「いてててて……」
サトルは、小屋が草原に衝突した際、あまりの強い衝撃に、思わずつかんでいた梁を放してしまいました。ゴロリと転がった小屋が、やっとの事で動きを止めると、転がった弾みで、どこかにぶつけた頭をさすりながら、ちょっと前まで小屋の壁だった床から、すっくと起き上がりました。
「――よいしょっ」と言って、ガッチはつかんでいた窓を離すと、サトルのそばにストン、と飛び降りました。
「サトル、大丈夫だったか?」と、ガッチが心配そうに言いました。
「大丈夫どころじゃないよ! アテテテテ……頭打っちゃったじゃないか。自分だけなんともないなんて、ずるいよ――」
「いやぁ、悪い悪い」と、ガッチが頭を掻きながら言いました。「別にしたくてやったわけじゃないんだぜ……ところでだ、サトル。おまえ、あいつ知ってるのか?」
「あいつって……あのヒゲの生えた変なヤツのこと?」と、サトルが眉をひそめて言いました。「ああ、知ってるよ。だって、ぼくはあいつにここへ落とされたんだもの。知らないわけないじゃないか……」
「――そうか」と、ガッチがくるっと背中を向けながら言いました。「それで、どうするんだ。あいつ、もう逃げちまったぜ……。やっぱり、また追うのか?」
「変なこと言うな……。当たり前じゃないか――」と、サトルがはっとして聞きました。「ガッチ、もしかして、あいつのこと知ってるの?」
サトルは、ガッチに問いただそうと、立ち上がりました。
「ちょ、ちょ、ちょっ……、知ってるって言えば、知ってるけどな。まぁ、その、ちょっとだけなんだ」と、ガッチが顔の前で手を振りながら言いました。「――しゃあねぇな。あいつの名前はな、ねむり王ってんだ」
「ねむり王?」
「お前と初めて会った時に一度言っただろ。ドリーブランドには王様がいるって。そのねむり王――ヒゲの生えたヤツが、実は王様なんだ」
「じゃ、なかなか外に出てこないで、城の中に引っこんでるって、王様? あいつが? 信じられないよ――」と、サトルは言いながら、座りこんでしまいました。
「――わかったか。おれ達にゃ、とっても手が届かねぇんだ。わかったら、あきらめな」
ガッチの話に、サトルはがっくりと肩を落としてしまいました。相手が王様では、とてもサトルの手に負えない代物でした。強力な軍隊はあるでしょうし、たくさんのお金も持っているでしょう。何人もの召使いがいて、王様のひと言で、食べ物から着る物まで、なに不自由なく気ままにできるのですから。そんな所へサトルが文句を言いに行っても、当の王様になど会うこともできず、お城の中に入ることもできなくて、虎のような怖い門番に追い返されてしまうのは、火を見るよりも明らかでした。サトルは、がっくりとうつむいたまま、しばらくなにも言おうとしませんでした。