弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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虚偽の内部告発をして会社の名誉・信用を毀損する社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

虚偽の内部告発をして会社の名誉・信用を毀損する。

1 基本的対応
 労働契約上,社員は,会社の名誉信用等を害して職場秩序に悪影響を与え,業務の正常な運営を妨げるような行為をしない義務を負っていると考えられますが,それを明確にするために,就業規則にその旨規定しておくべきでしょう。
 虚偽の内部告発については,その程度に応じて,注意指導,懲戒処分を検討することになりますが,公益通報者保護法,言論表現の自由との関係を検討する必要があります。

2 公益通報者保護法 
 公益通報者保護法との関係では,
 ① 公益通報をしたことを理由とする解雇 の無効(3条)
 ② 公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効(4条)
 ③ 公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止(5条)
が問題となります。
 これらは,公益通報をしたことを理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益取扱いを禁止するものに過ぎず,公益通報をしたからといって,公益通報をしたこと以外の事実を理由とする解雇,労働者派遣契約の解除,不利益処分ができなくなるわけではありません。

3 公益通報者保護法で保護される内部告発の範囲
 「不正の利益を得る目的,他人に損害を加える目的その他の不正の目的」を有する内部告発は「公益通報」(2条)に該当しないため,公益通報者保護法では保護されません。
 公益通報者保護法が保護の対象とする同法2条3項所定の「通報対象事実」とは,刑法,食品衛生法,証券取引法,個人情報保護法等の同法2条別表に掲記の通報対象法律において犯罪行為として規定されている事実と犯罪行為と関連する法令違反行為として規定されている事実に限定されており,通報対象法律以外の法律に規定された犯罪行為やその犯罪行為と関連する法令違反行為の事実,通報対象法律において最終的にその実効性が刑罰により担保されていない規定に違反する行為の事実は該当しません(学校法人田中千代学園事件東京地裁平成23年1月28日判決)。
 公益通報者保護法の保護を受けようとする社員は,その法令違反行為が,いかなる通報対象法律において犯罪行為として規定される事実と関連する法令違反行為であるのかを明らかにする必要があります。
 「当該労務提供先等に対する公益通報」(勤務先,派遣先等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると思料する場合」であれば足ります。
 「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報」が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」である必要があります。
 「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」(マスコミ等に対する公益通報)が保護されるためには,「通報対象事実が生じ,又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり,かつ,次のいずれかに該当する場合」であることが必要となります。
 ① 労務提供先等,行政機関等に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 ② 労務提供先等に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され,偽造され,又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
 ③ 労務提供先等から労務提供先等,行政機関等に対する公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
 ④ 書面により勤務先等に対する公益通報をした日から20日を経過しても,当該通報対象事実について,当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
 ⑤ 個人の生命又は身体に危害が発生し,又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

4 言論表現の自由 
 公益通報者保護法が保護の対象とならない内部告発についても,言論表現の自由との関係で保護されることがあります。
 ① 内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしは原告が真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か(「真実ないし真実相当性」)
 ② その目的が公益性を有している否か(「目的の公益性」)
 ③ 労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否か(「手段・態様の相当性」)
を総合考慮して,当該内部告発が正当と認められる場合には,仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても,その違法性は阻却されます(学校法人田中千代学園事件東京地裁平成23年1月28日判決)。
 公益通報者保護法の適用がない場合であっても,正当な内部告発を理由とする懲戒処分等は無効となり,正当な内部告発に対する注意・指導については不当なものと評価されますし,場合によっては,これらが不法行為法上において違法と評価されるリスクもあります。
 内部告発が正当なものとはいえなかったとしても,出向命令権濫用法理(労働契約法14条),懲戒権濫用法理(同法15条),解雇権濫用法理(同法16条)が適用されるため,不当な内部告発を理由とする出向命令,懲戒処分,解雇 が直ちに有効となるわけではなく,原則どおり,これらの法理の有効要件を満たすか検討する必要があります。


