弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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パワハラ紛争の類型にはどのようなものがありますか?

2014-08-24 | 日記

 

パワハラ紛争の類型にはどのようなものがありますか?

 

 パワハラ 紛争の類型には,以下のようなものがあります。
① 安全配慮義務違反や不法行為(使用者)責任を理由とした損害賠償請求
② 解雇 ,休職期間満了退職無効を理由とした地位確認請求
③ 合意退職の錯誤無効・強迫取消等を理由とした地位確認請求
④ 労災認定の問題

 


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適法だが不適切な言動がなされた場合の対処法について教えて下さい。

2014-08-24 | 日記

適法だが不適切な言動がなされた場合の対処法について教えて下さい。

 適法な言動だったとしても,適切な言動とは限らず,紛争が表面化するような事案における言動は,むしろ,改善の余地が大きいことが多いところです。
 企業を運営していく上でより優れた指導方法等はないかを追求する必要があります。

 適法だが不適切な言動がなされたことが判明した場合には,当該行為者に対しては,注意指導,研修等で対処するのが通常ですが,あまりにも管理職 としての適格性が欠如していたり,周囲の部下等との相性が悪かったりする場合には,降格や配置転換等を検討せざるを得ないこともあります。
 違法ではないが不適切な言動の改善を経営者が試みた場合,従来どおりのやり方を続けたい現場社員が抵抗し,経営者(人事労務担当者)と対立することもありますが,不適切な言動の改善が現場社員の多くから支持を受けているのであれば,研修を実施したり,抵抗している社員に対して注意指導を行っていけば足ります。


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違法なパワハラがなされたことが判明した場合の対処法について教えて下さい。

2014-08-24 | 日記

違法なパワハラがなされたことが判明した場合の対処法について教えて下さい。

 違法なパワハラ がなされたことが判明した場合には,行為者に対し,注意指導,研修等の教育,懲戒処分,配置転換等を検討することになりますが,懲戒処分,配置転換等については,行為者が経営者(人事労務担当者)と対立することもあります。
 行為者以外の従業員に対しても,研修等の教育を行うなどして,パワハラ問題を周知させることになりますが,違法と評価されるような言動をしてはいけないことについては,比較的理解を得られやすいところです。
 違法なパワハラ受けた従業員からはよく話を聞いて対応を検討し,できる限り不満が残らないよう配慮すべきでしょう。


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パワハラを法的に分析する際の視点を教えて下さい。

2014-08-24 | 日記

パワハラを法的に分析する際の視点を教えて下さい。

 パワハラ が問題とされる言動には,①違法な言動,②適法だが不適切な言動,③適切な言動の3段階があります。
 ②適法だが不適切な言動は数多く見られますが,①違法な言動とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。
 「パワハラかどうか?」という問題設定がなされることが多いですが,程度の問題として考えた方が実態を正確にイメージすることができると思います。
 例えば,百点満点で採点し,
① 違法な言動      0点~20点
② 適法だが不適切な言動 21点~80点
③ 適切な言動      81点~100点
といったイメージで捉えると理解しやすいはずです。


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セクハラとパワハラの主な違いはどのような点にあると思いますか?

2014-08-24 | 日記

セクハラとパワハラの主な違いはどのような点にあると思いますか?

 セクハラとパワハラ には様々な違いがありますが,特に以下の点が重要なのではないかと考えています。
① 性的言動は業務を遂行する上で不要なものであるのに対し,注意指導,業務命令等は業務を遂行する上で必要なものである。
② 注意指導,業務命令等は業務を遂行する上で必要なものであるため,業務を遂行する上で必要のない性的言動と比較して,違法とまでは評価されにくい。
③ セクハラは個人的な問題であることが多いのに対し,パワハラの場合は,会社の意向を受けて行った注意指導,業務命令等が違法となるかが問題となることも珍しくない。


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パワハラを巡る紛争の実情はどのようなものですか?

2014-08-24 | 日記

パワハラを巡る紛争の実情はどのようなものですか?

 パワハラ を不満に思い,公的機関などに相談している労働者の数は多いですが,パワハラを理由とした損害賠償請求がメインの訴訟,労働審判 はあまり多くなく,解雇 無効を理由とした地位確認請求,残業代 請求等に付随して,損害賠償請求がなされることが多いという印象です。
 解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代請求等に付随して,パワハラを理由とする損害賠償請求がなされた場合は,業務指導に必要のない不合理な言動をしているような場合でない限り請求棄却になりやすく,仮に不法行為責任等が認められたとしても慰謝料の金額は低額になりやすい傾向にあります。


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パワーハラスメントの定義を教えて下さい。

2014-08-24 | 日記

パワーハラスメントの定義を教えて下さい。

 パワーハラスメント は法律上の用語ではなく,統一的な定義はありません。
 平成22年1月8日付け人事院の通知では,パワーハラスメントは,一般に「職権などのパワーを背景にして,本来の業務の範疇を超えて,継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い,それを受けた就業者の働く環境を悪化させ,あるいは雇用について不安を与えること」を指すとされています。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』(平成24年1月30日)は,「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。


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「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は増えていますか?

2014-08-24 | 日記

「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は増えていますか?

