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トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてきた場合の対応方法

2014-08-20 | 日記

トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

1 高年齢者雇用確保措置の概要
 高年法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
 ① 定年の引上げ
 ② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入
 ③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定しています。

2 雇用確保措置の内容
 厚生労働省の「今後の高年齢者雇用に関する研究会」が取りまとめた「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」によると,平成22(2010)年において,雇用確保措置を導入している企業の割合は,全企業の96.6%であり,その内訳は以下のとおりです。
 ① 定年の引上げの措置を講じた企業の割合 → 13.9%
 ② 継続雇用制度を導入した企業の割合   → 83.3%
 ③ 定年の定めを廃止した企業の割合    → 2.8%

3 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準
 改正前の高年法9条2項は,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定していました。平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが,平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があり,勧告を受けた者がこれに従わない場合は企業名が公表される可能性もあります(高年法10条)。健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきです。
 「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する 調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
 ① 健康上支障がないこと(91.1%)
 ② 働く意思・意欲があること(90.2%)
 ③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
 ④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
 ⑤ 一定の業績評価(50.4%)
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

4 高年法9条の私法的効力 
 高年法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。津田電気計器事件最高裁第一小法廷平成24年11月29日判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。この最高裁判決は,定年退職後の嘱託社員を継続雇用しなかった事案に関するものであり,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案に関するものではありませんが,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案についても同様の判断がなされる可能性もあり,十分な検討が必要です。

5 希望者全員を継続雇用するという選択肢
 トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくることに対する対策としては,
 ① 改正法施行前から継続雇用制度を採用していた会社で「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を維持する
 ② 再雇用自体は認めた上で,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により不都合が生じないようにすること
等が考えられます。
 継続雇用制度を維持した上で,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」を定める方法によりトラブルの多い社員の継続雇用を阻止することができればそれに越したことはありませんが,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みは原則として廃止されています。改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が引き上げられながらもなお効力を有するとされていますが,例外的制度であるという位置づけは否めません。また,基準を適用することによる継続雇用拒否は,紛争を誘発しがちです。
 高年齢者雇用確保措置が義務付けられた主な趣旨が年金支給開始年齢引き上げに合わせた雇用対策であること,継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みが廃止される方向に向かっていることからすれば,原則どおり,希望者全員を継続雇用するという選択肢もあり得るのではないでしょうか。統計上も,継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準制度により離職した者が定年到達者全体に占める割合は,わずか2.0%に過ぎないとされています(「今後の高年齢者雇用に関する研究会報告書」)。トラブルが多い点については,トラブルが生じにくい業務を担当させる(接客やチームワークが必要な仕事から外す等。)ことや,賃金の額を低く抑えること等により対処することも考えられます。改正法では,継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大についても規定されていますので,そういった規定を活用することも考えられるところです。

6 継続雇用後の労働条件による調整
 高年法上,継続雇用後の賃金等の労働条件については特別の定めがなく,年金支給開始年齢の65歳への引上げに伴う安定した雇用機会の確保という同法の目的,最低賃金法等の強行法規,公序良俗に反しない限り,就業規則,個別労働契約等において自由に定めることができます。もっとも,就業規則で再雇用後の賃金等の労働条件を定めて周知させている場合,それが労働条件となりますから,再雇用後の労働条件を,就業規則に定められている労働条件に満たないものにすることはできません。高年齢者雇用確保措置の主な趣旨が,年金支給開始年齢引上げに合わせた雇用対策,年金支給開始年齢である65歳までの安定した雇用機会の確保である以上,継続雇用後の賃金額に在職老齢年金,高年齢者雇用継続給付等の公的給付を加算した手取額の合計額が,従来であれば高年齢者がもらえたはずの年金額と同額以上になるように配慮すべきであり,「時給1000円,1日8時間・週3日勤務」程度の賃金額にはしておきたいところです。
 高年法が求めているのは,継続雇用制度の導入であって,事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務付けるものではなく,事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば,労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず,結果的に労働者が継続雇用されることを拒否したとしても,高年法違反となるものではありません。したがって,トラブルの多い社員との間で,再雇用後の労働条件について折り合いがつかず,結果として継続雇用に至らなかったとしても,それが直ちに問題となるわけではありません。


