弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こす社員の対応方法

2014-08-17 | 日記

就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こす。

1 事実調査
 まずはできるだけ情報を集めて下さい。逮捕勾留されておらず出社できるのであれば,本人からも事情を聴取し,記録に残しておいて下さい。
 逮捕勾留されたことにより社員本人と連絡が取れなくなり,無断欠勤が続くことがありますが,まずは家族等を通じて連絡を取る努力をして下さい。家族等から欠勤の連絡等が入ることがありますが,懲戒解雇 等の処分を恐れて犯罪行為により逮捕勾留されていることまでは報告を受けられない場合もあります。
 年休取得の申請があった場合は,年休扱いにするのが原則です。年休取得を認めずに欠勤扱いとした場合,欠勤を理由とした解雇 等の処分が無効となるリスクが生じます。年休を使い切らせてから対応を検討した方がリスクは小さくなります。

2 起訴休職制度
 刑事事件を起こした社員が起訴された場合,起訴休職制度のある会社では起訴休職を検討します。社員が起訴された事実のみで形式的に起訴休職の規定の適用が認められるとは限らず,休職命令が無効と判断されることもあります。休職命令を出す際は,その必要性,相当性について検討するようにして下さい。
 起訴休職制度を設けると有罪判決が確定するまで解雇することができないと解釈されるおそれがありますので,起訴休職制度は設けずに個別に対応するという選択肢もあり得るところです。

3 懲戒処分
 会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については,私生活上の行為を理由として懲戒処分に処することができます。日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は,「営利を目的とする会社がその名誉,信用その他相当の社会的評価を維持することは,会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから,会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については,それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても,これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならないと判示しています。
 もっとも,就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒処分に処することができるわけではなく,
 ① 社員の言動が懲戒事由に該当すること
 ② 当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められること(労契法15条)
等が必要となります。
 懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく,その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは,懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分の理由としては不十分であり,会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができるような事実を証拠により認定できる必要があります。
 日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は,「就業時間外に社外で行われた刑事事件が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたこと」を理由とする懲戒解雇・諭旨解雇の可否の判断にあたり,「当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して,右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。
 タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合や,電鉄会社社員等,痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合は,懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分であっても有効とされやすい傾向にあります。
 就業規則等で弁明の機会付与が義務付けられていない場合は,被懲戒者に弁明の機会を与えずに懲戒処分に処することができないわけではありませんが,できるだけ弁明の機会を与えることが望ましいところです。弁明の機会を与えているかどうかは,懲戒処分が社会通念上相当であると認められるか,懲戒権を濫用したものとして無効とならないかを判断する際に考慮されることになります。弁明の機会を与えることにより処分の基礎となる事実認定に影響を及ぼし処分の内容に影響を及ぼす可能性がある場合には,弁明の機会を与える必要性が高いものと思われます。
 就業規則等で弁明の機会付与が義務付けられている場合は,懲戒処分に先立ち被懲戒者に弁明の機会を付与する必要があります。弁明の機会を与えずに懲戒処分に処した場合は,弁明の機会を与えても事実認定や処分内容に影響がないといった事情がない限り,懲戒処分が無効とされる可能性が高いものと思われます。
 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については,より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。結果として,社員が自主退職することもあります。
 最初に刑事事件を起こした際に,懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は,書面で,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが,同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。

4 退職金の不支給・減額・返還請求
 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば,懲戒解雇事由がある場合で,当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は,労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。懲戒解雇が有効な場合であっても,労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がない場合は,本来の退職金の支給額の一部の支払が命じられることがあります。例えば,小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は,鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内の痴漢行為を理由とする懲戒解雇は有効と判断されましたが,それまでの勤続の労を抹消するほどの強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして,本来の退職金の支給額の30%の支払を命じています。


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会社に無断でアルバイトをする社員の対応方法

2014-08-17 | 日記

会社に無断でアルバイトをする。

1 基本的対応
 会社に無断でアルバイトしている社員がいる場合は,まずはよく事情聴取して下さい。事情がよく分からないのでは,的確な判断をすることが困難になります。
 アルバイトしている事実が確認され,それが企業秩序を乱すようなものである場合は,口頭で注意指導して,アルバイトを辞めてもらう必要があります。会社に無断でアルバイトしている社員に対し,アルバイトを辞めるよう促した場合,アルバイトを辞める旨の回答が得られるケースがほとんどです。