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ソーシャルメディアに社内情報を書き込まれた場合の対応

2014-08-15 | 日記

ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。

1 ソーシャルメディアへの不適切な社内情報の書き込みを防止するための事前対応
 ソーシャルメディアへの不適切な社内情報の書き込みを防止するための事前対応としては,ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成し,ガイドラインの遵守義務を就業規則で定めて周知させ,繰り返しガイドライン遵守の重要性を伝えること等が考えられます。
 就業時間内は,社員は職務専念義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,就業時間内にソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることができます。社員は企業秩序遵守義務を負っているため,書き込みの内容にかかわらず,会社が所有し,社員に貸与しているパソコン等の通信機器を利用してソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることもできます。

2 ソーシャルメディアに不適切と思われる社内情報の書き込みがなされていることが発見された場合
 ソーシャルメディアに不適切と思われる社内情報の書き込みがなされていることが発見された場合,まずはその画面をプリントアウトしたりPDFに保存したりして,証拠を確保します。
 次に,ソーシャルメディアに書き込まれた社内情報の内容を検討し,ソーシャルメディアに対する当該書き込みの当否について検討します。会社にとって好ましくない内容の書き込みであれば,本人と話し合って削除させます。当該書き込みが,単に会社にとって好ましくないという程度にとどまらず,会社の名誉信用等を毀損したり,顧客のプライバシーを侵害したりするようなものである場合には,単に書き込みを削除させるだけでは足りず,十分な事実調査をした上,懲戒処分や損害賠償請求等の対応を検討します。

3 事実関係の調査
 事実関係の調査としては,本人からの事情聴取が中心となります。当該社員が書き込みを行ったということで間違いがないか,動機・目的,社内情報の取得経路,それ以外の社内情報の書き込みの有無等を聴取して書面にまとめます。聴取書は,当該社員に内容を確認させてから,その内容に間違いない旨記載させます。本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが,重要な事実関係の確認については,十分な事情聴取を行い,漏れがないようにしておく必要があります。
 書き込みを行った社員が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても,突き返して書き直させたりせずに,受領して会社で保管して下さい。事実関係の解明に役立つこともありますし,本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。不合理・不十分な点については,別途,追加説明を求めれば足ります。

4 謝罪
 書き込み内容がインターネット上で拡散したり,ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は,会社として謝罪を検討する必要があります。謝罪内容としては,社員教育を徹底し,再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いところです。

5 懲戒処分
 書き込み内容の悪質性の程度に応じて,懲戒処分を検討します。労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,有効と判断されるケースが多いですし,訴訟等で争われるリスクも低いですが,退職の効果を伴う懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが高まりますので,慎重に検討する必要があります。

6 損害賠償請求
 ソーシャルメディアへの書き込みにより会社が損害を被った場合は,書き込みを行った社員やその身元保証人に対し,損害賠償請求をすることも考えられますが,損害の性質上,損害額の立証が困難なことが多いところです。裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることさえ立証することができれば,相当な損害額は認定してもらえますが,思ったほどの金額にならないのが通常です。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員がソーシャルメディアへの書き込みをした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

7 不正競争防止法に基づく差止めや損害賠償請求
 営業秘密がソーシャルメディアに書き込まれた場合は,不正競争防止法に基づき,差止めや損害賠償請求をすることも考えられますが,同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」をいい,
 ① 秘密管理性
 ② 有用性
 ③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。
 実際の事案では,①秘密管理性の有無が問題となることが多く,不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには,
 ①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや,②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるとか(東京地裁平成12年9月28日判決),少なくとも,これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)とされています。社員の多くがアクセスできるような情報は,事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても,①秘密管理性の要件を欠き,不正競争防止法では保護されません。


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転勤を拒否する社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

転勤を拒否する。

1 転勤を拒否された場合に最初にすべきこと
 転勤を拒否する社員がいる場合は,まずは転勤を拒否する事情を聴取し,転勤拒否にもっともな理由があるのかどうかを確認します。
 転勤が困難な事情を社員が述べている場合は,より具体的な事情を聴取するとともに裏付け資料の提出を求めるなどして対応して下さい。認められる要望かどうかは別にして,本人の言い分はよく聞くことが重要です。
 本人の言い分を聞く努力を尽くした結果,転勤拒否にもっともな理由がないとの判断に至った場合は,転勤命令に応じるよう説得するのが原則です。
 それでも転勤命令に応じない場合は,懲戒解雇 等の処分を検討せざるを得ませんが,懲戒解雇等の処分が有効となる前提として,転勤命令が有効である必要があります。

