ガッチが、サトルの声に飛び起きました。しかし目の前には、これまでと別に変わり映えのない景色が、相変わらず広がっているだけでした。
「ちぇっ、びっくりさせんなよ」と、ガッチは肩を落として言いました。「なんにも見えないじゃねぇか。どうかしちまったんじゃないのか――」
「なに言ってるんだよ。ほら、目の前だよ。ちゃんと見て。ぼく達、とうとう向こう岸に着いたんだよ――」
サトルは感激しているのか、わずかに声が震えていました。
「――おいおい。それ本気で言ってるのかよ」
ガッチは起き上がって、もう一度前をよく見ました。と、いきなりガクッという大きな揺れが来て、ガッチは「おわっ……」と、救命艇の外に投げ出されてしまいました。
「うわっ――。おいサトル、助けてくれ。なんか、やけに体が重いんだ。こりゃただの水じゃねぇぞ」と、ガッチはあっぷあっぷしながら言いました。
「ハッハッハッ……」と、サトルは笑いました。「なにやってるのさ、ガッチ。自分の足で立てばいいじゃないか」
「はぁ?」と、ガッチが信じられないという顔で言いました。「おまえ、おれが見えねぇのか」
「ガッチ、ふざけないでよ。冗談が過ぎるよ――」
ガッチがなにか言い返そうとすると、サトルが水の上にちょこん、と飛び降りました。
「おい――」と、ガッチはサトルが気でも違ったのではないか、と思いましたが、次の瞬間には、サトルがすっくと水面の上に立ち上がりました。ガッチがあ然としていると、サトルは浜に救命艇を引き上げるような格好をして、
「――フゥーッ」
と、満足げに長い息をつくと、ゆっくりとガッチの所に近づいてきました。
「――おい、頼む。おれに近づくな。おれに近づくなってば」
ガッチの悲鳴を無視して、サトルは、砂浜の上で手足をばたつかせているガッチを、ひょいと拾い上げました。
「どうしたのさ。もう、なんでもないでしょ……」
「エッ?」
と、ガッチは言うと、辺りを見回しました。すると、サトルの言うとおり、自分が溺れていたと思っていた場所は、もう川の中ではなく、波紋の浮かび上がった白い砂浜の上でした。
「――なんてこった。どうなっちまってんだ……」と、ガッチはサトルに抱きかかえられながら、頭をくしゃくしゃに掻き乱しました。
「ちぇっ、びっくりさせんなよ」と、ガッチは肩を落として言いました。「なんにも見えないじゃねぇか。どうかしちまったんじゃないのか――」
「なに言ってるんだよ。ほら、目の前だよ。ちゃんと見て。ぼく達、とうとう向こう岸に着いたんだよ――」
サトルは感激しているのか、わずかに声が震えていました。
「――おいおい。それ本気で言ってるのかよ」
ガッチは起き上がって、もう一度前をよく見ました。と、いきなりガクッという大きな揺れが来て、ガッチは「おわっ……」と、救命艇の外に投げ出されてしまいました。
「うわっ――。おいサトル、助けてくれ。なんか、やけに体が重いんだ。こりゃただの水じゃねぇぞ」と、ガッチはあっぷあっぷしながら言いました。
「ハッハッハッ……」と、サトルは笑いました。「なにやってるのさ、ガッチ。自分の足で立てばいいじゃないか」
「はぁ?」と、ガッチが信じられないという顔で言いました。「おまえ、おれが見えねぇのか」
「ガッチ、ふざけないでよ。冗談が過ぎるよ――」
ガッチがなにか言い返そうとすると、サトルが水の上にちょこん、と飛び降りました。
「おい――」と、ガッチはサトルが気でも違ったのではないか、と思いましたが、次の瞬間には、サトルがすっくと水面の上に立ち上がりました。ガッチがあ然としていると、サトルは浜に救命艇を引き上げるような格好をして、
「――フゥーッ」
と、満足げに長い息をつくと、ゆっくりとガッチの所に近づいてきました。
「――おい、頼む。おれに近づくな。おれに近づくなってば」
ガッチの悲鳴を無視して、サトルは、砂浜の上で手足をばたつかせているガッチを、ひょいと拾い上げました。
「どうしたのさ。もう、なんでもないでしょ……」
「エッ?」
と、ガッチは言うと、辺りを見回しました。すると、サトルの言うとおり、自分が溺れていたと思っていた場所は、もう川の中ではなく、波紋の浮かび上がった白い砂浜の上でした。
「――なんてこった。どうなっちまってんだ……」と、ガッチはサトルに抱きかかえられながら、頭をくしゃくしゃに掻き乱しました。