 『平成24年度個別労働紛争解決制度施行状況』(平成25年5月31日)によると,民事上の個別労働紛争相談の内訳のうち,「いじめ・嫌がらせ」の占める割合は,平成14年度から一貫して高まっています。
 民事上の個別労働紛争「相談」件数は,平成23年度までは「解雇 」に関するものが最も多かったのですが,平成24年度は,
 いじめ・嫌がらせ 5万1670件(17.0%)
 解雇         5万1515件(16.9%)
と,「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が初めて最多となりました。


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パワハラに関する紛争

2014-08-24 | 日記

 パワハラ に関する紛争は近年増加傾向にあり,会社を経営していく上で,パワハラ対策は避けては通れない問題です。
 弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京) は,パワハラに関する紛争を数多く取り扱ってきました。会社経営者を悩ますパワハラに関する紛争の対応,パワハラ問題のコンサルティングは,弁護士法人四谷麹町法律事務所(東京)にご相談下さい。


弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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賃金減額に同意したのに賃金減額は無効だと主張する。

2014-08-23 | 日記

賃金減額に同意したのに賃金減額は無効だと主張する。

1 社員との合意による賃金減額
 労働契約法8条は,「労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と規定しており,賃金減額のような労働条件の不利益変更は,社員との合意により行うのが原則となります。
 ただし,個別合意により,労働協約や就業規則で定める基準に達しない水準に賃金を減額することはできません。また,賃金減額の同意の存在を立証できなかったり,同意に瑕疵があったりした場合は,同意の効力が否定されることになります。


2 個別合意と労働協約で定める労働条件の関係
 労組法16条は,「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は,無効とする。この場合において無効となった部分は,基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても,同様とする。」と規定しており,労働協約で賃金額について具体的に定められている場合は,個別の組合員との間で,労働協約よりも低い水準に賃金を減額する旨の個別同意を取ったとしても,賃金減額は無効となります。
 労働協約の効力が及ぶのは,原則として労働協約を締結した労働組合の労働組合員に限られることになりますが,労働協約には,労組法17条により,一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは,当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められています。労組法17条の要件を満たす場合には,未組織の同種労働者に対しても労働協約の効力が及びますので,労働協約よりも低い水準に賃金を減額する旨の同意を取ったとしても,賃金減額は無効となります。
 したがって,労働協約の効力が及ぶ社員との間で,労働協約よりも低い水準に賃金を減額する場合は,労働組合との間で賃金減額を合意し,労働協約を改定するなどする必要があります。


3 個別合意と就業規則で定める労働条件の関係
 労契法12条は,「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,その部分については,無効とする。この場合において,無効となった部分は,就業規則で定める基準による。」と規定しており,就業規則で賃金額について具体的に定められている場合は,就業規則よりも低い水準に賃金を減額する旨の個別同意を取ったとしても,賃金減額は無効となります。
 したがって,就業規則で定める賃金よりも低い水準に賃金を減額する場合は,就業規則を変更する必要があります。
 就業規則変更により賃金を減額する場合は,就業規則の不利益変更に該当するため,就業規則の変更が有効となるためには,以下のいずれかの場合である必要があります。
 ① 労働者と合意して就業規則を変更したとき(労契法9条反対解釈)
 ② 変更後の就業規則を周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(労契法10条)
 ①に関し,「就業規則の不利益変更は,それに同意した労働者には同法9条によって拘束力が及び,反対した労働者には同法10条によって拘束力が及ぶものとすることを同法は想定し,そして上記の趣旨からして,同法9条の合意があった場合,合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないと解される。」(協愛事件大阪高裁平成22年3月18日判決)との見解が妥当と思われますが,労働者の同意があれば合理性や周知性は就業規則の変更の要件とはならないとの見解に立ったとしても,合意の認定は慎重になされるのが通常のため,労働者が就業規則の変更を提示されて異議を述べなかったといったことだけでは不十分であり,最低限,書面による同意を取る必要があります。また,合理性に乏しい就業規則の規定の変更については,書面による同意を取ったとしても,労働者の同意があったとは認定されないリスクが高いものと思われます。
 ②に関し,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずることになります(大曲市農協事件最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決)。


4 賃金減額に対する同意の存否
 賃金減額に対する同意があったことを立証できるようにするため,「書面」で同意を取っておくべきです。退職(を決意)したり,紛争が表面化したりした後に個別同意を取るのは難易度が高いですが,在職中の労働者から個別同意を取り付けるのは難易度が低いことが多い印象があります。
 書面による同意がない事案においては,口頭では社員の同意を得ていたとか,賃金を減額する旨口頭で説明しており,社員も減額後の賃金を異議ととどめることなく受領していたから,賃金減額に対する黙示の同意があるなどと主張することになりますが,賃金減額に対する同意があったと認定してもらえるかの予測可能性が低く,賃金減額に対する個別同意の存在を認めるに足りる証拠はないとして,賃金減額が認められないリスクが高いものと思われます。


5 既発生(過去)の賃金債権の減額に対する同意の有効性
 既発生(過去)の賃金債権の減額に対する同意は,既発生の賃金債権の一部を放棄することにほかならなりませんから,それが有効であるというためには,それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであることが明確である必要があります(シンガーソーイングメシーン事件最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決,北海道国際空港事件最高裁平成15年12月18日第一小法廷判決参照)。
 したがって,既発生(過去)の賃金債権の減額に対する同意の意思表示は明確なものでなければならず,社員の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したということができなければ,その効力が否定されることになります。


6 未発生(将来)の賃金債権の減額に対する同意の有効性
 未発生(将来)の賃金債権の減額に対する同意についても「賃金債権の放棄と同視すべきものである」とする下級審裁判例もあります。したがって,事前の対応としては,社員の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したといえるよう配慮した方が無難とはいえると思います。
 もっとも,未発生(将来)の賃金債権の減額に対する同意は,労働者と使用者が合意により将来の賃金額を変更したに過ぎず,賃金債権の放棄と同視することはできないのですから,通常の同意で足りると考えるべきであり,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確であることまでは要件とされないものと考えるべきです。
 北海道国際空港事件最高裁平成15年12月18日第一小法廷判決が,「原審は,上告人が平成13年7月25日に減額された賃金を受け取り,その後同年11月まで異議を述べずに減額された賃金を受け取っていた事実によれば,同年7月1日にさかのぼって賃金が減額されることも,上告人はやむを得ないものとしてこれに応じたものと認めることができると認定した。すなわち,原審は,上告人が平成13年7月25日に同月1日以降の賃金減額に対する同意の意思表示をしたと認定したのであるが,この意思表示には,同月1日から24日までの既発生の賃金債権のうちその20%相当額を放棄する趣旨と,同月25日以降に発生する賃金債権を上記のとおり減額することに同意する趣旨が含まれることになる。しかしながら,上記のような同意の意思表示は,後者の同月25日以降の減額についてのみ効力を有し,前者の既発生の賃金債権を放棄する効力は有しないものと解するのが相当である。」と判示し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定しているのは,既発生の賃金債権の減額(放棄)に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件と未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件を明確に区別し,未発生の賃金債権の減額に対する同意の意思表示の効力を肯定するための要件としては,それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであることが明確でなければならないことを要求していないからであると考えられます。