2 転勤命令の有効性
 転勤命令が有効というためには,
 ① 使用者に転勤命令権限があり
 ② 転勤命令が権利の濫用にならないこと
が必要です。

3 転勤命令権限
 就業規則に転勤命令権限についての規定を置いて周知させておけば,通常は①転勤命令権限があるといえます。併せて,入社時の誓約書で転勤等に応じること,就業規則を遵守すること等を誓約させておくことが望ましいところです。
 社員から,勤務地限定の合意があるから転勤命令に応じる義務はないと主張されることがありますが,勤務地が複数ある会社の正社員については,勤務地限定の合意はなかなか認定されません。他方,パート,アルバイトについては,勤務地限定の合意が存在することが多いところです。
 平成11年1月29日基発45号では,労働条件通知書の「就業の場所」欄には,「雇入れ直後のものを記載することで足りる」とされており,「就業の場所」欄に特定の事業場が記載されていたとしても,直ちに勤務地限定の合意があることにはなりません。ただし,それが雇入れ直後の就業場所に過ぎないことや支店への転勤もあり得ることをよく説明しておくことが望ましいところです。

4 転勤命令が権利の濫用にならないか
 ①使用者に転勤命令権限の存在が認定されると,次に,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが問題となります。正社員については,通常は転勤命令権限が認められるため,②転勤命令が権利の濫用にならないかどうかが主要な争点になることが多いところです。
 使用者による転勤命令は,
 ① 業務上の必要性が存しない場合
 ② 不当な動機・目的をもってなされたものである場合
 ③ 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき
等,特段の事情のある場合でない限り権利の濫用になりません(東亜ペイント事件最高裁昭和61年7月14日第二小法廷判決)。

5 ①業務上の必要性
 東亜ペイント事件最高裁判決が,「右の業務上の必要性についても,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく,労働力の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤務意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは,業務上の必要性の存在を肯定すべきである。」と判示していることもあり,企業経営上意味のある転勤であれば通常は①業務上の必要性が肯定されます。
 ただし,①業務上の必要性の程度は,②③の主張立証にも影響するため,①業務上の必要性が高いことの主張立証はしっかり行う必要があります。

6 ②不当な動機・目的
 退職勧奨 したところ退職を断られ転勤を命じたような場合や,労働組合の幹部に転勤を命じた場合に,問題にされることが多い印象です。
 ①転勤させる必要性が高ければ,②不当な動機・目的がないと言いやすくなるので,②不当な動機・目的がないといえるようにするためにも,①業務上の必要性を説明できるようにしておくことが重要です。

7 ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
 まずは,単なる不利益の有無が問題となるのではなく,「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」の有無が問題となることに留意して下さい。
 社員の配偶者が仕事を辞めない限り単身赴任となり,配偶者や子供と別居を余儀なくされるとか,通勤時間が長くなるとか,多少の経済的負担が生じるといった程度では,③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとはいえません。
 単身赴任手当や家族と会うための交通費の支給,社宅の提供,保育介護問題への配慮,配偶者の就職の斡旋等の配慮は必須のものではありませんが,③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無を判断するにあたっては,転勤を命じられた社員の不利益を緩和する措置が取られているかどうかといった点も考慮されます。
 就業場所の変更を伴う配置転換については,子の養育又は家族の介護の状況に配慮する義務があること(育児介護休業法26条)には注意が必要です。育児,介護の問題ついては,本人の言い分を特によく聞き,転勤命令を出すかどうか慎重に判断することをお勧めします。
 本人の言い分をよく聞かずに一方的に転勤を命じ,本人から育児,介護の問題を理由として転勤命令撤回の要求がなされた場合に転勤命令撤回の可否を全く検討していないなど,育児,介護の問題に対する配慮がなされていない場合は,③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとして,転勤命令が無効とされるリスクが高まります。
 裁判例の動向からすると,特に,家族が健康上の問題を抱えている場合や,介護が必要な場合の転勤については,慎重に検討したほうが無難な印象があります。

