母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

花—千両役者

2023年04月18日 | 花(春)

桜が散れば牡丹の庭
古い町の寺の庭で
待っていましたと開く大きな赤い花は
回り舞台の華やかな人気役者
この季節の主人公

多くの画人の心を乱し
姿を佳人になぞらえ絵に残され
痛快なほど快活に謳い舞うつややかなその花
この世の春を謳歌して
香りを振りまく
かぐわしい大輪の牡丹

菜の花は黄色

2023年03月08日 | 花(春)
     菜の花は黄色
     菜の花が呼ぶ春
     菜の花はふくふくと香る
     菜の花を見るとこころが躍る
     歳かさねても明るい黄色はこころに幸せを運び
     青春が蘇る

     柔らかな時代無垢のこころを
     誰もがまだ持っている
     菜の花が呼び覚ます
     幾山河 光る春
     菜の花は黄色
     風に載る菜の花の
     香り 甘き


さくら月

2022年04月02日 | 花(春)
はる祭りの夜陣痛に耐え
五番目の子供を産んだ母
昼からのどかに神楽が聞こえ
辺りの桜は満開に
遅い高原の春の夜
産婆は五番目には油断して
祝いの部屋で酒と馳走に囲まれ
はや中年の産婦を忘れ
酒と祭りに酔うありさま
これも桜の魔力なのか
辛かったお産の思い出を
桜見ながら話した母は
それでもあなたは可愛かった
と何度も言うのでした

一斉に春の花の咲く明るい卯月
みんなが憂さを忘れてさくらに酔う世界に何でかぴょんと
飛び出した日のことなど思い浮かべ
エンドウ豆の花と菜の花と
御神楽の単調な音色と亡き母の
ふっくら手の甲を思い浮かべる
さくら月

うめのはな香る

2022年03月13日 | 花(春)
どこから漂うか梅の香り
浅き春その路の辺

まだ寒きに咲く花 
声小さく花びら小さく
ミツバチも眠る季節の空に
足元にはわずかに青くはこべ草
陽炎の午後に漂う愛らしい梅花よ

厳寒の中につぼみを抱き
あかるい光に春を知らせる
うすべにに咲く木に咲く花

やってくる花の季節に先がけ
微熱のように蜜のように
小さく咲き大きく群れる
ひそかに賑わうはな
そのかおり 楽しき

わたしの冬菜は

2017年04月25日 | 花(春)
わたしの冬菜は春が来ると
すっくと伸びて黄色い花を明かりのように咲かせた
わたしの冬菜は秋に蒔き
厳冬期には緑色に生えそろい
朝のサラダになったカリカリベーコンをトッピングされ

わたしの冬菜は優れもので
摘んでも摘んでもへこたれず
寒い朝ほどきりりと葉っぱを広げる
とても頼もしい友達

寒い季節が終わると
なんだかすっかりのんびりしてきて
一斉に黄色い菜の花になった
気丈な葉っぱも寒さを越えると春の花
青い花瓶に投げ入れると
蜜のような匂いを発しリズムを取り
にぎやかに語り合って広がった

すまし汁に花菜を一本
加えて浮かべたらやはり
あの頼もしい冬菜になった

白い花の咲くころ

2017年03月24日 | 花(春)
心柔らかなころ
ラジオから流れていた歌がある

白い連山のあるふるさとの
白い花は何の花だったろうか

嶺の残雪が光る庭の
日だまりに淡雪のように
白い雪柳がゆらゆら揺れて咲いてたろうか

雪柳は大きな庭石に沿い
白い花をつけた柳になりいくつもの枝を
揺らし流れていたろうか

そして庭石の上には金色の目の
若い黒猫がいただろうか

白い花の咲くころ
銀色の高山を臨むふるさとでは
目覚めの陽光が生き物らの上に振り撒かれたろうか

白い花の咲くころ
若者たちは 幸せでいたろうか

雪柳 水仙 白菫
白梅 辛夷の花に泰山木 白木蓮 
命を先導する白い
連山の村に白い花の咲くころ






芍薬に降る雨に

2016年06月08日 | 花(春)
芍薬に雨
手のひらと開く青い葉に雨
霧雨やわやわと纏わりつき
木々の緑いよよ深み
肌色の あかりのごとき花弁
恥ずかしげに
玉のような蕾佇む婦人に雨