2 処分の可否
 単にアルバイトを辞めるよう説得するにとどまらず,会社に無断でアルバイトをした社員に対し,何らかの処分をしようとする場合は,話しは簡単ではありません。就業時間外の行動は自由なのが原則のため,社員の兼業を禁止するためには,就業規則に兼業禁止を定めて,兼業禁止を労働契約の内容にしておく必要があります。
 何らかの処分をするためには,兼業により十分な休養が取れないなどして本来の業務遂行に支障を来すとか,会社の名誉信用等を害するとか,競業他社での兼業であるとかいった事情が必要となります。企業秩序を乱すようなアルバイトを辞めるよう注意指導しても辞めようとしない場合は,書面で注意指導し,それでも改善しない場合は懲戒処分を検討することになります。
 解雇 までは難しい事案が多く,紛争になりやすいので,解雇に踏み切る場合は,その有効性について慎重に検討する必要があります。


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業務上のミスを繰り返して会社に損害を与える社員の対応方法

2014-08-17 | 日記

業務上のミスを繰り返して会社に損害を与える。

1 募集採用活動の重要性
 業務上のミスを繰り返す社員を減らす一番の方法は,採用活動を慎重に行い,応募者の適性・能力等を十分に審査して基準を満たした者のみを採用することです。採用活動の段階で手抜きをして,十分な審査をせずに採用したのでは,業務内容が単純でマニュアルや教育制度がよほど整備されているような会社でない限り,業務上のミスを減らすことは困難です。

2 採用後の対応
 採用後の社員による業務上のミスの対策としては,社員の適性に合った配置,人事異動,注意指導,教育,人事考課,保険加入によるリスク管理等が中心であり,退職勧奨 解雇 は能力不足の程度が甚だしく改善の見込みが低い場合に限定して検討するのが原則です。
 ただし,地位や職種が特定されて採用された社員については,基本的には配置転換する義務はありませんし,賃金額が高い場合には能力を向上させるために教育する必要はないと解釈される傾向にあります。当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,退職勧奨や普通解雇 を検討するのが原則となります。
 事業主は労働者を使用することにより得られる利益を享受する以上,損失についても事業主が負担すべきとの考え(報償責任の原則)が一般的であり,過失によるうっかりミスについては損害賠償請求はなかなか認められませんし,損害賠償請求が認められる事案であっても,支払が命じられるのは損害額の一部にとどまることも多く,実際の回収作業にも困難を伴うことは珍しくありません。基本的には,業務上のミスによる損害を当該社員に対する損害賠償請求で填補できるものとは考えるべきではありません。

3 退職勧奨
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,十分に注意指導,教育しても改善の見込みが低い場合には,会社を辞めてもらうほかありませんので,退職勧奨や普通解雇を検討することになります。解雇が有効となる見込みが高い程度に業務上のミスの程度・頻度が著しい事案では,解雇するまでもなく,合意退職が成立することも珍しくありません。
 他方,業務上のミスの程度・頻度がそれほどでもなく解雇が有効とはなりそうもない事案,誠実に勤務する意欲や能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案,本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等で退職届を提出させるのは,難易度が高くなります。
 能力不足により引き起こされる業務上のミスを理由として懲戒解雇を行うことはできませんので,懲戒解雇を示唆して退職届を提出させた場合には,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められて退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いものと思われます。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。


4 解雇
 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい場合には,退職勧奨と平行して普通解雇を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用に当たらないというためには,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため,労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず,単に思ったよりもミスが多く,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず,解雇は例外的な場合でない限り認められません。一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 地位や職種が特定されて採用された社員については,当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,労働契約で求められている能力が欠如しているものとして,普通解雇が認められやすくなります。ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,地位や職種が特定されて採用された事実や,当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので,できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいて下さい。
 業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを,業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。

