こんな調子では、目と鼻の先にあるはずの目的地をも、なんのためらいもなく通り過ぎてしまいそうでした。ましてやそんな様子で、どこにあるかもわからない川の果てを求めても、見つけられるでしょうか? ガッチの言ったとおり、帆はパンパンに張っているし、舵も取っています。けれど、なんの意欲も希望もない船が、見えない目的地に向かって、後退もせず前進できるでしょうか? やはりこの船は、サトルがしがみついていた浮き輪と同じように、ただ浮かんで漂っているだけなのではないのでしょうか……。
十日ほどたったある日、サトルはついにたまりかねて、お日様がまだ昇りきっていない時に、思い切って船長室のドアを叩きました。
「入りたまえ――」
船長の声に従って部屋に入ると、船長はアルコールの匂いを、プンプンとさせていました。起きたばかりなのか、制服の前をはだけたまま、ベッドに腰かけていました。
「おう、サトル君じゃないか。どうだね、もう船には慣れたかな? ハッハッハッ、聞くだけやぼというものかな。ここが気にいらんなどというやつは、この世界広しといえども、誰一人いるわけがないからな。食い物はたんとあるし、酒も飲み放題――」
「――船長」と、サトルが船長の言葉を遮って言いました。
「なんだね、どうしたのかね、サトル君。なにか希望でもあるのかね。さぁ、言ってみたまえ」船長はにっこりと、歯を見せながら言いました。
「船長――。一体、この船はいつ目的地に到着するんでしょうか? ぼくには、この船が堂々巡りをしているだけで、ちっとも前に進んでいるように見えないんです」
「――ハッハッハッ、おかしいな。君がそんなことを言うとは……。確かに、責任を持って、私が言おう。この船は、目的地に向かって進んでいる」
「だったら教えてください」と、サトルは言いました。「どうして、毎日毎日、みんなは自分を忘れてしまうほど酒盛りをして、日中は日中でろくに働きもせず、二日酔いにうんうんうなりながら、日が落ちるまで寝転がっているんですか? 帆だっていつも張りっぱなしだし、舵だってなにを目的に取ってるんですか? それに船長自らなんの指示もせず、どうやって目的地に行くんですか」
「フッフッフ。サトル君は、この私が目的地に行く気などまったくない――。と言いたいのかね」と、船長はゆっくりと立ち上がり、制服のボタンをかけていきました。
「……そうとしか思えません。向こう岸に行かないなら、ぼく達を船から下ろしてください。自分達で、向こう岸を目指します!」
「生意気を言ってくれるじゃないか。お前になにがわかるんだ。たった一人で、この果てしのない川の向こう岸へ、ほいほいと遠足のように行けるとでも思っているのか」と、船長は言いました。「それよりも、だ。この船にいつまでもいたまえ。君はまだこの船のよさをわかっていないんだ。こんな楽園のような、自分の家同然の船を立ち去ると言うのか?」
船長が言うと、体が急にむっくりと、大きくなったように見えて、サトルは恐くなりましたが、それでも怖じけずに言いました。
「そうです。ぼくは、もうこの船にはいたくないんです――」
十日ほどたったある日、サトルはついにたまりかねて、お日様がまだ昇りきっていない時に、思い切って船長室のドアを叩きました。
「入りたまえ――」
船長の声に従って部屋に入ると、船長はアルコールの匂いを、プンプンとさせていました。起きたばかりなのか、制服の前をはだけたまま、ベッドに腰かけていました。
「おう、サトル君じゃないか。どうだね、もう船には慣れたかな? ハッハッハッ、聞くだけやぼというものかな。ここが気にいらんなどというやつは、この世界広しといえども、誰一人いるわけがないからな。食い物はたんとあるし、酒も飲み放題――」
「――船長」と、サトルが船長の言葉を遮って言いました。
「なんだね、どうしたのかね、サトル君。なにか希望でもあるのかね。さぁ、言ってみたまえ」船長はにっこりと、歯を見せながら言いました。
「船長――。一体、この船はいつ目的地に到着するんでしょうか? ぼくには、この船が堂々巡りをしているだけで、ちっとも前に進んでいるように見えないんです」
「――ハッハッハッ、おかしいな。君がそんなことを言うとは……。確かに、責任を持って、私が言おう。この船は、目的地に向かって進んでいる」
「だったら教えてください」と、サトルは言いました。「どうして、毎日毎日、みんなは自分を忘れてしまうほど酒盛りをして、日中は日中でろくに働きもせず、二日酔いにうんうんうなりながら、日が落ちるまで寝転がっているんですか? 帆だっていつも張りっぱなしだし、舵だってなにを目的に取ってるんですか? それに船長自らなんの指示もせず、どうやって目的地に行くんですか」
「フッフッフ。サトル君は、この私が目的地に行く気などまったくない――。と言いたいのかね」と、船長はゆっくりと立ち上がり、制服のボタンをかけていきました。
「……そうとしか思えません。向こう岸に行かないなら、ぼく達を船から下ろしてください。自分達で、向こう岸を目指します!」
「生意気を言ってくれるじゃないか。お前になにがわかるんだ。たった一人で、この果てしのない川の向こう岸へ、ほいほいと遠足のように行けるとでも思っているのか」と、船長は言いました。「それよりも、だ。この船にいつまでもいたまえ。君はまだこの船のよさをわかっていないんだ。こんな楽園のような、自分の家同然の船を立ち去ると言うのか?」
船長が言うと、体が急にむっくりと、大きくなったように見えて、サトルは恐くなりましたが、それでも怖じけずに言いました。
「そうです。ぼくは、もうこの船にはいたくないんです――」