7 錯誤無効・強迫取消等
 賃金減額に対する同意に関する意思表示に瑕疵がある場合には,錯誤無効・強迫取消等が認められる可能性があります。


8 各論
(1) 定期昇給凍結
 労働協約や就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められている場合に定期昇給を凍結するためには,個別同意だけでは足りず,労働協約や就業規則において,定期昇給を凍結する旨定める必要があります。
 労働協約や就業規則に一定額・割合以上の定期昇給を行う義務が定められておらず,使用者に定期昇給の努力義務が課せられているに過ぎない場合は,定期昇給をしなくても法的問題はありません。
(2) ベースアップ凍結
 ベースアップは労使交渉により特段の決定がなされない限り行う必要はありません。
(3) 賞与減額
 労働協約,就業規則,個別労働契約で具体的な額・割合の賞与を支給する義務が定められていない場合には,賞与請求権は具体的権利とはいえないため,従来よりも低い金額を支給しても問題ありません。
 他方,労働協約や就業規則で具体的な額・割合の賞与を支給する義務が定められている場合に賞与を減額するためには,個別同意では足りず,労働協約や就業規則の変更が必要となります。
 労働協約や就業規則で具体的な額・割合の賞与を支給する義務が定められておらず,個別労働契約でのみ定められている場合は,個別同意により賞与を減額することができます。
(4) 諸手当の減額
 労働協約や賃金規程で具体的金額が定められた諸手当を減額する場合は,個別同意だけでは足りず,労働協約や賃金規程の変更が必要となります。
 労働協約や賃金規程で具体的金額が定められていない場合は,個別同意により諸手当を減額することができます。
(5) 年俸額の引下げ
 労働協約や就業規則に特段の定めがない限り,年俸制社員の同意があれば,年俸額を減額させることができます。
 次年度の年俸額の減額については有効性が認められやすいですが,年度途中の年俸額減額は,いったん合意した賃金額を減額するものであるため,次年度の年俸額の減額と比較して,合意の有効性が慎重に判断されるものと思われます。
(6) 休業時の賃金カット
 会社の業績が悪いこと等を理由とした休業がなされた場合は,通常は使用者の責めに帰すべき事由があると言わざるを得ないため,平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります(労基法26条)。休業手当の支払義務は,個別合意により排除することはできないため(労契法13条),不支給とすることについて社員の同意があったとしても,平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
 民法536条2項は民法上の任意規定であり,特約で排除することもできるため,休業期間中は平均賃金の60%の休業手当のみを支払う旨明確に合意しておけば,労働協約や就業規則に反しない限り,理論的にはこれを超える賃金を支払う義務はありません。ただし,裁判所は,民法536条2項の適用除外について慎重に判断する傾向にあります。単に,労基法26条に規定する休業手当について定めたものではなく,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものであることを明確にしておく必要があります。


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ホウレンソウ(報・連・相)ができない。

2014-08-23 | 日記

ホウレンソウ(報・連・相)ができない。

1 ホウレンソウ(報・連・相)の重要性
 いわゆるホウレンソウ(報・連・相)は,「報告・連絡・相談」の略語です。一般的には,部下が仕事を遂行する上で上司との間で取る必要のあるコミュニケーションの手段を表す言葉として,ホウレンソウ(報・連・相)が用いられることが多いようです。
 報・連・相が適切に行われれば,仕事の進捗状況や会社の問題点についての情報を共有することができるようになります。その結果,個々の社員としてではなく,組織として問題点に対処することができますので,リスクを管理したり,仕事を効率的に処理したりしやすくなります。
 逆に,報・連・相が適切に行われていない組織においては,問題点が上司等に伝わらない結果,十分なリスク管理ができずに会社が大きな損害を被ることになりかねません。また,仕事の処理能力が不十分な社員が孤立した状態で仕事をすることになりがちのため,仕事の効率が悪くなったり,成果が上がりにくくなったりしやすくなります。
 現在,報・連・相が適切に行われることの重要性は,ますます高まっているといえるでしょう。

