サトルが言うと、船の中が、心なしか水を打ったように静かになりました。それは、聞き耳を立てていた船員達が、サトルに向けた沈黙でした。サトルは、体中を見えない針で突かれたような感じを覚えていました。
「――目的地だと。向こう岸だと。笑わせるな!」と、サトルに近づいてくる船長の顔が、ゆっくりとチーズのように溶けていきました。顔だけではなく、袖口やズボンの裾からも、ビトビトと胸の悪くなるような音をさせながら、船長の体の肉が、骨だけを残して、次から次へとそげ落ちていきました。サトルは、だんだんと剥き出してくるガイコツに、釘付けになりながら、船長室の壁際まで、ズルズルと、足を引きずるように下がっていきました。
「――そんな物あるわけないじゃないか。この川はな、ここがすべてなのさ。ここだけさ、この船がすべてなんだ。これ以上先もなければ、後ろもない。あるのは尽きない食糧と、酒と水、それに時間だけだ。だからおれ達は、もう思い出せないほどの昔から、この船の上で好き勝手をやっているんだ。ヒッヒッヒッ、おまえも、もうここからは逃げられないのさ。おとなしくおれ達と一緒に来るんだ。そしておれ達のように、身も心もガイコツになっちまうんだ」
船長が、ガイコツになった体を軋ませながら、飛びかかってきました。
「うりゃあー!」
と、恐怖に顔を引きつらせたサトルの前に、小さな救世主が現れました。体に似つかわしくないデッキブラシを手にした、ガッチでした。
ガッチは、サトルに飛びかかってきた船長を払いのけると、間髪を入れず、ガイコツに変身して襲いかかってきた船員達を払いのけ、飛び上がりざま、立ち上がった船長に、会心の一撃を食らわせました。
船長はバラバラの骨になって、今まで自分がまとっていた肉の上に、散らばりました。
突然のことにあっけにとられたのか、ガイコツに変身した船員達は、バラバラになった船長に気を取られ、股の下をくぐって逃げた二人に、気がつきませんでした。
「――バカモノドモ。アイツラヲオウンダ」と、床の上に転がった船長のしゃれこうべが、船員達に向かって言いました。
「ウワオーッ!」
たくさんのガイコツ達が、逃げる二人を追ってきました。二人は、船室から飛び出してくるガイコツの残りを打ち払いつつ、救命艇が吊ってある船尾へ急ぎました。サトルは、こんなこともあろうかと、頑丈にくくりつけられていた救命艇のロープを、あらかじめ緩めておいたのでした。後は、ガイコツにつかまる前に救命艇にたどり着き、ロープをほどいて飛び乗るだけでした。
「くそッ! こんにゃろッ! 」と、ガッチがぶぶん、とデッキブラシを振り回しながら、言いました。「サトル、悪かったな……」
「後回し、後回し。今はそんなこと言ってる場合じゃないよ」と、サトルは片目をつむりながら言いました。
「――目的地だと。向こう岸だと。笑わせるな!」と、サトルに近づいてくる船長の顔が、ゆっくりとチーズのように溶けていきました。顔だけではなく、袖口やズボンの裾からも、ビトビトと胸の悪くなるような音をさせながら、船長の体の肉が、骨だけを残して、次から次へとそげ落ちていきました。サトルは、だんだんと剥き出してくるガイコツに、釘付けになりながら、船長室の壁際まで、ズルズルと、足を引きずるように下がっていきました。
「――そんな物あるわけないじゃないか。この川はな、ここがすべてなのさ。ここだけさ、この船がすべてなんだ。これ以上先もなければ、後ろもない。あるのは尽きない食糧と、酒と水、それに時間だけだ。だからおれ達は、もう思い出せないほどの昔から、この船の上で好き勝手をやっているんだ。ヒッヒッヒッ、おまえも、もうここからは逃げられないのさ。おとなしくおれ達と一緒に来るんだ。そしておれ達のように、身も心もガイコツになっちまうんだ」
船長が、ガイコツになった体を軋ませながら、飛びかかってきました。
「うりゃあー!」
と、恐怖に顔を引きつらせたサトルの前に、小さな救世主が現れました。体に似つかわしくないデッキブラシを手にした、ガッチでした。
ガッチは、サトルに飛びかかってきた船長を払いのけると、間髪を入れず、ガイコツに変身して襲いかかってきた船員達を払いのけ、飛び上がりざま、立ち上がった船長に、会心の一撃を食らわせました。
船長はバラバラの骨になって、今まで自分がまとっていた肉の上に、散らばりました。
突然のことにあっけにとられたのか、ガイコツに変身した船員達は、バラバラになった船長に気を取られ、股の下をくぐって逃げた二人に、気がつきませんでした。
「――バカモノドモ。アイツラヲオウンダ」と、床の上に転がった船長のしゃれこうべが、船員達に向かって言いました。
「ウワオーッ!」
たくさんのガイコツ達が、逃げる二人を追ってきました。二人は、船室から飛び出してくるガイコツの残りを打ち払いつつ、救命艇が吊ってある船尾へ急ぎました。サトルは、こんなこともあろうかと、頑丈にくくりつけられていた救命艇のロープを、あらかじめ緩めておいたのでした。後は、ガイコツにつかまる前に救命艇にたどり着き、ロープをほどいて飛び乗るだけでした。
「くそッ! こんにゃろッ! 」と、ガッチがぶぶん、とデッキブラシを振り回しながら、言いました。「サトル、悪かったな……」
「後回し、後回し。今はそんなこと言ってる場合じゃないよ」と、サトルは片目をつむりながら言いました。