くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(30)

2020-05-03 20:09:13 | 「地図にない場所」
 体をびしょ濡れにして、息をゼエゼエと切らせながら、二人はやっとの事で岸にたどり着きました。岸は思ったよりもずっと遠く、サトルは自分でも信じられないほどの距離を泳いでいました。おそらく、自分の肩にガッチがいなければ、とっくにあきらめて、沈んでいたかもしれませんでした。ただガッチを助けたい、その思いだけが、サトルを岸まで泳がせたのでした。サトルはガッチを横にすると、自分も川岸に倒れこみました。背中にあたった小石が痛かったですが、それも今の疲労には、逆に心地よいマッサージのようでした。
 サトルは、いつの間にかぐっすりと寝入ってしまいました。

 パチ、パチリ、パチ――

 と、サトルは火のはぜる音に気がついて、目を覚ましました。顔を上げると、先に目を覚ましたガッチが、暖かな火をおこしていました。体を起こすと、下着を残して、服が全部脱がされていました。
「おっ、やっと起きたな。さぁ、こっちへ来て暖まれよ」と、ガッチが流木を火にくべながら、言いました。
「さっきは、ありがとう――」と、サトルは言って、ガッチの向かい側に腰を下ろしました。
「なに言ってやがる、水くさい。当たり前のことをやっただけじゃねぇか。かしこまったことを言うのはやめてくれ……」と、ガッチはなんとなく照れくさそうに言いました。
 パチッパチッと、火が揺らめくのを見ながら、体が十分に暖まった所で、サトルはオレンジの明かりに目を細めながら、ぽつりと独り言のように言いました。
「あいつ、一体どこに行っちまったんだ――。もしかして、ぼくらはぜんぜん別な所にいるのかもしれない……」
「えっ? あいつがどうしたって」と、ガッチが言いました。
「うん。あの子供のことだよ」と、サトルが言いました。「もしかして、ぼく達はまったく別な場所にいて、どこにもいないあいつを、必死になって追いかけてるんじゃないかと思って――」
「ふーん。まあそうかもしれねぇなあ」と、ガッチが言いました。「でもよ。あいつが吸いこまれたドアのひとつに入ったわけだから、そんなに違う場所に来ることはねぇと思うぜ。それにな、もしぜんぜん見当違いの場所に来ちまったとして、おれ達にゃなんの知識もねぇんだ。とにかく早いとこそいつを見つけるか、あの変なドアを見つけるかしない限り、永久に町には戻れないぜ」
 サトルは、困ったようにガッチと顔を見合わせました。
「うん。でも、あの子を追いかけるのはいいんだけど、その度になにかに襲われてさ、なんかこう、いつも見られてるような気がするんだ。それが、あいつかもしれないし、あいつじゃないかもしれないけど、とにかく、ぼくがドリーブランドに来てから、いつもどこかから、監視されているような気がするんだ」と、サトルは回りをキョロキョロしながら言いました。
コメント
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