2 適切な報・連・相とは
 もっとも,部下が上司に対して報・連・相すべき対象を吟味せずに何でも報・連・相すればいいというものではありませんし,効率的に報・連・相ができるよう工夫する必要もあります。何でも報・連・相しなければならないとしたのではあまりに業務効率が悪くなりますし,部下が自主的に判断して仕事を進める能力が鍛えられにくくなってしまいます。また,報・連・相の仕方について工夫しないと,部下が上司に報・連・相したいことがうまく伝わらなかったり,余計な時間がかかってしまったりしがちになります。
 何を報・連・相すべきかは,ケース・バイ・ケースの判断が求められることが多いですが,上司から部下に対して何らかの指標を示してやらないと,適切な報・連・相ができるかどうかは,部下個人の資質により大きく左右されてしまいます。上司と部下でよくコミュニケーションを取って認識を共有し,何を報・連・相すべきなのかについて部下が判断しやすくなるよう努力すべきでしょう。例えば,部下からの報・連・相を待つだけでなく,定期的に報・連・相のための時間を取り,部下が報・連・相しやすくするといった工夫も考えられます。
 可能であれば,必ず報・連・相すべき事項や,どのような方法で報・連・相すべきかについてのルールを整備しておきたいところです。また,報・連・相に用いる書式を作成し,効率的に報・連・相できるようにするといった工夫も考えられます。
 一般論としては,会社にとって都合の悪い情報ほど,直ちに報・連・相する必要性が高くなります。会社にとって大きな問題とならないような情報であれば,定期的に直属の上司に対して報・連・相するようにさせれば足りますが,会社にとって大きな問題となりそうな悪い情報の場合は,緊急に上司ひいては経営者が把握できるようにしておく必要があります。
 部下の上司に対する報・連・相の具体的なやり方について少しお話ししますと,まずは結論を簡潔に伝えた上で,具体的経過等の説明を行った方が,上司は情報を把握しやすいのが通常です。「事実」と「意見」を明確に区別して報告等を行うことも重要で,自分の意見や感想をあたかも客観的事実であるかのように報告すると,上司が正確な判断をすることができなくなってしまいます。単純な内容のものや急いで報告しなければならないことはまずは口頭で報告すべきですし,重要で記録に残しておく必要性が高いものや複雑で書面に記載しないと分かりにくいものは,口頭で説明するだけでなく,できる限り書面も作成して説明する必要があります。電子メールは有用なツールですが,頼りすぎるとコミュニケーション不足に陥るなどして,かえって効率が悪くなることがありますので,重要なものや緊急のものについては,対面又は電話での報・連・相と併せて電子メールを利用すべきでしょう。

3 報・連・相ができない社員の対処法
 上司と部下でよくコミュニケーションを取って認識を共有する努力をしていれば,部下が最低限の報・連・相もできないということは,仕事に不慣れな新入社員のケースでもない限り,そう多くはありません。部下が報・連・相しようとしない場合,まずは上司である自己の言動が,部下の報・連・相を抑制させる結果になっていないか,よく考えてみるべきでしょう。部下が当然,報・連・相すべきときに報・連・相したのに対し,上司として当然行うべき対応を怠ることが度重なれば,部下も上司に対して報・連・相しなくなります。
 部下が報・連・相できない場合,上司が当該部下とよくコミュニケーションを取って,報・連・相すべき事項について繰り返し指導教育する必要があります。それでもなお,部下が報・連・相しない場合には,部下に報・連・相する意思がないのか,いくら教育しても理解できない程度の能力しか有していないのかを見極める必要があります。
 部下に報・連・相する意思がない場合は,厳重注意書を交付したり,懲戒処分に処したりして対応します。懲戒処分を繰り返しても態度が改まらない場合は,退職勧奨 解雇 も検討せざるを得ないでしょう。
 部下の理解能力不足が原因の場合は対応が少々やっかいです。本人は精一杯,報・連・相しようとしてもする能力がないわけですから,賞与等の査定において低く評価することはできても,懲戒処分に処することはできません。また,裁判所は,一般的には,地位や職種を特定して高額の賃金で採用したような場合を除き,能力不足を理由とした正社員の解雇をなかなか認めない傾向にありますので,本人が退職に同意しない限り,辞めさせることも困難なケースが多いというのが実情です。
 後になってから言っても仕方がないことかもしれませんが,部下の理解能力不足については採用の段階でチェックすることができたはずです。筆記試験の成績が悪かったり,会話の受け答えがちぐはぐな応募者を採用しないようにすれば,極端に理解能力が不足した社員を採用せずに済むのではないかと思います。縁故採用の場合は理解能力のチェックが甘くなりがちですが,最低限の能力があるかどうかについてはチェックしないと,大きな問題を抱えることになりかねません。仮に,採用時には理解能力不足を見抜けなかったとしても,試用期間満了時までには理解能力不足を把握して本採用拒否できるようにしておきたいところです。


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飲み会で部下に飲酒を強要する。

2014-08-23 | 日記

飲み会で部下に飲酒を強要する。

1 飲酒強要の問題点
 上司と部下が酒食を共にすることは,普段の仕事とは違った打ち解けた雰囲気での親密なコミュニケーションを促し,円滑な人間関係の形成に資する面がありますが,体質上,お酒を全く飲めない人もいますし,お酒が弱いだけである程度は飲める人であっても,体調や気分次第では飲酒したくないこともあり,一緒にお酒を飲みさえすれば人間関係が良くなるというものではありません。お酒の最低限のマナーを守れない飲み方,飲ませ方をすれば,かえって人間関係が悪化してしまうこともあります。
 勤務時間外の飲み会の席で部下が飲酒しなければならない労働契約上の義務がないことは明らかですから,部下が飲酒を断っているにもかかわらず,上司が執拗にお酒を飲ませようとすることは,部下の意向を無視して部下に義務のないことを行わせようとしているに過ぎず,何らの法的根拠もありません。
 部下が業務として上司の指揮命令の下,接待などに従事しているような場合には,部下も飲酒することが業務遂行上望ましい場合もあり得ますが,飲酒というものの性質上,通常は上司が部下に対して強要できる性質のものではないのではないかと思われます。
 上司が部下に対して飲酒を強要すれば,上司,職場環境,さらには会社そのものに対する部下の評価や就労意欲が低下し,他に良い職場があるのであれば転職しようという気持ちにさせかねません。
 また,飲み会の席で上司が部下に飲酒を強要した結果,部下が体調を崩したり精神的にダメージを受けたりすれば,その程度にもよりますが,会社は使用者責任や安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務(民法715条,415条)を負う可能性があります。
 ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京高裁平成25年2月27日判決(労判1072号5頁)は,上司が極めてアルコールに弱い体質の部下に対し執拗に飲酒を強要したことなどについて会社の使用者責任を認め,慰謝料150万円の支払を命じています。同事件東京地裁平成24年3月9日判決(労判1050号68頁)では飲酒強要の点については不法行為とは認めなかったのですが,高裁判決は,部下が少量の酒を飲んだだけでも嘔吐しており,上司は,部下がアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず,「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い,部下の体調の悪化を気に掛けることもなく,再び部下のコップに酒を注ぐなどしており,これは,単なる迷惑行為にとどまらず,違法というべきであるとして不法行為による損害賠償責任を認めています。上司が部下に飲酒を強要することに合理的理由は元々ありませんが,上司としては,最低限,部下がアルコールに弱いことに気付いたら飲酒を勧めるのを止めるといった程度の配慮は必要となってくるものと思われます。
 さらに,飲酒強要により部下が体調を崩したり,精神疾患 を発症したりして損害賠償請求訴訟が提起され,判決において会社の責任が認められた場合は,社内で飲酒強要がなされた事実が世間一般に知られるところとなり,新規採用や顧客獲得に支障を来すなどのレピュテーションリスクを負うことにもなります。
 飲み会の席での飲酒強要であっても,上司と部下との間の個人的問題では済まないことは珍しくなく,会社が紛争の当事者とされて,訴訟では被告として防御活動を展開しなければならないリスクを負っていることに留意する必要があります。

