労働審判の答弁書において申立人の主張を否認する場合,否認の理由を記載する必要がありますか。
民事訴訟では,答弁書その他の準備書面において,相手方の主張する事実を否認する場合には,その理由を記載しなければならないとされています(民訴規則79条3項)。
審理充実の観点から否認の理由を答弁書に記載すべき要請は労働審判 においても変わりませんので,労働審判の答弁書においても否認の理由を記載すべきでしょう。少なくとも,重要な事実の否認については,それなりの理由を記載すべきです。
民事訴訟では,答弁書その他の準備書面において,相手方の主張する事実を否認する場合には,その理由を記載しなければならないとされています(民訴規則79条3項)。
審理充実の観点から否認の理由を答弁書に記載すべき要請は労働審判 においても変わりませんので,労働審判の答弁書においても否認の理由を記載すべきでしょう。少なくとも,重要な事実の否認については,それなりの理由を記載すべきです。
労働審判 の答弁書の「答弁を基礎付ける具体的な事実」(労働審判規則16条1項3号)の項目には,解雇 ,弁済等の抗弁事実を記載することになります(『労働事件審理ノート』)。
労働審判 手続の当事者は,裁判所(労働審判委員会)に対し,主張書面だけでなく,自己の主張を基礎づける証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地裁の運用では,労働審判委員には,申立書,答弁書等の主張書面のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。労働審判員は,他の担当事件のために裁判所に来た際などに,証拠を閲覧し,詳細な手控えを取ったりして対応しているようですが,自宅で証拠と照らし合わせながら主張書面を検討することはできません。また,労働審判官(裁判官)も,限られた時間の中で大量の事件を処理していますので,答弁書を読んだだけで言いたいことが明確に伝わるようにしておかないと,真意が伝わらない恐れがあります。答弁書作成に当たっては,答弁書が労働審判委員会を「説得」する手段であり,労働審判委員会に会社の主張を理解してもらえずに不当な結論が出てしまった場合は,労働審判委員会が悪いのではなく,労働審判委員会を説得できなかった自分たちに問題があったと受け止めるスタンスが重要となります。
労働審判委員会は,申立書,答弁書の記載内容から,事前に暫定的な心証を形成して第1回期日に臨んでいます。また,第1回期日は,時間が限られている上,緊張して言いたいことが思ったほど言えないリスクがあります。したがって,労働審判手続において相手方とされた使用者側としては,重要な証拠内容は答弁書に引用するなどして,答弁書の記載のみからでも,主張内容が明確に伝わるようにしておくべきことになります。
陳述書を答弁書と別途提出するのは当事者の自由ですが,重要ポイントについては,答弁書に盛り込んでおくことが必要となります。答弁書の記述で言いたいことが伝わるのであれば,答弁書と同じような内容の陳述書を別途提出する必要はありません。
労働審判 の第1回期日は,原則として申立てから40日以内の日に指定されます(労働審判規則13条)。相手方(主に使用者側)としては,答弁書作成の準備をする時間が足りないから第1回期日を変更したい,あるいは,主張立証を第2回期日までさせて欲しいということになりがちですが,労働審判は第1回期日までが勝負であり,第1回期日の変更は原則として認められませんから,たとえ不十分であっても,第1回期日までに全力を尽くして準備していく必要があります。
不十分ななりに,ベストを尽くして下さい。ポイントさえしっかり押さえておけば,そう悪い結果にはならないものです。
労働審判 期日に出頭する会社関係者は,労働審判に不慣れなことが多いため,労働審判期日では,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。
言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにするためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて,労働審判の期日に話さなければならないことをできるだけ減らしておくのが,最も効果的だと思います。
