サトルの手にしているのと同じ、いいえ、サトルの手にしている小魚よりも、もっと立派なギザギザの歯を持った魚達が、丸太舟をぐるりと取り囲むように、水中から顔をのぞかせ、サトルをにらみつけているのでした。
サトルはあんぐりとしたまま、しばらく身動きができませんでした。そのうち、サトルはオイオイ泣いている小魚に気がつきました。ひょっとすると、この小魚がいじめられていると思って、助けるつもりできたんだな、と考えました。
「ごめんごめん。もう舟を切っちゃダメだよ」といいながら、サトルは小魚をそっと川に泳がしてやりました。
(はぁー、助かった)と、サトルが息をつくのもつかの間、ノコギリ魚の群れが、あいかわらず丸太舟を取り囲んでいるのに気がつきました。それだけではなく、先ほどよりも、ぐっと距離が近づいていました。
「あれっ、みんなどうしたの。ぼく、なんか悪い事しちゃったかなぁ……」と、サトルは冷や汗をかきながら言いました。けれど魚達は、逆に怒りを増したようでした。サトルが黙って凍りついていると、丸太舟をガリガリと切る音が聞こえてきました。見ると、性懲りもなく、あの小魚が舟にイタズラをしているのでした。
「――こらっ! やめろ」サトルが怒鳴るのを合図に、周りを取り囲んでいた魚達が、いっせいに丸太舟に躍りかかりました。
「うわっ、やめろー。やめろったら」と、サトルは大声で叫びました。その声に目を覚ましたガッチが、目をぱちくりさせて言いました。
「どうした。飯かぁ――」
と、ガッチはノコギリ魚に切られた舟の切れ端ごと、川に転落していきました。
「うわォッ――」と、ガッチが水を喉につまらせながら呻きました。そして、しばらく泡をぶくぶくさせてもがいていましたが、やっとのことで木片にしがみつくと、言いました。
「なんだよ、こりゃ……サトル!」
「ぼくが悪いんじゃないよ。イタズラしてた魚の子を、叱っただけさ。怒らせるようなことなんて、ちっともしてないよ」
サトルの言葉とは裏腹に、ノコギリ魚達は乱暴に丸太舟を切り刻んでいきました。しまいには丸太が板になり、板がさらに小さな板となって、もはや丸太舟は原形をとどめていませんでした。サトルも舟の上に立っていることができず、ぼっきりと二つにされた舟から川に落ちてしまいました。やがて丸太舟が竹ひごのように細かく切り刻まれると、ノコギリ魚の群れもやっと気持ちが晴れたのか、嘘のようにおとなしくなりました。そして、今までの事がなかったかのように、さっさとどこかへ行ってしまいました。
すると、群れの中の一匹が、忘れ物でも取りに来たように戻って来て、サトルがしがみついている板切れを、真っ二つにしていきました。
サトルは、やっとの思いでしがみついていた板を切られ、手がかりがなにもなくなると、ついにおぼれて、川に沈んでいってしまいました。
「――サトル。おい、サトル」と、ガッチは小さな板切れにつかまりながら言いました。
いままでサトルがいた場所には、川の底からぶくぶくと、無数の泡が吹き出していました。けれどその泡も、そのうちすっかり吹き出さなくなってしまいました。
「サトル? おい、まさかよ。サトル! サトル!」と、ガッチは板切れにつかまって泳ぎながら、叫びました。
サトルはあんぐりとしたまま、しばらく身動きができませんでした。そのうち、サトルはオイオイ泣いている小魚に気がつきました。ひょっとすると、この小魚がいじめられていると思って、助けるつもりできたんだな、と考えました。
「ごめんごめん。もう舟を切っちゃダメだよ」といいながら、サトルは小魚をそっと川に泳がしてやりました。
(はぁー、助かった)と、サトルが息をつくのもつかの間、ノコギリ魚の群れが、あいかわらず丸太舟を取り囲んでいるのに気がつきました。それだけではなく、先ほどよりも、ぐっと距離が近づいていました。
「あれっ、みんなどうしたの。ぼく、なんか悪い事しちゃったかなぁ……」と、サトルは冷や汗をかきながら言いました。けれど魚達は、逆に怒りを増したようでした。サトルが黙って凍りついていると、丸太舟をガリガリと切る音が聞こえてきました。見ると、性懲りもなく、あの小魚が舟にイタズラをしているのでした。
「――こらっ! やめろ」サトルが怒鳴るのを合図に、周りを取り囲んでいた魚達が、いっせいに丸太舟に躍りかかりました。
「うわっ、やめろー。やめろったら」と、サトルは大声で叫びました。その声に目を覚ましたガッチが、目をぱちくりさせて言いました。
「どうした。飯かぁ――」
と、ガッチはノコギリ魚に切られた舟の切れ端ごと、川に転落していきました。
「うわォッ――」と、ガッチが水を喉につまらせながら呻きました。そして、しばらく泡をぶくぶくさせてもがいていましたが、やっとのことで木片にしがみつくと、言いました。
「なんだよ、こりゃ……サトル!」
「ぼくが悪いんじゃないよ。イタズラしてた魚の子を、叱っただけさ。怒らせるようなことなんて、ちっともしてないよ」
サトルの言葉とは裏腹に、ノコギリ魚達は乱暴に丸太舟を切り刻んでいきました。しまいには丸太が板になり、板がさらに小さな板となって、もはや丸太舟は原形をとどめていませんでした。サトルも舟の上に立っていることができず、ぼっきりと二つにされた舟から川に落ちてしまいました。やがて丸太舟が竹ひごのように細かく切り刻まれると、ノコギリ魚の群れもやっと気持ちが晴れたのか、嘘のようにおとなしくなりました。そして、今までの事がなかったかのように、さっさとどこかへ行ってしまいました。
すると、群れの中の一匹が、忘れ物でも取りに来たように戻って来て、サトルがしがみついている板切れを、真っ二つにしていきました。
サトルは、やっとの思いでしがみついていた板を切られ、手がかりがなにもなくなると、ついにおぼれて、川に沈んでいってしまいました。
「――サトル。おい、サトル」と、ガッチは小さな板切れにつかまりながら言いました。
いままでサトルがいた場所には、川の底からぶくぶくと、無数の泡が吹き出していました。けれどその泡も、そのうちすっかり吹き出さなくなってしまいました。
「サトル? おい、まさかよ。サトル! サトル!」と、ガッチは板切れにつかまって泳ぎながら、叫びました。