江國 香織 著作
結婚した夫婦が二人でいることの孤独。
一緒にいるのに心が通じ合わない淋しさ、せつなさ。
二人の間にはいつも距離感がある。
日和子とその夫、逍三との関係はまさにそんな感じだった。
日和子が話しかけても、夫はただ「ああ」とか「うん」とか
相づちを打つだけだ。彼は彼女の話なんて聞いていないし
淡々と自分の生活を続けているだけだ。
それでも日和子は話し続ける。話し続けなければ会話がなくなるからだ。
といっても、こんな一方的な語りを会話というのには少し疑問が残るが・・
この本の題名、「赤い長靴」というのは、クリスマスになると
なぜか毎年逍三から贈られるお菓子が入ったクリスマスブーツのこと。
日和子はこの赤い長靴を気に入っておらず
もう贈ることをやめてくれと伝えているにもかかわらず、
そんな彼女の感情など気に留めることもなく
自分がいいと思ったものを、押しつける夫。
日和子とは感性が異なる夫。
こんな夫を半ばあきれながら、時として孤独と淋しさを感じつつも
日和子は、夫といる生活を愛している。
外に出て友人と会っていても、夫の事を思い、早く帰宅したくなる。
そして夫と離れていると、むしろ一緒に居るときよりもいとおしく思う。
一人でいる時は安堵に似た気楽さもあるが、
やはり逍三がいると生活に変化があり動きがある。
そういう生活空間の中にいることへのさりげない喜びを感じている。
私だったら、夫が人の話をろくすっぽ聞いてくれなかったなら
耐えられないし、怒り狂う(?)だろう。
そしてもっと「人の話をよく聞け!」と要求するだろう。
どうして日和子は、夫への不満をこんなにも静かに胸に抱えていられるのだろう。
また、なぜ自分の予想外の答えが返ってきたり、行動だったりすると
彼女は笑ってしまうのだろう。
私とは全然違うタイプのようだ。
・・でもなんとなくわかる、この本の言いたかったこと。
一番近くにいて、遠い存在。
近い関係でありながら、距離のある他人。
二人でいることの淋しさ。
でもやっぱり、夫とのこの空間を愛する。
夫婦ってこんなものかもしれない。