2 具体的対処法
 上司が,飲酒強要が部下に嫌がられているわけでないとか,部下は「社会人」「会社員」として自分のしている程度の飲酒強要は我慢するのが当然だと勘違いしているようであれば,当該管理職 の考えを改めさせる必要があります。
 その具体的方法としては,まずは定期的にパワハラ ・セクハラ研修を受講させ,その中で飲酒強要をしてはいけないことだということを理解させることが考えられます。飲酒強要を禁止する旨,就業規則の服務規律に明記してもいいでしょう。
 もっとも,会社の実態が研修内容等と大きく異なれば,それは「建前」に過ぎず守らなくてもよいのだと受け止められかねません。会社社長や役員が自らの言動を律するのは当然のこととして,上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり,あってはならないものなのだというメッセージを,社内に向けて繰り返し発信するようにすべきでしょう。飲酒を断っている社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には,その都度注意指導して是正させることは最低限必要です。
 実際に飲酒強要がなされた場合に情報を会社が早期かつ的確に把握できるようにするための方法としては,社内の相談窓口や外部の弁護士窓口を設置し,相談しやすい雰囲気を作っておくとよいと思います。
 会社がしっかり対応すれば,飲酒強要問題がそう頻繁に起こるとは思えませんが,従来,飲酒強要が容認されてきた企業風土の会社において,飲酒強要を改めさせようとしたような場合には,上司が反発してなかなか言うことを聞かないことになりがちです。自分が上司にされてきたことを,今度は自分が部下にして何が悪いと言った発想を持つ管理職 もいるかもしれません。
 いくら注意指導しても部下に対する飲酒強要を改めようとしない管理職については,厳重注意書を交付したり,懲戒処分に処したりせざるを得ません。管理職としての適格性が欠如していると判断されるような場合には,人事権を行使して管理職から外す必要があります。単なる部下との相性の問題に過ぎない場合は,他の部署に配置転換することによって対処できるかもしれません。
 懲戒処分を何度積み重ねても飲酒強要が改まらず,上司が会社に対して反抗的・挑戦的態度を取ってくるような場合は,最終的には退職勧奨 又は解雇 して辞めてもらわざるを得ません。
 上司の部下に対する飲酒強要の有無,程度は,企業風土を色濃く反映しているという印象があります。上司に研修を受けさせたりすることはもちろん重要なことなのですが,会社社長や役員が自らの言動を律した上で,上司の部下に対する飲酒強要は部下の勤労意欲を低下させるものであり,あってはならないものなのだというメッセージを,社内に向けて繰り返し発信するとともに,部下等の他の社員に対し執拗にお酒を飲ませようとしている社員がいることに気付いた場合には,その都度注意指導して是正させることが,何より重要となってくるものと思われます。


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解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。

2014-08-22 | 日記

解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。

1 退職届を提出させることの重要性
 社員が口頭で会社を辞めると言って出て行ってしまったような場合,退職届等の客観的証拠がないと口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇 したと認定されたり,合意退職も成立しておらず解雇もされていないから労働契約は存続していると認定されたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は口頭で退職を承諾するだけでなく,退職届を提出させて退職の申出があったことの証拠を残しておいて下さい。印鑑を持ち合わせていない場合は,退職届に署名したものを提出させれば足ります。後から印鑑を持参させて面前で押印もさせることができればベターです。
 出社しなくなった社員が退職届を提出しない場合には,電話,電子メール,郵便等を用いて,
 ① 退職する意思があるのであれば退職届を提出すること
 ② 退職する意思がないのであれば出勤すること
を要求して下さい。放置したままにしておくのはリスクが高いです。特に,解雇通知書や解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。

2 解雇されたという話に持って行きたい労働者側の意図
 使用者から解雇されていないにもかかわらず,解雇されたという話に持って行きたい労働者側の意図は,主に以下のものが考えられます。
 ① 失業手当の受給条件を良くしたい。
 ② 解雇予告手当を請求したい。
 ③ 解雇無効を主張して,働かずにバックペイ又は解決金を取得したい。

3 失業手当の受給条件
 労働者が自己都合で会社を辞めた場合は,会社都合の場合と比較して,失業手当の支給開始が3か月遅れるなど,失業手当の受給条件が悪くなってしまうのが原則です。労働者の中には,会社から解雇されたことにして,失業手当の受給条件を良くしようとする者もいます。
 なお,退職勧奨 により退職した者は「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,給付制限もありません。退職勧奨による退職であっても退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがあります。