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契約期間が満了したのに契約が終了していないと言い張る社員の対応方法

2014-08-20 | 日記

契約期間が満了したのに契約が終了していないと言い張る。

1 労契法19条
 有期労働契約は,契約期間が満了すれば,契約は当然に終了するのが原則です。しかし,労契法19条の要件を満たす場合は,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で有期労働契約者からの有期労働契約の更新の申込み又は有期労働契約の締結の申込み当該申込みを承諾したものとみなされるため,雇止めをしても労働契約を終了させることはできません。
(有期労働契約の更新等)
 19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって,使用者が当該申込みを拒絶することが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないときは,使用者は,従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
 一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって,その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが,期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇 の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
 二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。


2 労契法19条の趣旨
 労契法19条は,東芝柳町工場事件最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決等の最高裁判決で確立している雇止め法理を制定法化して明確化を図り,認識可能性の高いルールとすることにより,紛争を防止する趣旨の条文とされています。基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条は,次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。」とされています。
 従来の雇止め法理では解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたのに対し,本条は使用者の承諾みなしを規定したものであり,本条の構造は従来の雇止め法理とは異なっていますが,雇止め法理を制定法化して明確化を図るという立法趣旨からすれば,本条の解釈にあたっては従来の雇止め法理が参考にされるものと考えられます。

3 更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」とされたことの意味
 本条2号では,更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」であると規定されていますが,これは従来の雇止め法理では明示されていなかったものです。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「なお,法第19条第2号の『満了時に』は,雇止めに関する裁判例における判断と同様,『満了時』における合理的期待の有無は,最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって,いったん,労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず,当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても,そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。」とされています。

4 有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込み
 従来の雇止め法理では,解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたこともあり,有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みは要件とはされていませんでした。これに対し,本条は有期労働契約の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または成立を認めるもののため,有期労働契約者による有期労働契約の更新または締結の申込みが新たに要件として規定されています。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では,「法第19条の『更新の申込み』及び『締結の申込み』は,要式行為ではなく,使用者による雇止めの意思表示に対して,労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。」「また,雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の『更新の申込み』又は『締結の申込み』をしたことの主張・立証については,労働者が雇止めに異議があることが,例えば,訴訟の提起,紛争調整機関への申立て,団体交渉 等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。」とされています。

5 「当該契約期間の満了後遅滞なく」の意味
 有期労働契約者による有期労働契約の締結の申込みは,当該契約期間満了後遅滞なくなされる必要があります。この要件が加えられることにより,使用者が契約期間終了後長期間不安定な法的状態に置かれ続けることを防止することができ,法的安定性に資することになります。
 もっとも,「当該契約期間の満了後遅滞なく」という要件は,必ずしも法律に詳しいわけではない労働者側に要求される要件であることを考慮すれば,比較的緩やかに解釈されることが予想されます。基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」においても,「法第19条の『遅滞なく』は,有期労働契約の契約期間の満了後であっても,正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。」とされています。

6 労契法19条の効果
 使用者は,従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件(契約期間を含む。)で,労働者からの有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされます。これは,有期労働契約の更新または締結の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または締結を認めるものであり,従来の雇止め法理が解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理していたのとは効果が異なります。
 また,本条では,契約期間についても,従前の有期労働契約の労働条件と同一であることが明確にされています。

7 有期労働契約の類型
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」(山川隆一座長)は38件にも及ぶ雇止めに関する裁判例を分析し,平成12年9月11日に「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」を発表しました。同報告では,有期労働契約の類型について,以下のような分析がなされています。