8 転勤命令違反を理由とした懲戒解雇の有効性
 転勤命令自体が無効の場合は,転勤命令拒否を理由とする懲戒解雇 は認められません。
 有効な転勤命令を正社員が拒否した場合は重大な業務命令違反となるため,懲戒解雇は懲戒権の濫用(労契法15条)とはならず有効と判断されることが多いですが,拙速に懲戒解雇を行った場合は懲戒権を濫用したものとして無効と判断されることがあります。
 社員が転勤に伴う利害得失を考慮して合理的な決断をするのに必要な情報を提供する等して転勤命令に従うよう説得する努力を尽くし,転勤命令に従う見込みが乏しいことを確認してから,懲戒解雇すべきでしょう。懲戒解雇を急ぐべきではありません。


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社内研修・勉強会・合宿研修への参加を拒否する社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

社内研修・勉強会・合宿研修への参加を拒否する。

1 義務か自由参加か 
 まずは,社内研修,勉強会,合宿研修への参加が「義務」なのか「自由参加」なのかをはっきりさせる必要があります。
 参加が義務ということであれば,研修等に要する時間は社会通念上必要な限度で労基法上の労働時間に該当することになります。研修等の時間が時間外であれば時間外割増賃金の支払が必要となりますし,時間内であっても賃金を支払うことになるのが通常です。
 他方,自由参加ということであれば,当然,参加を義務付けることはできず,参加するかどうかは本人の意思に委ねられることになります。時間外割増賃金等を支払ってでも参加させる業務上の必要があるようなものなのかどうかを,まずは判断する必要があります。

2 使用者が社員に対し受講を命じることができる研修等の内容
 使用者が社員に対し受講を命じることができる研修等の内容は,現在の業務遂行に必要な知識,技能の習得に必要な研修等に限られず,使用者が社員に命じ得ることができる教育訓練の時期及び内容,方法は,その性質上原則として使用者(ないし実際にこれを実施することを委任された社員)の裁量的判断に委ねられています。ただし,使用者の裁量は無制約なものではなく,その命じ得る研修等の時期,内容,方法において労働契約の内容及び研修等の目的等に照らして不合理なものであってはなりませんし,また,その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはなりません。
 合理的教育的意義が認められない教育訓練,自己の信仰する宗教と異なる宗教行事への参加等を義務付けることはできません。
 一般教養の研修への参加を義務付けることができるかは微妙なところですが,一般に本人の意思に反してでも受講させる必要があるような性質のものではないのですから,本人の同意を得た上で,受講させるようにすべきです。どうしても一般教養の研修への参加を義務付ける必要がある場合は,その必要性について合理的な説明ができるようにしておく必要があります。

3 研修等と年次有給休暇の取得
 参加が義務付けられている社内研修,勉強会,合宿研修の期間中の年次有給休暇取得の請求(労基法39条5項本文)がなされた場合,研修期間,当該研修を受けさせる必要性の程度など諸般の事情を考慮した上で,時季変更権行使(労基法39条5項ただし書き)の可否が決せられることになります。
 社内研修等の期間が比較的短期間で,当該社内研修等により知識,技能等を習得させる必要性が高く,研修期間中の年休取得を認めたのでは研修の目的を達成することができない場合は,研修を欠席しても予定された知識,技能の習得に不足を生じさせないものであるような場合でない限り,年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして時季変更権を行使することができます(NTT(年休)事件最高裁第二小法廷平成12年3月31日判決参照)。
 一般教養の研修については,その性質上,時季変更権を行使して研修期間中の年休取得を拒絶することは難しいケースが多いものと思われます。


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注意するとパワハラだと言って指導に従わない社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

注意するとパワハラだと言って指導に従わない。

1 パワハラ とは
 パワーハラスメントは法律上の用語ではなく,統一的な定義はありません。
 平成22年1月8日付け人事院の通知では,パワーハラスメントは,一般に「職権などのパワーを背景にして,本来の業務の範疇を超えて,継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い,それを受けた就業者の働く環境を悪化させ,あるいは雇用について不安を与えること」を指すとされています。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』(平成24年1月30日)は,「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。

2 パワハラの行為類型
 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では,以下のようなものを挙げています。
 ① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
 ② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
 ③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
 ④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害(過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
 ⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