4 解雇予告手当の請求
 平均賃金30日分の解雇予告手当(労基法20条1項)を取得したくて即時解雇されたと主張する労働者が散見されます。

5 解雇無効を前提とした賃金請求
 解雇の無効を前提として,解雇日以降の賃金請求がなされた場合に会社が負担する可能性がある金額は,高額になることがあります。
 単純化して説明しますと,月給30万円の社員を解雇したところ,解雇の効力が争われ,2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は,既発生の未払賃金元本だけで,30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。
 解雇が無効と判断された場合,実際には全く仕事をしていない社員に対し,毎月の賃金を支払わなければならないことを理解しておく必要があります。

6 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額
 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額です。基本給や毎月定額で支払われている手当のほとんどは支払わなければなりません。
ア 通勤手当
 実費補償的な性質を有する場合は,通勤手当について負担する必要はありません。
イ 残業代
 時間外・休日・深夜に勤務して初めて発生するものなので,通常は負担する必要がありません。ただし,一定の残業代が確実に支給されたと考えられる場合には,支払を命じられる可能性があります。
ウ 賞与
 支給金額が確定できない場合は,解雇が無効と判断されても支払を命じられません。支給金額が確定できる場合は,確定できる金額について支払が命じられることがあります。一定額の賞与を支給する労使慣行が成立していたという主張は,なかなか認められません。
エ 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)
 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)が副業収入のようなものであって解雇がなくても取得できた(自社の収入と両立する)といった特段の事情がない限り,
 ① 月例賃金のうち平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分(平均賃金額の40%)
 ② 平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額
が控除の対象となります(米軍山田部隊事件最高裁昭和37年7月20日第二小法廷判決,あけぼのタクシー事件最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決,いずみ福祉会事件最高裁平成18年3月28日第三小法廷判決)。控除しうる中間収入はその発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり,時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません(あけぼのタクシー事件最高裁昭和62年4月2日第一小法廷判決)。
 解雇期間中に失業手当を受給していたとしても,失業手当額は控除してもらえません。
オ 源泉徴収すべき所得税,地方税,社会保険料
 判決で支払を命じられるのは,源泉徴収すべき所得税,地方税,社会保険料を控除する前の賃金額ですが,実際の賃金支払の際にはこれらを控除して支払うことになります。
カ 仮払金
 仮処分で賃金相当額の仮払が命じられ,仮払をしていたとしても,判決では仮払金を考慮しない賃金額の支払が命じられます。賃金の支払を命じる判決が確定した場合は,既払の仮払金の充当について,代理人間で調整する必要があります。

7 無断録音
 解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張するような事案では,退職に関するやり取りは,無断録音されていることが多く,録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は,証拠として認められてしまいます。
 解雇されたことにしたい労働者は,会話を無断録音しながら「解雇」と言わせようと誘導しようとすることが多いので,不自然に「解雇」と言わせたがっている様子が窺われる場合には無断録音を疑うとともに,慎重に対応する必要があります。


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部下に過大なノルマを課したり仕事を干したりする。

2014-08-22 | 日記

部下に過大なノルマを課したり仕事を干したりする。

1 過大なノルマの問題点
 部下に対し一定のノルマを課すこと自体は合理的なことであり,上司にしてみれば,ノルマを達成できるだけの高い能力とやる気のある社員だけ残ればいいという発想なのかもしれません。
 しかし,とても達成できないような過大なノルマを部下に課すことに経営上の合理性はなく,部下のモチベーションが上がらず営業成績を高めることができない結果となったり,せっかく費用をかけて採用し育成した部下が次から次に辞めてしまったりする可能性が高くなります。これは,効率的な会社運営のみならず,部下のキャリア形成にとっても大きなマイナスとなります。部下の社員が自腹で商品を買い取らないとノルマを達成することができないような場合は,「自爆営業」を強要するブラック企業といった悪評が立てられて企業イメージが悪化し,顧客の獲得や新規採用活動に支障を来すことになりかねません。
 ノルマを達成するために恒常的な長時間労働に従事していた部下が精神疾患 や脳・心臓疾患を発症した場合には,業務と疾患発症との間の相当因果関係(業務起因性)が肯定されて労災となり,さらには会社が安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償請求を受ける可能性もあります。
 さらに,過大なノルマを達成するために営業社員が長時間労働を余儀なくされれば,当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる(労基法38条の2第1項ただし書)と評価されて,事業場外労働みなし労働時間制を採用している場合であっても,時間外割増賃金の支払が必要となる可能性が高くなります。
 会社の利益のためにも,部下の利益のためにも,ノルマは適正な水準にする必要があるのです。

2 仕事を干すことの問題点
 上司が自分の意に沿わない部下の仕事を干すことを会社として容認することができないのは言うまでもありません。会社は管理職の私物ではありません。管理職が合理的理由なく自分の意に沿わない部下の仕事を干すことは権限逸脱行為であり,これを放置していたのでは,一体,誰の会社なのか分からなくなってしまいます。最悪の場合,部下は,会社に残ろうと思えば,会社の利益のために働くのではなく,上司の意に沿った形で働くことを優先することになりかねません。また,部下の仕事を干すことは,当該部下のキャリア形成を阻害することにもなります。
 当該措置に合理的理由がないのであれば不法行為が成立し,会社も安全配慮義務違反や使用者責任を問われて損害賠償義務を負う可能性があります。