5 損害賠償請求
 社員の業務上のミスにより会社が損害を被った場合には,社員に対して損害賠償請求(民法415条・709条)することができる可能性がありますが,社員に軽過失しかない場合(故意重過失がない場合)には免責される傾向にあります。
 社員に損害賠償義務が認められる場合であっても,賠償義務を負う損害額は損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度にとどまるため,故意によるものでない限り,社員に対し請求できる損害額は全体の一部にとどまることが多いというのが実情です。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がミスした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。
 損害賠償金負担の合意が成立した場合は,「書面」で支払を約束させ,会社名義の預金口座に振り込ませるか現金で現実に支払わせて下さい。賃金から天引きすると,賃金全額払の原則(労基法24条1項)に違反するものとして,天引き額分の賃金の支払いを余儀なくされる可能性があります。
 損害額が軽微な場合は,賞与額の抑制,昇給の停止等で対処すれば足りる場合もあります。
 月例賃金を減額して実質的に損害賠償金を回収しようとする事案が散見されますが,賃金減額の有効性を争われて差額賃金の請求を受けることが多いですし,退職されてしまった場合には回収が困難となるため,お勧めしません。
 社員に対し損害賠償請求できる場合であっても,身元保証人に対し同額の損害賠償請求できるとは限りません。裁判所は,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき社員の監督に関する会社の過失の有無,身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度,社員の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌するものとされており(身元保証に関する法律5条),賠償額がさらに減額される可能性があります。身元保証の最長期間は5年であり(身元保証に関する法律2条1項),自動更新の合意は無効と考えるのが一般的です(同法6条参照)。


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金銭を着服・横領したり出張旅費や通勤手当を不正取得したりする社員の対応方法

2014-08-17 | 日記

金銭を着服・横領したり出張旅費や通勤手当を不正取得したりする。

1 客観的証拠の収集と事情聴取
 金銭の不正取得が疑われる場合,まずは不正行為を裏付ける客観的証拠をできるだけ収集して下さい。不正が疑われる社員から事情聴取する際,客観的証拠と照らし合わせることにより,嘘や矛盾点が見抜きやすくなります。
 もっとも,金銭の不正取得は,本人の説明なしでは実態が分かりにくいことも多いため,客観的証拠を収集する努力をある程度したら,不正が疑われる社員から事情聴取して下さい。事情聴取に当たっては,事情聴取書をまとめてから本人に署名させたり,事情説明書を提出させたりして,証拠を確保します。
 事情説明書等には,何月何日の何時頃にどこで誰が何をしたのかといった問題となる「具体的事実」を記載させることが重要です。本人提出の事情説明書等に「いかなる処分にも従います。」と書いてあったとしても,問題となる具体的事実が記載されておらず,具体的事実を立証できないのであれば,懲戒処分や解雇 は無効となるリスクが高くなります。
 本人が提出した事情説明書等に説明が不十分な点や虚偽の事実や不合理な弁解があったとしても,突き返して書き直させようとしたりせずにそのまま受領し,追加の説明を求めるようにして下さい。せっかく提出した書面を突き返したばかりに,必要な証拠が不足して,訴訟活動が不利になることがあります。虚偽の事実や不合理な弁解が記載されている書面を確保することにより,本人の言い分をありのまま聴取していることや,本人が不合理な弁解をしていること等の証明もしやすくなります。

2 配置転換・降格
 当該業務に従事する適格性が疑われる事情があれば,配置転換を検討します。賃金額が減額されない配置転換であれば,明らかに嫌がらせ目的と評価できるようなものでない限り,無効にはなりにくいところです。
 管理職 としての適格性が疑われる場合には,人事権を行使して管理職から降格させることも考えられます。降格に伴い賃金額が減額される場合には,降格が人事権の濫用と評価されないよう,金銭の不正取得について十分に調査するなどして,降格の必要性を立証できるようにしておく必要があります。降格に同意する旨の書面を取得できるのであれば取得しておいて下さい。同意書を提出した場合には,懲戒処分の程度を検討する際にプラスの情状として考慮することになります。

3 懲戒処分
 不正があったことが証拠により客観的に認定できる場合は,不正行為の内容・程度・情状に応じた懲戒処分を行います。不正が疑われるだけで,証拠により客観的に不正行為が認定できない場合は,懲戒処分を行うことはできません。
 懲戒処分の程度を決定するに当たっては,故意に金銭を不正取得したのか,単なる計算ミス等の過失に過ぎないのかの区別が重要な考慮要素となります。
 社員が故意に金銭を不正取得したことが判明した場合は,懲戒解雇することも十分検討に値します。ただし,不正取得した金銭の額,会社の実質的な損害額,懲戒歴の有無,それまでの会社に対する貢献度,反省の程度等によっては,より軽い処分にとどめるのが適切な場合もあります。
 過失に過ぎない場合は重い処分をすることはできないケースがほとんどなので,注意指導,始末書の提出,軽めの懲戒処分などにより対処することになります。