1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ[純粋有期契約タイプ]
 事案の特徴:
  ・ 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか,契約上の地位が臨時的なものが多い。
  ・ 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い。
  ・ 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
  ・ 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い。
 雇止めの可否: 雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。
2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ
 1に該当しない事案については,期間の定めのない契約の解雇に関する法理の類推適用等により,雇止めの可否を判断している(ただし,解雇に関する法理の類推適用等の際の具体的な判断基準について,解雇の場合とは一定の差異があることは裁判所も容認)。本タイプは,当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の3タイプに細分でき,それぞれに次のような傾向が概ね認められる。
(1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたもの[実質無期契約タイプ]
 事案の特徴: 業務内容が恒常的,更新手続が形式的であるものが多い。雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの,同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
 雇止めの可否: ほとんどの事案で雇止めは認められていない。
(2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ,その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの[期待保護(反復更新)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は多いが,業務内容が正社員と同一でないものも多く,同種の労働者に対する雇止めの例もある。
 雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて,正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で,当該雇止めを認めた事案がかなりみられる。
(3) 雇用継続への合理的な期待が,当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの[期待保護(継続特約)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は概して少なく,契約締結の経緯等が特殊な事案が多い。
 雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い。

8 有期労働契約の実態を検討する際の考慮要素
 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」によれば,裁判例における判断の過程をみると,主に次の6項目に関して,当該契約関係の実態に評価を加えているものとされています。
 ① 業務の客観的内容
  従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての正社員との同一性の有無等)
 ② 契約上の地位の性格
  契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば,嘱託,非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。),労働条件についての正社員との同一性の有無等
 ③ 当事者の主観的態様
  継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や,更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)
 ④ 更新の手続・実態
  契約更新の状況(反復更新の有無・回数,勤続年数等),契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法,更新の可否の判断方法等)
 ⑤ 他の労働者の更新状況
  同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
 ⑥ その他
  有期労働契約を締結した経緯,勤続年数・年齢等の上限の設定等

9 労契法19条が適用された場合と正社員の解雇の差異
 有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用された場合であっても,雇止めは正社員の解雇よりも緩やかな基準で認められており,雇止めに労契法19条が適用される場合についても,正社員の解雇よりも緩やかな基準で雇止めが認められるものと考えられます。
 例えば,日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は,業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し,「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で,「独立採算制がとられているYのP工場において,事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり,その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく,臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には,これに先立ち,期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても,それをもつて不当・不合理であるということはできず,右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判示しています。
 また,日本航空事件東京地裁平成23年10月31日判決は,「解雇権濫用法理が類推適用されると,一般的にいえば,雇止めが,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には権利の濫用として無効となることになる(労働契約法16条)が,雇止めの場合において,雇用契約の内容としては,契約期間が定められ,その期間が経過することにより雇用契約が(ママ)終了が合意されている事案ということができるから,雇止めが『客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない』かどうかの判断に当たっては,解雇権濫用法理が当然に適用される期間の定めのない雇用契約の場合と同一とはいえず,当該雇用契約の性質,内容を十分に考慮した上での判断が求められるというべきである。」と判示しています。

10 事前の対応
 「実質無期契約タイプ」と評価されないためにも,最低限,契約更新手続を形骸化させず,更新ごとに更新手続を行う必要があります。契約更新を拒絶する可能性があることを労働条件通知書等に明記してよく説明するとともに,不必要に雇用継続を期待させるような言動は慎んで下さい。有期契約労働者については,身元保証人の要否,担当業務の内容,責任の程度等に関し,正社員と明確に区別した労務管理を行うべきです。

11 雇止めが認められないリスクが高い事案の対応
 雇止めが制限されるリスクが高い事案においては,合意により退職する形にすべきでしょう。上乗せ金の支払や年休の買い上げも検討せざるを得ません。年休を消化させたり,年休買い上げの合意を盛り込んだりしておくと,退職合意の有効性が認められやすくなります。