3 具体的対処方法
 特定の管理職の部下の離職率が高いなどの問題がある場合には,当該管理職から十分に事情を聴取する必要があります。管理職 の機嫌を損ねることを恐れて,事情聴取を躊躇してはいけません。
 過度のノルマを課しているのではないかという点については,ノルマの達成率,ノルマとして設定した数値の具体的根拠,離職率が高い理由,離職率を下げる方法として考えられること等を,意に沿わない部下の仕事を干しているのではないかという点については,当該部下に与えている仕事の内容・量,その具体的理由等を聴取することになります。当該管理職の説明に不合理な点が見つかった場合には,注意指導してその是正を促します。
 併せて,部下の社員からも,ノルマの達成率,業務遂行のため通常必要となる労働時間,自爆営業の有無,離職率が高い理由,離職率を下げる方法として考えられること,上司である管理職が意に沿わない部下の仕事を干しているのかどうか等を聴取し,当該管理職の説明が部下の社員の説明と整合性があるか等をチェックします。
 本件のような問題は,部下の社員からの申告がなければ問題の存在自体把握できず,対応が遅れることになりかねませんので,社内の相談窓口や社外の弁護士窓口を設置するとともに,社員が安心して相談できる雰囲気を作っておくとよいでしょう。
 注意指導した結果,管理職の言動が大きな問題はない程度に改善された場合には,通常の注意指導教育をその後も継続していけば足りるでしょう。
 管理職のしていたことが悪質な場合は懲戒処分に処することも考えられますが,会社が当該管理職を放置していて十分な注意指導教育をしてこなかったというような経緯がある場合には,重い懲戒処分は懲戒権濫用により無効(労契法15条)となる可能性がありますので,懲戒処分に処するにしても軽めのものにとどめるべきことが多いのではないかと思います。
 当該管理職の理解不足,マネジメント能力不足が原因で注意指導しても当該管理職の言動が改まらない場合は,十分に注意指導するだけでなく,管理職研修を受けさせるなどして教育していきます。いくら注意指導教育しても問題点を理解できないようであれば,管理職としての適格性が欠如していると考えられますので,人事権を行使して管理職から外すなどの措置が必要となります。入社当初から管理職として地位を特定して高給で採用したような場合は,人事権を行使して管理職から外し,他の職位に降格するあるいは異動するという対応では地位を特定して採用した意味がなくなりますので,退職勧奨 解雇 で対処することを検討してもよいかもしれません。
 注意指導しても当該管理職の言動が改まらない原因が当該管理職の思い上がりによるものであり,「現場に口を出さないで下さい。」等と言って,経営者に対しても反抗的・挑戦的態度をとり続けるような場合は,懲戒処分に処するとともに,人事権を行使して管理職から外すなどの措置が必要となります。それでも態度が改まらない場合は,その都度,懲戒処分に処してから退職勧奨又は解雇を検討することになります。入社当初から管理職として地位を特定して高給で採用したような場合は,初めから退職勧奨や解雇での対応を中心に検討することになります。
 部下に対し,とても達成できないような過大なノルマを課したり,自分の意に沿わない部下の仕事を干したりする管理職がいる会社は,経営者が当該管理職に特定の部門を任せきりにして,十分なチェック機能を果たしていないことが多い印象があります。確かに,経営者が何もしなくても特定の人物が特定の部門をうまく取り仕切ってくれるのであれば,経営者としては楽かもしれませんが,経営者として当然行うべき職務を怠っていると言わざるを得ません。「いちいち管理せずに,現場のことは現場の自主性に任せた方がうまく行く。」等と言って,特定の管理職に特定の部門を任せきりにしていたところ,管理職の縄張り意識とか自分のお陰で会社が儲かっているという意識が強くなり,経営者の言うことを聞かなくなったり,情報を経営者に隠したり,顧客に対し経営者の悪口を言ったり,横領等の不正行為を行ったり,新入社員に仕事を教えず何人も虐めて辞めさせてしまったりして困っているといった相談を受けることは珍しくありません。
 このような管理職が出てこないようにするためには,会社経営者が管理職をしっかり監督し,問題があれば丁寧に注意指導して改めさせることが必要不可欠です。経営者は,新入社員が仕事を教えてもらうことができないまま上司に虐められて何人も辞めさせられてしまうといった事態にならないようにする責任を負っているのだという意識を強く持つ必要があります。


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ソーシャルメディアに問題映像を投稿する。

2014-08-22 | 日記

ソーシャルメディアに問題映像を投稿する。

1 ソーシャルメディアへの問題映像の投稿を防止するための事前対応
 ソーシャルメディア上の情報は拡散しやすいため,元の問題映像の投稿を削除しても,ソーシャルメディア上の情報を完全に消去することはできなくなることがあります。ソーシャルメディアには文字だけでなく映像を公開することができるものも多く,映像が極めて強いインパクトをもたらすことがあります。強いインパクトをもたらした映像に関し,後から弁解して信頼を回復することは難易度が高いです。したがって,ソーシャルメディアへの問題映像の投稿の対応としては,事前の対策を中心に考えていく必要があります。
 また,ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿には悪意がなく,問題映像に伴うリスクを理解していないために行ってしまっているものも多い印象です。仲間内でのコミュニケーションに過ぎないと考えていて,全世界に向けて情報発信しているという意識が低いケースは珍しくありません。したがって,ソーシャルメディアに対する問題映像の投稿がもたらす大きなリスクを理解させることが重要となってきます。
 具体的には,
 ① ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成すること
 ② ガイドラインの遵守義務を就業規則で規定すること
 ③ ガイドラインに違反したことを懲戒事由として規定すること
 ④ ガイドラインを遵守する旨の誓約書を取得すること
 ⑤ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について研修などで教育すること
 ⑥ ソーシャルメディアの適切な利用の仕方やガイドライン遵守の重要性について普段から注意指導すること
等が考えられます。
 上司が部下に対して必要な注意指導ができないと,部下が上司を軽く考えて,行動がエスカレートしやすくなります。部下の勤務態度等に問題がある場合に,上司が部下に対ししっかりと注意指導することは,問題映像の投稿を防止することにもつながります。
 最近ではアルバイトによる問題映像の投稿が事件となることが多くなっています。アルバイト等の非正規社員は正社員と比較して会社に対する忠誠心が低い傾向にあります。学生アルバイトの場合は,社会経験が乏しくて思慮が足りない傾向にあります。アルバイト等の非正規社員については,むしろ正社員以上に注意指導教育していく必要性が高いといえるでしょう。

