くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(51)

2020-05-24 19:42:54 | 「地図にない場所」

「バ、バケモノーッ! いつまでワタシを追いかけるんだ……。早く消えろ、消えてくれーっ!」

 サトルは、初めて聞いた不思議な子供の声に、どこか大人びたな響きがあるのに気がつき、ぎょっとしました。じりじりと、壁に背を預けて逃げようとしている子供に、サトルは逃がしてたまるか、と追い迫りました。
「なに言ってるんだ。バケモノはお前の方じゃないか――。早く町の人達を元に戻せ。ぼくを元の世界に戻すんだ。絶対、ただじゃおかないぞ」
 サトルが捕まえようとしているにもかかわらず、不思議な子供はなんの反応も示さないで、ただじっと、サトルを見て怯えているだけでした。サトルもとうとうしびれを切らせて、力づくでも、と思いましたが、ガッチがサトルの服をつかんだまま、放そうとしないのでした。

「――ガッチ、早く捕まえなきゃ。ここで逃がしたら、もう二度と捕まえられないかもしれないよ」

「そうだよな……。捕まえなきゃな……」と、ガッチは怖じ気づいたのか、言葉に詰まりながら言いました。
 ガッチがズボンをつかんでいた手を放したので、サトルはやっと、自由に動き回れるようになりました。サトルは、壁を背にしている不思議な子供に、大股で近づきました。そして、子供を小屋の隅に追い詰めると、「ワーッ!」という声と共に、両手を目一杯に広げて、飛びかかりました。
 不思議な子供は、もう逃げ場がない、と覚悟したのか、最後の悪あがきに、サトル目がけて突っこんできました。サトルは、おとなしくしていると思っていた子供が、不意に自分に向かってきたことで、わずかに動揺しましたが、負けるものか、と向かってくる子供を抱きかかえるように、捕まえました。
 しかし、捕まえたと思った不思議な子供は、どういうことか、サトルの体を透り抜け、勢いをそのままに、さっさと出入口を駆け抜けて行ってしまいました。サトルはというと、抱きかかえたと思った不思議な子供が、なんの抵抗もないまま、サトルの体を透り抜けていったので、勢い余って、床に転げてしまいました。あわてて起き上がって見ると、もう小屋の中に子供の姿はありませんでした。ガッチが、不思議な子供が出て行った後の閉じたドアを、ぼう然と見つめていました。
 サトルがガッチに気づき、「なにやってたの」と、言おうとしたとたん、小屋の外で、鉄と鉄がこすれ合うような、キンキンと響く叫び声が聞こえました。サトルは、あまりの声の大きさと、震え上がるような気味の悪さに、思わず耳を塞ぎました。
 気味の悪い声が止んだと思うと、ほどなくして今度は、小屋が左右に激しく揺れ出しました。中にいた二人は、あっちに倒れこっちに転びしていましたが、やっと静かになったと思うと、ドシンドシンという足音が聞こえ出しました。また恐竜でも襲ってきたのか、と思ってあわててドアを開けようとしましたが、ドアは壁の一部になってしまったかのように、微塵も動かせませんでした。
コメント
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