3 パワハラを巡る紛争の実態
 パワハラを不満に思い,公的機関などに相談している労働者の数は多いが,パワハラを理由とした損害賠償請求がメインの訴訟,労働審判 はあまり多くなく,解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代 請求等に付随して,損害賠償請求がなされることが多いです。解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代請求等に付随して,パワハラを理由とする損害賠償請求がなされた場合は,業務指導に必要のない不合理な言動をしているような場合でない限り請求棄却になりやすく,仮に不法行為責任等が認められたとしても慰謝料の金額は低額になりやすい傾向にあります。

4 適法性と適切性
 パワハラが問題とされる言動には,
 ① 違法な言動
 ② 適法だが不適切な言動
 ③ 適切な言動
の3段階があります。
 ②適法だが不適切な言動は数多く見られますが,①違法な言動とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。「パワハラかどうか?」という問題設定がなされることが多いですが,程度の問題として考えた方が実態を正確にイメージすることができます。不適切な言動であっても違法と評価されるとは限りませんが,違法と評価されなかったからといって直ちに適切な言動というわけではありません。

5 違法性の判断基準
(1) 違法なパワハラに該当するかどうかの一般的な判断基準
 「行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうか」により,不法行為法上違法と評価されるかどうかを検討するのが通常です。
 単純化して説明すると,
 ① 業務遂行上必要な言動か(目的)
 ② 社会通念上,許容される範囲を超える言動か(程度)
を検討することになります。
 ①指導教育目的等の業務遂行上必要な言動であれば,やり過ぎない限り,②社会通念上,許容される範囲を超えていないと評価されることになります。他方,①業務上必要のない言動の場合は,②社会通念上,許容される範囲を超えると評価されやすくなります。
 セクハラの対象となる性的言動は業務を遂行する上で不要なものであるのに対し,パワハラの対象となる指導教育,業務命令等は業務を遂行する上で必要なものであるため,業務を遂行する上で必要のない性的言動と比較して,違法とまでは評価されにくい傾向にありますが,業務遂行上必要のない言動については,違法と評価されやすくなります。

(2) 参考裁判例
ア ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京地裁平成24年3月9日判決
 「この点,世上一般にいわれるパワーハラスメントは極めて抽象的な概念で,内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには,質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって,パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係,当該行為の動機・目的,時間・場所,態様等を総合考慮の上,『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が,職務を遂行する過程において,部下に対して,職務上の地位・権限を逸脱・濫用し,社会通念に照らし客観的な見地からみて,通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り,被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。」
イ 海上自衛隊事件福岡高裁平成20年8月25日判決
 「一般に,人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には,心身の健康を損なう危険があると考えられるから,他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は,原則として違法であるというべきであり,国家公務員が,職務上,そのような行為を行った場合には,原則として国家賠償法上違法であり,例外的に,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として,違法性が阻却される場合があるものというべきである。」

(3) 労災認定において心理的負荷が強いとされている言動
 パワハラとの関係では,以下のようなものについて,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。
 ① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた
 ② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
 ③ 治療を要する程度の暴行を受けた
 ④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑥ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑦ 業務に関連し,重大な違法行為(人の生命に関わる違法行為,発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた
 ⑧ 業務に関連し,反対したにもかかわらず,違法行為を執拗に命じられ,やむなくそれに従った
 ⑨ 業務に関連し,重大な違法行為を命じられ,何度もそれに従った
 ⑩ 業務に関連し,強要された違法行為が発覚し,事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)
 ⑪ 客観的に,相当な努力があっても達成困難なノルマが課され,達成できない場合には重いペナルティがあると予告された
 ⑫ 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,執拗に退職を求められた
 ⑬ 恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
 ⑭ 突然解雇の通告を受け,何ら理由が説明されることなく,説明を求めても応じられず,撤回されることもなかった
 ⑮ 非正規社員であるとの理由等により仕事上の差別,不利益取扱いを受け,仕事上の差別,不利益取扱いの程度が著しく大きく,人格を否定するようなものであって,かつこれが継続した

6 業務指導の重要性
 近年では,上司の言動が気にくわないと,何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えています。そのような社員は,勤務態度等に問題があることが多く,むしろ,注意,指導,教育の必要性が高いことが多い印象です。部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。上司の部下に対する注意,指導,教育は必要不可欠なものであり,上司に部下の人材育成を放棄されても困ります。パワハラにならないよう神経質になるあまり,上司が部下に対して何も指導できないようなことがあっては本末転倒です。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』は,
 「個人の受け取り方によっては,業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも,これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には,パワーハラスメントには当たらないものとなる。」
 「なお,取組を始めるにあたって留意すべきことは,職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し,上司としての役割を遂行することが求められる。」
としています。