12 適性把握目的の有期労働契約の雇止め
 神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決は,労働者の適性を評価・判断する目的で労働契約に期間を設けた場合は,期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,契約期間は契約の存続期間ではなく,試用期間 であるとしています。同最高裁判決の判断内容には疑問があり,単に雇止め制限(労契法19条)の問題として処理すれば足りるのではないかと考えられますが,労働者の適性を評価・判断する目的の契約期間満了による雇止めが本採用拒否(解雇)と評価され,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合でないと退職させられなくなる可能性があることは理解しておく必要があります。
 期間満了で労働契約を確実に終了させられるようにしておきたいのであれば,当初の労働契約書において,期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意をしておくとともに,期間満了により当初の労働契約は現実に終了させ,その後も正社員として勤務させる場合には,通常の正社員採用の際と同様,労働条件通知書を交付する等の採用手続を改めて行うといった対応をしておくべきでしょう。


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不採用通知に抗議してきた場合の対応方法

2014-08-20 | 日記

不採用通知に抗議する。

1 採用の自由
 憲法22条,29条は,財産権の行使,営業その他広く経済活動の自由を基本的人権として保障しており,使用者は経済活動の一環として契約締結の自由を有していますので,自己の営業のために労働者を雇用するにあたり,いかなる者を雇い入れるか,いかなる条件でこれを雇うかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由に決定することができます(三菱樹脂事件最高裁昭和48年12月12日大法廷判決)。事業主は自由に応募者を不採用とすることができるのが原則であり,応募者が不採用通知に対し抗議するのは筋違いとなるケースが多いです。

2 内々定取消
 労働契約は,労働者からの応募に対し,事業主が確定的な採用の意思表示をした時点で成立します。いわゆる採用内定の時点で始期付解約権留保付労働契約が成立すると評価できることが多く,いわゆる内々定の時点では,使用者が確定的な採用の意思表示をしておらず,労働契約は成立していないと評価されることが多いです。
 労働契約が成立していない段階では自由に不採用とすることができるのが原則ですが,労働契約が確実に締結されるであろうとの応募者の期待が法的保護に値する程度に高まっている場合において,内々定取消が労働契約締結過程における信義則に反する場合には,採用への期待利益を侵害するものとして不法行為が成立し,応募者が採用されると信頼したために被った損害について賠償すべき責任を負うことがあります。応募者が他社における就職活動を打ち切った後に内々定を取り消すとトラブルになることが多い傾向にあります。

3 不採用の理由の説明義務
 事業主が不採用とされた応募者に対し,不採用の理由を説明する義務はありません。慶応大学附属病院事件東京高裁昭和50年12月22日判決では,「労使関係が具体的に発生する前の段階においては,人員の採否を決しようとする企業等の側に,極めて広い裁量判断の自由が認められるべきものであるから,企業等が人員の採否を決するについては,それが企業等の経営上必要とされる限り,原則として,広くあらゆる要素を裁量判断の基礎とすることが許され,かつ,これらの諸要素のうちいずれを重視するかについても,原則として各企業等の自由に任されているものと解さざるを得ず,しかも,この自由のうちには,採否決定の理由を明示,公開しないことの自由をも含むものと認めねばならない。たとえば,企業等が或る学校の卒業生の採否を決するにあたっては,その者の学業成績,健康状態等はもとより,その者の一定の思想信条に基づく政治的その他の諸活動歴,政治的活動を目的とする団体への所属の有無及び右団体員であることに基づく活動,これらの活動歴に基づく将来の活動の予測,並びにこれらの点の総合的評価としての人物,人柄が当該企業の業務内容,経営方針,伝統的社風等に照らして当該企業の運営上適当であるかどうかということ等,ひろく企業の運営上必要と考えられるあらゆる事項を採否決定の判断の基礎とすることが許されるのであって,しかも,学業成績等と前記の意味での人物,人柄についての評価といずれを重視すべきかということも,原則として,企業等の各自の自由な判断に任されているものと認めざるを得ない。」としているのが参考になります。もっとも,社内で十分に議論したところ,不採用理由を説明することが会社の理念に合致するといった結論が出たような場合には,不採用理由を説明する方針を採っても差し支えありません。
 個人情報保護との関係では,厚生労働省平成24年5月作成のパンフレット『雇用管理に関する個人情報の取り扱いについて』では,「④本人からデータ開示などを求められたときの対応(法第24~31条)」に関し,「本人に対し遅滞なく、保有個人データを開示しなければなりませんが『業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合』など、非開示にできる場合が法で定められています。例えば、人事評価や選考に関する個々人の情報は、基本的にはこれに当たると考えられますが、その取り扱いは労働組合などと協議して決定することが望まれます。」とされています。