4 自主退職を申し出られた場合の対応
 本人が自主退職を申し出た場合に,懲戒解雇 ・諭旨解雇等の退職の効力を伴う懲戒処分をせずに自主退職を認めるかどうかは,
 ① 重い懲戒処分をして職場秩序を維持回復させる必要性
だけでなく,
 ② 自主退職を認めた方が紛争になりにくいこと
 ③ 懲戒解雇・諭旨解雇等の退職の効力を伴う重い懲戒処分をした場合は紛争になりやすく,訴訟で懲戒処分が有効と判断されるためのハードルが高いこと
 ④ 懲戒解雇に伴い退職金を不支給とした場合は紛争になりやすく,訴訟においては懲戒解雇が有効であっても,退職金の一部の支給が命じられることが多いこと
等も考慮して,冷静に判断して下さい。

5 退職勧奨 する際の注意点
 「このままだと懲戒解雇は避けられず,懲戒解雇だと退職金は出ない。懲戒解雇となれば,再就職にも悪影響があるだろう。退職届を提出するのであれば,温情で受理し,退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ,実際には懲戒解雇できるような事案ではなかったことが後から判明したようなケースは,錯誤(民法95条),強迫(民法96条)等の主張が認められ,退職が無効となったり,取り消されたりするリスクが高いところです。
 懲戒解雇できる事案でもないのに,懲戒解雇の威嚇の下,不当に自主退職に追い込んだと評価されないようにして下さい。退職勧奨のやり取りは,無断録音されていることが多いということにも留意して下して下さい。
 退職するつもりはないのに,反省していることを示す意図で退職届を提出したことを会社側が知ることができたような場合は,心裡留保(民法93条)により,退職は無効となることがあります。

6 不正取得した金銭の返還方法
 不正に取得した出張旅費等の金銭は,「書面」で返還を約束させ,会社名義の預金口座に振り込ませるか現金で現実に支払わせるのが望ましいところです。賃金から天引きすると,賃金全額払いの原則(労基法24条1項)に違反するものとして,天引き額の支払を余儀なくされることがあります。
 月例賃金を減額して実質的に損害賠償金を回収しようとする事案が散見されますが,賃金減額の有効性を争われて差額賃金の請求を受けることが多いですし,退職されてしまった場合には回収が困難となりますので,お勧めしません。

7 身元保証人に対する損害賠償請求
 社員に対し損害賠償請求できる場合であっても,身元保証人に対し同額の損害賠償請求できるとは限りません。裁判所は,身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき社員の監督に関する会社の過失の有無,身元保証人が身元保証をなすに至った事由及びこれをなすに当たり用いた注意の程度,社員の任務又は身上の変化その他一切の事情を斟酌するものとされており(身元保証に関する法律5条),賠償額が減額される可能性があります。身元保証の最長期間は5年であり(身元保証に関する法律2条1項),自動更新の合意は無効と考えるのが一般的です(同法6条参照)。


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営業秘密を漏洩する社員の対応方法

2014-08-17 | 日記

営業秘密を漏洩する。

1 事前対応
 社員は,在職中・退職後いずれについても,労働契約の付随義務として当然に守秘義務を負っていると考えられますが,それを明確にして自覚を促すため,諸規程を整備し,誓約書を取っておくべきでしょう。
 社員が営業秘密を漏洩したと思われるような事案であっても,損害賠償請求は必ずしも容易ではありません。事後的な損害賠償請求が容易ではないことを念頭に置いて,事前の営業秘密漏洩防止に力を入れる必要があります。

2 損害賠償請求
 社員が営業秘密を漏洩したことを立証することは,必ずしも容易ではありません。事情をよく聞かないうちに,退職してしまうこともあります。
 損害の性質上,損害額の立証が極めて困難なことが多いです。裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることさえ立証することができれば,相当な損害額は認定してもらえますが,思ったほどの金額にならないことが多いです。労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員が営業秘密を漏洩した場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

3 不正競争防止法
 不正競争防止法に基づき,差止めや損害賠償請求をすることが考えられますが,同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいい,
 ① 秘密管理性
 ② 有用性
 ③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。
 実際の事案では,①秘密管理性の有無が問題となることが多く,不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,
 (1) 当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや,当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要である(東京地裁平成12年9月28日判決)
とか,
 (2) 少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)
とされています。
 社員の多くがアクセスできるような情報は,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても,①秘密管理性の要件を欠き,不正競争防止法では保護されません。


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