2 ソーシャルメディアに問題映像に投稿されているのが見つかった場合の初動
 ソーシャルメディアに問題映像が投稿されているのが見つかった場合,まずはその問題映像と記事をプリントアウトしたり,PDFの形式で保存したりして,証拠を確保します。
 次に,ソーシャルメディアに投稿された映像が会社にとって好ましくない内容がどうかを検討し,好ましくない内容のものであれば,投稿した社員・アルバイト等と話し合って削除させるべきでしょう。当該社員・アルバイト等が在職中であれば最終的には映像の削除に応じてくれる可能性が高いのではないかと思います。
 映像の内容が単に好ましくないというにとどまらず,会社の名誉・信用を著しく侵害している場合は,当該社員・アルバイト等の懲戒処分や損害賠償請求等の対応を検討する必要があります。当該社員・アルバイトが記事の削除を拒んでいるような場合は,ソーシャルメディアの運営者に対する記事の削除請求等を検討する必要もあるでしょう。

3 事実調査
 懲戒処分や損害賠償請求等を行う前提として,事実関係を十分に調査する必要があります。問題映像を確保した後の事実関係の調査としては,本人からの事情聴取が中心となります。当該社員・アルバイト等が問題映像を投稿したということで間違いがないか,動機・目的,会社が発見した問題映像以外の投稿の有無等を聴取して書面にまとめます。聴取書は,当該社員・アルバイトに内容を確認させてから,その内容に間違いない旨記載させます。
 本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが,重要な事実関係の確認については,十分な事情聴取を行い,漏れがないようにしておく必要があります。問題映像の投稿を行った社員・アルバイト等が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても,突き返して書き直させたりせずに,受領して会社で保管して下さい。事実関係の解明に役立つこともありますし,本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。不合理・不十分な点については,別途,追加説明を求めれば足ります。

4 謝罪
 問題映像の投稿がインターネット上で拡散したり,ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は,ホームページ上で謝罪するなどの対応が必要となります。謝罪内容としては,アルバイトを含む社員教育を徹底し,再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いところです。

5 懲戒処分
 問題映像投稿の悪質性の程度に応じて,懲戒処分を検討します。労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められており,懲戒事由に該当する場合であっても,懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 懲戒処分が有効となるかどうかを判断するに当たっては,投稿した問題映像の内容のほか,問題映像の投稿を禁止する企業秩序がどれだけ厳格に形成されていたかも重視されます。同じような問題映像を投稿したとしても,ソーシャルメディアへの利用に関するガイドラインが存在するか,ガイドラインの遵守義務が就業規則で規定されているか,ガイドラインに違反したことが懲戒事由となる旨特に明記されているか,ガイドラインを遵守する旨の誓約書が存在するか,ガイドライン遵守の重要性について研修などで教育しているか,ソーシャルメディアの利用に関し普段から注意指導しているか等により,結論が別れる可能性があります。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが低いケースが多いですが,退職の効果を伴う懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については,訴訟等で争われて無効と判断されるリスクが高まりますので,慎重に検討する必要があります。本人が自主退職を求めてきた場合には,敢えて懲戒解雇等の処分まではせずに,自主退職を認めるべきケースもあるのではないかと思います。

6 損害賠償請求
 問題映像の投稿により会社が損害を被った場合は,書き込みを行った社員・アルバイト等やその身元保証人に対し,損害賠償請求をすることも考えられますが,損害の性質上,損害額の立証が困難なことが多いところです。
 賠償を求めることができる損害の範囲は,原則として通常生ずべき損害に限られ(民法416条1項),特別の事情によって生じた損害は,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときに限り,その賠償を請求することができます(民法416条2項)。食材廃棄に伴う損失とか店内の清掃・消毒作業の費用であれば,通常損害として相当因果関係が認められる可能性が高いものと思われます。他方,店舗の営業を停止・閉店した場合の休業損害・事業閉鎖に伴う損害まで損害賠償請求が認められる事案は限定され,仮に損害賠償請求が認められたとしても賠償額はその一部に限定される可能性が高いものと思われます。
 裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため,損害額の立証ができない場合であっても,損害が生じていることの立証ができれば,相当な損害額は認定してもらえる可能性もありますが,認定してもらっても思ったほどの金額にならないケースも十分に想定されます。
 労働契約の不履行について違約金を定め,損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条),社員・アルバイト等が問題映像を投稿した場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

7 ソーシャルメディアの運営者に対する削除請求・損害賠償請求等
 問題映像を投稿した社員・アルバイト等が問題映像の削除を拒んでいる場合は,ソーシャルメディアの運営者に対し,問題映像の削除を請求することも考えられます。ソーシャルメディアの運営者は,一定の場合には,問題映像を削除する条理上の義務を負うものと考えられます。
 プロバイダ責任制限法3条1項が,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,かつ,運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,ソーシャルメディアの運営者は損害賠償責任を負わない旨定めていることからすれば,ソーシャルメディアの運営者が問題映像の投稿を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,かつ,運営者が当該問題映像の投稿によって他人の権利が侵害されることを知っていたか,知ることができたと認めるに足りる相当の理由があることを主張立証できるようにしておく必要があります。ソーシャルメディアの運営者に対し問題映像の削除を請求するに当たっては,削除すべき問題映像を明示するとともに,問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明するようにして下さい。
 ソーシャルメディアの運営者に対し,削除すべき問題映像を明示するとともに,問題映像の投稿により会社の名誉・信用等が侵害されていることを具体的に説明して問題映像の削除を請求したにもかかわらず,ソーシャルメディアの運営者が問題映像を削除しない場合には,問題映像を書き込んだ社員・アルバイト等とソーシャルメディアの運営者を共同被告として訴訟を提起し,問題映像の削除を請求したり,損害賠償請求したりすることも検討せざるを得ません。


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