4 定年後再雇用の拒否
 高年法9条1項は,65歳未満の定年の定めをしている事業主に対し,その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため,
 ① 定年の引上げ
 ② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは,当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度の導入
 ③ 定年の定めの廃止
のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じなければならないと規定しており,改正前の高年法9条2項は,過半数組合又は過半数代表者との間の書面による協定により,②継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることができる旨規定していました。
 平成25年4月1日施行の『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律』では,①継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが,平成25年4月1日の改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされています。
 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は具体的で客観的なものである必要があり,トラブルが多い社員は継続雇用の対象とはならないといった抽象的な基準を定めたのでは,公共職業安定所において,必要な報告徴収が行われるとともに,助言・指導,勧告の対象となる可能性があり,勧告を受けた者がこれに従わない場合は企業名が公表される可能性もあります(高年法10条)。健康状態,出勤率,懲戒処分歴の有無,勤務成績等の客観的基準を定めるべきです。「JILPT「高齢者の雇用・採用に関する 調査」(2008)」によると,実際の継続雇用制度の基準の内容としては,以下のようなものが多くなっています。
 ① 健康上支障がないこと(91.1%)
 ② 働く意思・意欲があること(90.2%)
 ③ 出勤率,勤務態度(66.5%)
 ④ 会社が提示する職務内容に合意できること(53.2%)
 ⑤ 一定の業績評価(50.4%)
 常時10人以上の労働者を使用する使用者が,継続雇用制度の対象者に係る基準を労使協定で定めた場合には,就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」に該当することとなるため,労基法89条に定めるところにより,労使協定により基準を策定した旨を就業規則に定め,就業規則の変更を管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
 高年法9条には私法的効力がない(民事訴訟で継続雇用を請求する根拠にならない)と一般に考えられていますが,就業規則に継続雇用の条件が定められていればそれが労働契約の内容となり,私法上の効力が生じることになります。したがって,就業規則に規定された継続雇用の条件が満たされている場合は,高年齢者は,就業規則に基づき,継続雇用を請求できることになります。
 就業規則に定められた継続雇用の要件を満たしている定年退職者の継続雇用を拒否した場合,会社は損害賠償義務を負う可能性があることに争いはありませんが,裁判例の中には,解雇権濫用法理の類推などにより,継続雇用自体が認められるとするものもあります。津田電気計器事件最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決は,定年に達した後引き続き1年間の嘱託雇用契約により雇用されていた労働者の継続雇用に関し,東芝柳町工場事件最高裁判決,日立メディコ事件最高裁判決を参照判例として引用して,「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから,被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方,上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは,他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって,本件の前記事実関係等の下においては,前記の法の趣旨等に鑑み,上告人と被上告人との間に,嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり,その期限や賃金,労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」と判示しています。この最高裁判決は,定年退職後の嘱託社員を継続雇用しなかった事案に関するものであり,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案に関するものではありませんが,正社員が定年退職した直後に継続雇用されなかった事案についても同様の判断がなされる可能性もありますので,十分な検討が必要です。

5 事業譲受人による不採用
 事業譲渡がなされた場合,事業譲受人が事業譲渡人で雇用されていた労働者を採用するかどうかは本来自由なはずですが,労働組合員差別等がなされた場合には,事業譲受人が事業譲渡人で雇用されていた労働者の採用を強制されることがあります。


