、彼によって、わたしの声が奪われ、言葉を打つタイプも壊れてしまう

彼によって塔の秘密の部屋に監禁され、彼が作った服を着せられ、煌々とした電灯の下、全裸にされ体の隅々まで彼にふかれる、彼が好きなように何でもされる、しかし、わたしはその部屋から逃げ出そうとはせず、ひたすら彼の登場を待っている

ついに、わたしは彼の言葉以外は理解できない、まさしく「彼のモノ」になってしまう


一方、小説家の“わたし”は、出産をひかえた妻がいるR氏を秘密警察から守るため、妻から引き離し、自宅の秘密の部屋に匿う
毎日、食事の世話をし、トイレの水をたし、体を洗うお湯を用意し、洗濯をする
書きかけの小説をR氏に見てもらうため秘密の部屋に行く

“わたし”はタイピストの小説を執筆していたが、ついに「小説」が消滅した
R氏は消えたものは、こころの奥底に沈んでおり(無意識領域)、頭で考えるのではなく手を動かして拾い上げる(自由連想法・自動記述)、精神分析医の手法で執筆をすすめる

島に地震は発生した日、“わたし”とR氏は結ばれる
“わたし”は秘密の部屋と会話のため繋がっているパイプに耳を添え、R氏がタライの湯で体を洗う音を聞き、R氏の体の部位を一つづつ思い出す…
サディズム、マゾヒズムが直接的な言葉を避け、端麗な文章で描かれる

作品には、精神分析の影が色濃く漂う、たとえば、“わたし”が書く小説の主人公は、七、八歳の時、従兄の男の子と廃墟の高い燈台の階段を上っていく、主人公の女の子は下にいる男の子にスカートの中を覗かれる事に気が気でないが、下を観ることが怖い… 「昼顔」のトラウマのようだ
フロイト、ユングならば、即座に分析し性的な意味付けを行うだろう

そして、人間が、生きるために必要な物語(化)がもつ重要性、“死に至るまでの生の称揚・エロティシズム”(バタイユ)と、モノ・無機質を志向する“死の欲動・タナトス”(フロイト)が描かれている
それは、川端康成が描く“魔界”にも通じる


いろいろな読み方ができる
小説であり、稀な傑作だと思う
★★★★★

ランキングに挑戦中
下のボタンを2つ、ポチッ、ポチッと押して頂けると嬉しいです!
 にほんブログ村 美術ブログへ


“古寺巡礼” 東京都写真美術館

2023-05-12 11:06:39 | 芸術作品鑑賞・博物館・講座・音楽会等カテゴリー

5/14(日)で終了する“土門拳の古寺巡礼”、雨にも関わらず、高齢者の皆さまが多かった
カメラファンの夫と付添の妻

写真展というものに滅多に行かない私でも、「土門拳(どもんけん)」という名前を知っている
その俳優のような名前の字面と響きのためだろうか…



初めての東京都写真美術館
壁には大写しの写真が…

ロベール・ドアノー 
パリ市庁舎前のキス 1950年
“おしゃれ”ですね


「古寺巡礼」の第一集が刊行されたのが1963年、東京都写真美術館で60周年を記念した“土門拳の古寺巡礼”が開催(3/18〜5/14)されている


『【土門 拳】山形県酒田市生まれ 

明治42年(1909 ) 〜平成2年(1990 )

リアリズムに立脚する報道写真、日本の著名人や庶民などのポートレートやスナップ写真、寺院、仏像などの伝統文化財を撮影し、第二次世界大戦後の日本を代表する写真家の一人とされる。また、日本の写真界で屈指の名文家としても知られた。

戦前から仏像行脚を続けた土門は、みずからの眼で選んだ古寺や仏像を徹底して凝視し撮影。建築の細部や仏像の手や足、口などをクローズアップで捉える独自のスタイルを貫いた。『古寺巡礼』の刊行途上、脳出血で倒れ、以後は車椅子生活になってからも不屈の精神で撮影を続行し、1975年、第五集で完結。

』引用元展覧会HPより


会場は全て撮影禁止のため写真はネット画像を借用しました

飛鳥寺 釈迦如来坐像面相
我国で造られた最初の仏像と云われる、修復を重ねたため全体像は醜怪であるが、土門はアーモンドの“目”だけを切り取った

唐招提寺金堂 千手観音立像部分


薬師寺東塔

神護寺 薬師如来立像
堂々たる体躯の平安前期の傑作
その迫力ある男性的面相


中宮寺 観音菩薩半跏像面相
女性的柔和な微笑み
クローズアップにすると木彫であることが分かる

浄瑠璃寺 吉祥天立像頭部
時の美しき皇后を写したと云われる
豊かな彩色がのこる美女


室生寺 十二神将(未神)頭部

室生寺 十二神将

東大寺戒壇堂 広目天立像面相
射すくめるような睨み
戒壇堂でもこれだけ近くでは見られませんね

三十三間堂内陣 雷神面相
俵屋宗達の「風神雷神図屏風」のモデルではないかといわれています

瑞泉寺開山堂 夢窓疎石坐像頭部
高山寺開山堂の明恵上人坐像頭部とともに学僧・芸術家でもある二人の柔和な表情が印象的

岡倉天心は飛鳥仏、天平仏を日本の仏像の最高峰としてきたが、平安前期「弘仁仏」の評価を水沢澄夫とともに高めたのが土門拳と言われる

現代美術家の杉本博司氏も日本独自の美意識が形成された平安前期の仏像を高く評価している
彼が所有する焼け焦げた平安仏は確かに優美であった

会場で買い求めた、写真集

自分では気づかない、仏像の魅力的部分や、アングルも参考にできる、
実用的仏像鑑賞のガイドブックとしても手元に置きたい

「自分の好きなものしか撮らない」という土門拳の意思は、
土門拳の目とレンズを通して、

仏像の美とエロスを我々に
見せてくれる

★★★★☆

最後の週末、お勧めします
 

ランキングに挑戦中
下のボタンを2つ、ポチッ、ポチッと押して頂けると嬉しいです!

 にほんブログ村 美術ブログへ