7 コミュニケーションの重要性
 パワハラ紛争の原因には様々なものがありますが,コミュニケーション不足又はコミュニケーションの取り方が下手なことが主な原因となっているものが多い印象です。コミュニケーションが不足していたり,コミュニケーションの取り方が下手だったりすると,パワハラだと受け取られやすくなります。コミュニケーション能力を向上させるとともに,十分なコミュニケーションを取ることができるよう努力して下さい。
 コミュニケーション能力が不足しているためにパワハラだと言われてしまう場合は,懲戒処分を行うよりも,研修,降職,配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。

8 無断録音
 パワハラの状況は,部下により無断録音されて,証拠として提出されることが多いです。訴訟では,無断録音したものが証拠として認められてしまうのが通常です。
 部下が上司をわざと挑発して,不相当な発言を引き出そうとすることもあります。無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつけて下さい。

9 違法なパワハラと評価されないための心構え
 自分の言動が録音されていて,社長,上司,裁判官等に聞かれても問題ないような言動を心がければ,通常は違法なパワハラと判断されるようなことはしないのが通常です。


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派手な化粧・露出度の高い服装で出社する社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

派手な化粧・露出度の高い服装で出社する。

 化粧・服装等の身だしなみは,本来,私的領域に属する問題ですが,労働契約上の制約を受けます。使用者は,化粧・服装等の身だしなみに関し規律を定めることができ,それが職種や業務内容に照らし必要かつ合理的なものである場合には,社員はその規律に従う義務を負います。
 派手な化粧・露出度の高い服装で出社することは,基本的には注意指導して改善させるべき問題です。業務遂行にどのような支障が生じるのか,よく説明して指導する必要があります。
 長期間,派手な化粧・露出度の高い服装での出社を認めてきた職場で注意しても,素直に指示に従ってもらえないことが多いところです。問題を把握したら,早期かつ平等に対処することが重要です。
 どのように指導するかということだけでなく,誰が指導するかということも重要です。あの上司の言うことなら聞くが,この上司の言うことは聞きたくないということもあり得ます。
 直属の上司の指導力が不足している場合は,直属の上司に任せきりにせず,組織として対応する必要があります。
 男性の上司が女性の身だしなみについて指導する場合,指導をセクハラだと言われることがありますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はセクハラではありません。ただし,普段,性的な事柄に関しふざけた発言を繰り返しているような上司が指導しても,納得してもらいにくいという事実上の問題はあります。女性の上司・先輩が指導した方がうまくいくこともあります。上司の指導をパワハラ と言い出す社員もいますが,職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はパワハラではありません。
 口頭で注意指導しても改善しない場合は,書面で注意指導します。書面で注意指導しても改善しない場合には,懲戒処分を検討せざるを得ませんが,職場秩序を乱した程度と懲戒処分の重さのバランスに気をつける必要があります。特に解雇 は慎重に行って下さい。派手な化粧・露出度の高い服装を理由とした解雇は,余程の事情がない限り,無効とされるリスクが高いものと思われます。


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勤務態度が悪い社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

 

勤務態度が悪い。

 