弁護士は随分先までスケジュールが入りますから,申立書が会社に届いてからのんびりしていると,第1回期日の日時に別の予定が入ってしまいます。労働審判を申し立てられて,弁護士に労働審判 の代理を依頼しようとする場合,まずは弁護士に労働審判期日のスケジュールを確保してもらう必要があります。
複数の弁護士がいる法律事務所に労働審判の代理を依頼する場合で,所属弁護士の誰かが期日に出頭してもらえれば十分というのであれば,それほど急ぐ必要はないことかもしれませんが,特定の弁護士にぜひ同行して欲しいという場合は,まずは当該弁護士のスケジュールを確保してもらうよう努力すべきでしょう。
私の経験では,会社担当者が私の事務所に労働審判の相談に来た時期が第1回期日まで1週間を切った時期(答弁書提出期限経過後)だったため,即日,急いで作成した答弁書を提出せざるを得ず,第1回期日が指定された日時は私のスケジュールが既に埋まっていたため,第1回期日に私が出頭できなかったことがありました。このような事態が会社にとって望ましくないことは,言うまでもありません。
労働審判 手続においては,当事者双方及び裁判所の都合のみならず,忙しい労働審判員2名のスケジュール調整が必要なこともあり,第1回期日の変更は原則として認められないことに十分な注意が必要です。準備不足のまま第1回期日が間近に迫っているような場合や,依頼した代理人弁護士の都合がつかない場合であっても,第1回期日の変更は原則として認めてもらえません。
第1回期日の変更が例外的に認められるのは,労働審判員の選任が完了していない時期に,第1回期日の変更について申立人側の同意を得た上で日程調整したような場合です。労働審判員の選任は,一般に,裁判所が申立書を相手方(主に使用者側)に発送してから1週間から10日程度で行われていると言われていますから,第1回期日の変更が必要な場合は,申立書が会社に届いてから1週間程度のうちに日程調整の連絡を裁判所に入れる必要があることになります。
労働審判 の勝負のポイントを一言で言うと,「第1回期日までが勝負。」となります。
答弁書の提出期限までに,どれだけ有効な証拠を集められるか,充実した答弁書を作成することができるかで,9割方勝負は決まります。第1回期日で心証の確認作業がなされ,即日結論が出るのが通常です。
労働審判手続内で当初の遅れを取り戻すのは困難で,これを本気でひっくり返そうと思ったら,訴訟でひっくり返すくらいの覚悟が必要となります。準備時間が短いので,一日も早く弁護士に相談するようにして下さい。
労働審判 手続においては,申立書及び答弁書の記載内容から一応の心証が形成され,第1回期日でその確認作業が行われて最終的な心証が形成された後は,その心証に基づいて調停が試みられ,調停が成立しない場合は労働審判が出されることになります。
原則として第1回期日終了時までに最終的な心証が形成されてしまい,その後の修正は困難であることから,私は,
① 充実した答弁書の作成
が最も重要であり,次に,
② 第1回期日で十分な説明ができること
が重要であると考えています。
労働審判 手続では,約70%の事件で調停が成立し,解決しています。
その他,労働審判(全体の約18%)に対し異議が申し立てられないケースが約40%ありますし(18%×40%=7.2%),労働審判手続が取り下げられるケース(約7%)には手続外で和解が成立したため取り下げがなされたものも含まれると考えられますので,全体の解決率は約80%程度となるものと思われます。
労働審判 手続では,第1回期日で事実審理を終えるのがむしろ通常です。
第2回期日に事実審理をするのは例外であり,第2回期日は調停をまとめるために開催される期日と考えた方がいいと思います。
過去の統計では,労働審判手続の開催期日の回数は以下のとおりです。
0回 4.5%
1回 26.2%
2回 39.0%
3回 28.0%
4回 2.3%
労働審判 は原則3回以内の期日で結論が出ることとされていますが,期日が3回以上開催された事案は全体の約30%に過ぎず,それほど多くはありません。
期日が開催されないか1回だけ開催されたものだけで約30%にも上り,2回開催された事案を併せると全体の約70%ですから,労働審判手続の期日の開催回数は,通常は1回か2回と考えていいと思います。