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採用内定取消に応じない場合の対応方法

2014-08-20 | 日記

採用内定取消に応じない。

1 採用内定取消の法的性格
 採用内定の法的性格は一様ではありませんが,採用内定により(始期付解約権留保付)労働契約が成立することが多いものと思われます。採用内定により労働契約が成立している以上,採用内定取消の法的性格は解雇 であり,解雇権濫用法理が適用されるため,新たに採用を行う場面とは異なり,採用内定取消を行うことができる場面は限定されます。

2 内定者の理解を得る努力 
 採用内定を出した応募者を雇用するのが難しくなった場合は,一方的に内定を取り消すのではなく,話し合いにより内定を辞退してもらうよう努力すべきです。十分な内定取消の理由がない場合は,事情をよく説明し,補償金の支払いを約束するなどして,内定者の理解を得るよう最大限努力する必要があります。
 内定取消はできるだけ早い時期に行った方が内定者のダメージが小さく,紛争になりにくい傾向にあります。内定取消が避けられない場合は,いつまでもずるずる決断を先延ばしにするのではなく,速やかに内定辞退についての話し合いに入り,内定者が就職活動を早期に再開できるよう配慮して下さい。

3 採用内定の取消事由
 採用内定の取消事由は,採用内定当時知ることができず,また知ることが期待できないような事実であって,これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られます。
 採用内定当時知ることができた問題点については,採用を躊躇するようなものであれば採用内定は出してはいけません。取りあえず採用内定を出してみて,問題が改善されるかどうか様子を見るというやり方はできません。

4 経営の悪化等を理由とした採用内定取消
 企業が経営の悪化等を理由に留保解約権の行使(採用内定取消)をする場合には,いわゆる整理解雇 の有効性の判断に関する①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇することの必要性,③被解雇者選定の合理性,④手続の妥当性という四要素を総合考慮のうえ,解約留保権の趣旨,目的に照らして客観的に合理的と認められ,社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきとする裁判例があります。

5 新規学卒者の採用内定取消
 新規学卒者の採用内定を取り消す場合は,予め公共職業安定所長又は学校長等関係施設の長にその旨を通知する必要があり,一定の場合は,厚生労働大臣により企業名等が公表されることもあります。


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弁護士法人四谷麹町法律事務所の特徴と法律顧問契約のサービス内容

2014-08-20 | 日記

弁護士法人四谷麹町法律事務所の特徴

 弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)は,健全な労使関係を構築して労働問題のストレスから会社経営者を解放したいという強い想いを持っており,会社経営者のための顧問弁護士事務所として,解雇 退職勧奨 残業代 試用期間 精神疾患 団体交渉 労働審判 問題社員 パワハラ 等の労働問題の予防解決に力を入れています。
 健全な労使関係を構築して労働問題のストレスから会社経営者を解放したいという強い想いを持っている顧問弁護士をお探しでしたら,弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京) にご相談下さい。

 

法律顧問契約のサービス内容

 弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京) は,会社経営者のための顧問弁護士事務所として,労使紛争の予防・解決を中心とした顧問先企業の法務に関し法律上の助言を与え,依頼された事件の対応に当たっています。
 顧問先企業は,営業時間内に電話・FAX・電子メール等の通信機器を用いて,あるいは弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)のオフィス内における面談により,顧問弁護士 に対し法律相談をすることができます。月あたりの相談時間に上限はありません。
 また,打合せ時間内に作成できるような簡易な「会社名義」の通知書・回答書・和解書等の書面の作成費用は顧問料に含まれており,別途料金は不要です。労働審判 や訴訟になる前の交渉段階であれば,法律顧問契約を締結して法律相談・会社名義での書類の作成を依頼すれば足り,委任契約を締結して事件の対応を依頼する必要がないことも珍しくありません。
 訴訟が提起されたり労働審判が申し立てられたりしたため,顧問弁護士と委任契約を締結して事件の対応を依頼しなければならなくなった場合であっても,顧問先企業は,弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)に対し,定額の弁護士費用(成功報酬なし)で訴訟・労働審判・団体交渉 ・不当労働行為事件等の対応を依頼することができます。


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