1 注意指導
 勤務態度が悪い社員は,注意指導してそのような勤務態度は許されないのだということを理解させる必要があります。訴訟や労働審判 になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多い印象があります。
 勤務態度が悪い社員を放置することにより,他の社員のやる気がそがれたり,新入社員がいじめられたり,仕事を十分に教えてもらえなかったりして,退職してしまったりすることがありますし,金品の横領,手当等の不正受給の温床にもなります。
 上司が,勤務態度が悪い社員に対して注意指導した場合,反発を買うことは珍しくなく,トラブルになることもあるせいか,注意指導を怠る上司が散見されます。当然行うべき注意指導を行うことができる上司は,注意指導できない上司よりも高く評価する必要があります。勤務態度が悪い社員が注意指導に従わない場合には,直属の上司1人に任せきりにせず組織として対応して下さい。当然行うべき注意指導を行って勤務態度が悪い社員の反発を買うよりも,勤務態度が悪い社員を放置したままにしておいて異動を待った方がマイナス評価がつかず得だと考える上司が出てこないようにする必要があります。
 長年にわたって勤務態度の悪い社員を放置してきた職場において,新任の上司があるべき勤務態度に是正しようとして反発を買い,トラブルになることが多いところです。勤務態度が悪くても長年放置され,態度の悪さが年々悪化してきた社員の態度を改めさせるのは難易度が高く,解雇・退職の問題に発展することも多いですので,勤務態度の悪さが悪化する前に,対処する必要があります。こういった社員は,時間をかけて根気強く注意指導していく必要があり,注意指導しても従おうとしないからといって,放置してはいけません。
 口頭で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は,将来の懲戒処分,退職勧奨 解雇 ,訴訟活動を見据えて,書面で注意指導します。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟や労働審判になった場合,勤務態度の悪さを改めるよう注意指導した証拠を確保することもできます。
 当事務所に相談にいらっしゃった会社経営者から「自分の勤務態度が悪いことや何度も注意指導されてきたことは,本人が一番よく分かっているはずです。」との説明を受けることが多いですが,訴訟や労働審判では,労働者側から,自分の勤務態度は悪くないし,注意指導を受けたことは(ほとんど)ないと主張がなされるのがむしろ通常です。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,当該社員の勤務態度の悪さが甚だしいことや十分に注意指導してきたことを立証するのが困難となってしまいます。
 「上司も,部下も,同僚も,取引先もみんな,彼(女)の勤務態度が悪いことを知っていますし,法廷で証言してくれると言っています。」という話をお聞きすることも多いですが,一般的には,紛争が表面化してから作成された上司・同僚・部下の陳述書や法廷での証言はあまり証拠価値が高くありません。取引先の社員に訴訟で証人になるよう頼むことは,それ自体ハードルが高いことが多いです。「彼(女)の勤務態度が悪い。」という点では関係者の意見が一致していたとしても,何月何日の何時頃,どこで何をどのようにしたから勤務態度が悪いと評価することができるのかといった具体的事実を聞いても,具体的日時場所等を説明できないことは珍しくありません。勤務態度が悪いことを基礎付ける具体的事実を説明できないと証拠価値が高く評価されにくくなります。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

2 懲戒処分
 書面で注意指導しても勤務態度の悪さが改まらない場合は,懲戒処分を検討することになります。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていきます。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇 したのではよほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,勤務態度が悪い社員に対して注意指導や懲戒処分ができないようでは,組織として十分に機能しているとはいえません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者の責任です。

3 退職勧奨
 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが乏しい場合には,会社を辞めてもらうほかありませんので,退職勧奨や解雇を検討することになります。十分に注意指導し,繰り返し懲戒処分を行っており,解雇が有効となりそうな事案では,解雇するまでもなく,退職勧奨に応じてもらえることが多いところです。
 他方,勤務態度の悪さの程度がそれほどでもなく,十分な注意指導や懲戒処分がなされていない等の理由から解雇が有効とはなりそうもない事案,誠実に勤務する意欲が低かったり能力が低い等の理由から転職が容易ではない社員の事案,本人の実力に見合わない適正水準を超えた金額の賃金が支給されていて転職すればほぼ間違いなく当該社員の収入が減ることが予想される事案等では,退職届を提出させる難易度が高く,退職に同意してもらうために支払う割増退職金等の金額も高くなりがちです。

4 解雇
 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが低い場合には,退職勧奨と平行して普通解雇や懲戒解雇を検討することになります。
 普通解雇(狭義)とは,能力不足,勤務態度不良,業務命令違反等,労働者に責任のある事由による解雇のことをいい,懲戒解雇とは,使用者が有する懲戒権の発動により,一種の制裁罰として,企業秩序に違反した労働者に対し行われる解雇のことをいいます。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないというためには,普通解雇や懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど社員の勤務態度の悪さの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に普通解雇や懲戒解雇に値すると考えただけでは足りません。
 勤務態度が悪い社員の普通解雇や懲戒解雇が②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないかを判断するにあたっては,勤務態度の悪さが業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,勤務態度が悪い理由,謝罪・反省の有無,勤務態度の悪さを是正するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されます。

 


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遅刻や無断欠勤が多い社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

