おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

西鶴一代女

2025-02-02 09:37:04 | 映画
「西鶴一代女」 1952年 日本


監督 溝口健二
出演 田中絹代 三船敏郎 山根寿子 宇野重吉 菅井一郎
   進藤英太郎 大泉滉 清水将夫 加東大介
   小川虎之助 柳永二郎 浜田百合子 市川春代
   原駒子 毛利菊枝 沢村貞子 近衛敏明 荒木忍

ストーリー
奈良の街外れの荒寺に老醜を厚化粧で隠した娼婦のお春(田中絹代)がいた。
羅漢堂に入ったお春はさまざまな仏像を見ていくうちに、今までに関わってきた男たちの顔を思い出すのだった。
御所に勤めていた十代のお春は、以前からお春に想いを寄せていた公卿の若党、勝之介(三船敏郎)に宿に連れ込まれたところを役人に見つかってしまう。
お春は両親(菅井一郎、松浦築枝)ともども洛外追放となり、勝之介は斬首となった。
都を追われ、両親とともに息をひそめるように生きていたお春だが、いまだ世継ぎのない主君の側室を探していた松平家の家中に見出され、同家に輿入れすることになる。
殿様(近衛敏明)との間にめでたく嗣子をもうけたお春だが、奥方(山根寿子)の妬みにあい、用済みとばかりに実家へ返されてしまった。
お春は金策に詰まった父親に島原の郭に売られ、太夫となる。
ある日、郭で金をばら撒いていた田舎大尽(柳永二郎)が彼女を見初め、身請けしたいと言い出した。
自分を思ってくれるならと心を決めかけたお春だが、実は彼は贋金作りで、踏み込んできた役人に捕らえられてしまう。
廓を出て笹屋嘉兵衛(進藤英太郎)の住み込み女中となったお春だが、今度は笹屋の客の菱屋太三郎(加東大介)によって彼女の前身が分かったことから、嘉兵衛の妻のお和佐(沢村貞子)に嫉妬され、追い出されてしまう。
実家に戻ったお春は、善良で働き者である扇屋の弥吉(宇野重吉)のもとへ嫁入りし、やっとささやかだが幸福な暮らしを手に入れたかにみえたが、外出先で弥吉が物盗りに襲われて殺され、無一物で店を出ることになる。
世をはかなみ、老尼の妙海(毛利菊枝)の世話になることにしたお春は、借金の取り立てに来た笹屋の大番頭治平(志賀廼家辨慶)に犯されそうになったところを妙海に見られてしまい、寺を追い出されてしまった。
嘉兵衛の番頭だった文吉(大泉滉)と出会ったお春は、彼と行動を共にするが、文吉はお春のために店の品を盗んだことが分かり、桑名で捕らえられてしまう。
そうしていつしかお春は三味線を弾きながら物乞いをする女になっていた。
空腹の余り倒れたところを介抱してくれた二人の夜鷹に誘われ、ついにお春は街娼にまで身を落すことになるが、長年の過労がたたって倒れてしまう。
そこへお春を探していた母のともが現れ、松平家の殿が亡くなり若殿が後を継ぐので、共に暮らせることになったと知らせるが、その喜びもつかの間だった。
お春が娼婦に身を落していたことを問題視した重役たちは、お春には息子である若殿の顔を遠くから一目見ることしか許さず、そのまま彼女を幽閉しようとする。
隙をみて逃げ出したお春はただ一人、孤独な巡礼の旅に出るのだった。


寸評
田中絹代が扮するお春がお経を読む声にひかれて羅漢堂に入っていくファーストシーンからラストシーンまで、ワンシーン、ワンカットと言ってもいいようなカメラの移動とパンによって物語を緩やかに紡いでいっているのが特徴となっている。
僕は溝口健二の作品としては「雨月物語」が一番好きなのだが、この「西鶴一代女」をベストとしている人も多い。
映画の内容はお春の男性遍歴である。
三船敏郎の若党が「お春さま、真実にいきなされ!」と言って打ち首になる。
お春は男運が悪く、関係した男たちに翻ろうされながら最後には娼婦にまで身を落とすが、それも彼女が真実に生きた末の一生なのだろう。
とにかく、お春はついていない女である。
殿さまの側室になるが、子供が生まれると用済みとなって追い出される。
島原の遊女となって身請けされそうになるが、相手はニセ金作りで逮捕されてしまう。
商人の家の女中になると主人に色目を使われ、奥さんの嫉妬で追い出されてしまう。
真面目な商人と所帯を持った時だけは幸せだったのだろうが、商人は殺されてしまう。
尼寺に行けば男の色欲行為で追い出され、連れ立った男はお春の為に盗みを働き捕まってしまう。
お春は色好みには見えないのだが、男性本位の社会で自己主張が出来ない女性である。
制作された頃は、まだまだ男性社会が当たり前だったのかもしれない。
男女雇用均等が叫ばれ、女性の社会進出がまだまだだったころの作品で、封建社会に対する批判が込められた作品だったように思う。
田中絹代は頑張っている。

お春には厳しい一生だったと思うが、大抵の人は良かったり悪かったりの繰り返しなのではないか。
私は人生は終始トントンになるものだと思っている。
羽振りの良かった人が落ちぶれている例を知っているし、色々あった私はささやかな幸せを今は感じている。
最後までこのままでいたい。