おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

騙し絵の牙

2025-02-08 12:43:11 | 映画
「騙し絵の牙」 2020年 日本


監督 吉田大八
出演 大泉洋 松岡茉優 佐藤浩市 佐野史郎
   宮沢氷魚 池田エライザ 斎藤工 中村倫也
   坪倉由幸 國村隼 木村佳乃 小林聡美
   リリー・フランキー 塚本晋也 

ストーリー
出版不況の煽りを受ける大手出版社「薫風社」では、創業一族の社長が急逝したことにより、次期社長の座を巡る権力争いが勃発。
専務の東松が進める大改革で、変わり者の速水が編集長を務めるカルチャー誌「トリニティ」は、廃刊のピンチに陥ってしまう。
「トリニティ」を率いる速水は、カルチャー誌の存続に奔走していく。
嘘、裏切り、リークなどクセモノぞろいの上層部、作家、同僚たちの陰謀が入り乱れるなか、雑誌存続のために奔走する速水は、薫風社の看板雑誌“小説薫風”から迎えた新人編集者・高野恵とともに新人作家を大抜擢するなど、次々と目玉企画を打ち出していくのだが・・・。


寸評
騙し絵には一つの絵が見る人によって違うものに見えるといったものや、錯視を利用して実際にはありえない立体物を平面に描いたものなどがある。
後者の代表的な作家はマウリッツ・エッシャーだろう。
雑誌「トリニティ」の編集長である速水はトリックアートのように変幻自在な手法で「トリニティ」の発行部数を増やしていく。
スーパーマン的な行動力を見せるが、それは彼の最終目的にたどり着くまでの手段だったのだ。
速水はこの映画におけるエッシャーだ。
彼の描く絵に隠されたもう一つの見方に気付かずに薫風社の役員たちは翻弄される。
作品は出版社の内幕物でもあるのだが、セクショナリズムはどこにでも存在している。
新聞社なら政治部と社会部、会社なら開発部門と営業部門などだろうが、この出版社では小説部門と雑誌部門が対立している。
今、再見するとタレントのスキャンダルに端を発した某テレビ局問題がダブる。
この映画の製作に協力している文芸春秋社における文芸春秋と週刊文春を連想してしまう。
薫風社の前社長は伊庭喜之助で、息子の名前が伊庭惟高で、ネームプレートはどちらもK・IBA となり、続ければKIBAである。
東松は巨大なKIBA会館建設を目論んでいるのだが、僕は球形を持ったテレビ局ビルを連想してしまった。
社長を追い出すための増資資金集めの道具だったあの建物だ。
KIBAは牙であり、速水の牙は二階堂、城島咲、矢代聖に向かい、小説部門を牛耳る宮藤に向かい、東松にも向かう。
物語として速水は立派過ぎるが、新人編集者の高野は面白いキャラクターとして描かれていて、演じている松岡茉優も魅力的だ。
新人編集者でもあれほど作家に対して書き直しを提言できるものなのだろうか。
高野の転身は書物への賛歌であり、ミニ書店への激励でもある。
速水が悔しさで紙コップを投げつけるシーンは痛快であった。