遅刻や無断欠勤が多い。

1 注意指導
 遅刻や無断欠勤が多い社員は,注意指導して遅刻や無断欠勤をしてはいけないのだということを理解させることが重要です。当たり前の話のように聞こえるかもしれませんが,訴訟や労働審判になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多いという印象です。
 従来,ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をしたからといって,直ちに処分することは困難ですので,今後は遅刻や無断欠勤には厳しく対処する旨伝え,それでも改善しない場合に懲戒処分等を検討していくことになります。
 口頭で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,書面で注意指導することになります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,遅刻や無断欠勤を注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇 は無効であるといった主張がなされることが多いです。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。


2 懲戒処分
 書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,よほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,遅刻や無断欠勤の多い問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,会社経営者や上司として当然行うべき仕事ができていないと言わざるを得ません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者や上司の責任です。


3 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても遅刻や無断欠勤が改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇 退職勧奨 を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。


4 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,②解雇権又は懲戒権を濫用したものとして無効となってしまいますし,そもそも①解雇事由に該当しない可能性もあります。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 遅刻や無断欠勤が多い社員の解雇の有効性を判断するにあたっては,遅刻や欠勤が業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,遅刻や欠勤の理由,謝罪・反省の有無,遅刻欠勤を防止するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されることになります。
 注意指導,懲戒処分等で遅刻や無断欠勤をしなくなるのであれば,注意指導等により是正すれば足りるのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では遅刻や無断欠勤の頻度が改善されないかどうかが問題となります。
 客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分をしても遅刻や無断欠勤は改善されないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。


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協調性がない社員の対応方法

2014-08-15 | 日記

協調性がない。

1 協調性のなさの程度
 協調性がないといっても程度問題であり,通常許される個性の範囲内に収まっている程度の問題なのか,それとも,社員としての適格性が問われ,又は企業秩序を阻害するものなのかを見極める必要があります。よく検討しないまま主観的に協調性がないと決めつけてしまうのは危険です。周囲の社員に問題があることもあるので,客観的に判断するためにも,本人の言い分もよく聴取して事実確認をする必要があります。

2 注意指導
 協調性のない社員の対処法としては,注意指導して,周囲と協調性を保つことの重要性を理解させることが何よりも重要です。
 口頭で注意指導しても改善しない場合は,書面で注意指導する必要がある場合もあります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,協調性のなさを注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇 は無効であるといった主張がなされることが多くなっています。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラ であるなどと反発を受けることも珍しくありません。

3 配置転換
 配転の余地があるのであれば,協調性がないとされている社員を別の部署に配転させ,配転先でもやはり協調性がないのか確かめてみた方が無難です。周囲の社員に問題があることもあり,配転先では協調性がないとは評価されない可能性があります。他方,配転先でも協調性がないために周囲との軋轢が生じるようであれば,本人に問題がある可能性が高いと言わざるを得ません。

4 懲戒処分
 書面で注意指導しても改善しない場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありませんが,懲戒処分もせずにいきなり解雇 したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,悪質な事情がない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高くなります。
 そもそも,協調性のない問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,かえって周囲の社員が迷惑を被って職場の雰囲気が悪くなってしまい,場合によっては退職者が続出することになりかねません。問題点があるのに十分な注意指導もできず,懲戒処分にもできず,いきなり解雇するほかないというのでは,コミュニケーション不足の職場と言うほかありません。必要な注意指導や懲戒処分を行うとともに,職場の雰囲気を良くするためにリーダーシップを発揮するのは,会社経営者の責任です。

5 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても著しい協調性のなさが改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇 退職勧奨 を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。

6 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要ですし,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,そもそも①解雇事由に該当しないだとか,②解雇権又は懲戒権を濫用したとして,無効となってしまいます。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 協調性を欠くことを理由とする解雇が客観的に合理的なものであるかどうかを判断するにあたっては,協調性が特に必要とされる業務内容,職場環境かどうかという点を効力する必要があり,チームワークが重視される共同作業が多い業務内容なのか,少人数の職場なのか等を検討する必要があります。
 注意指導,懲戒処分等で協調性のなさが改善されるのであれば,注意指導や懲戒処分で改善させればいいのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では著しい協調性のなさの改善が期待できないかどうかが問題となります。客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分等をしても改善の見込みがないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分等を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。


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