しゃくやく 芍薬の花 
やがて終わる 花のはかなさ
はらりおちる花びらを
愛しめば
雨の庭にもの言わぬ花たちの
精一杯のいのちの宴
霧雨小雨につつましや
この季節を愛する人のために咲く花の
雨の姿の
麗しき


春の句 花心

2016年04月30日 | 花(春)
☆ 風強き朝の窓辺の残り花

☆ 春あらし空の高さよ雲遠し

☆ 菜の花を食べて飾りての朝の卓

☆ ぶたまんじゅう名より可愛い葉を伸ばす

☆ 晴れてのち曇ってのちの陽の寒さ

☆ 赤い花黄色い花と絵の庭に

☆ カタツムリ高層の壁に春描く

☆ ミント茶にこぼるるばかり葉を積んで

☆ 夢多き乙女に戻り花買う日

☆ 垣に葉と花垂らす家人静か

☆ うらおもてどちらも春の霞富士

☆ 猫の尾の陽炎のごと浮かぶ午後

チューリップが咲くと

2016年03月29日 | 花(春)
チューリップが咲くと
春は春
今年もまた春 新しい春
健気なチューリップが今年も
庭に一本立って開いた春のときめきを蘇らせて

思い出は遥かに遠くても
茶色の革のランドセル
枝にとまる小鳥の絵が描いてあるセルロイドの筆箱
匂のいい消しゴム
大きなます目のノオト
頭に消しゴムのついたトンボ鉛筆
ピンクの下敷き二人座りの木の机
黒いビロードのスカートに春の風が寒い
さくらの絵の母の紬は汁粉色
朝日を浴びて絵のように思い出させた
チューリップの赤いはなびら

春は春
花に生まれた少年少女らが
今年も人間のはじめのドアをそおっと開けるでしょう



レンギョウの花

2015年03月26日 | 花(春)
春の彼岸には
墓を囲んで咲いた黄色いレンギョウの花だった

北風寒く吹く高原の
村の彼岸は
先祖さまに会う日だった

真昼の陽を浴びた黄色いレンギョウはいつも
春の訪れを告げる
金いろのまぶしい花だった

雪を抱く高山に囲まれ
豊かな湧水に恵まれ
黒土の肥沃な田畑の村は
平和に横たわり欠伸し
冬の眠りから目覚める季節だった


それから長い長い時が過ぎ去り
いつかレンギョウの木も
人も村も老いに疲れ果て
家も道も小川も
レンギョウの木と共に姿を変え
幾つも並ぶ墓石らは
悠久の流れの中の命の喜びと儚さと
再生を願い
静かに立っているのだった


春の句 【春の空、桜】

2014年04月22日 | 花(春)
さくらさくら身延の山は紅の山

さくら咲く今年の春をまたさくら

小学校のさくらの古木の古里に

振り仰ぐ昭和のさくら懐かしや

先生も友らもさくらに化身して

山麓は空もおぼろに春の星

父母は今春空の星となり

幼い日クレヨンで描きし春の星

春の星どなたの瞳かまたたきか

風に乗りさくら思索し舞い散るか

さくらさくらさくら

2014年04月14日 | 花(春)
わたしの上に降るさくら
わたしの空を埋めるさくら
過去を覆い
言葉を奪い
未来を見るさくら
いつもの春の
あけぼのいろのさくら

息をひそめ
どこかで見ているのはどなた
慈愛のひとみで
みつめているのはだれ

さくらのはなのはなびらに
ひろがる小さな宇宙
ひろがりが胸を締め付け
この道をまた歩くと
数え切れぬ花の思い出が舞い散るのだ
過ぎし日よ さくらよ 
手を合わせ見上げてその空に吸われてゆく 

黄色い菜の花

2014年03月28日 | 花(春)
黄色い菜の花 池のほとり
黄色い菜の花 蜜の香り
黄色い菜の花 真昼の公園
何をか語る 十文字のちさき花の塔
過ぎ越しの春の ざわめき
光る黒土

黄色い菜の花 湧水の池の光る水面
水鳥憩う水辺 弥生のそら
黄色い菜の花 蜜の香り
黄色い菜の花 太陽の微笑
花の香に集う 虫たちの歓声

黄色い菜の花 柳のみどり
揺れて光る 春のよそ風

黄色い菜の花 
また蜜の匂い

カーネーション

2013年05月13日 | 花(春)
母の日の赤いカーネーション
母のない子は白い色
白い色の花はどこに飾る
赤色白色 カーネーション
心に咲く花母の花

母のほほえみカーネーション
白い花にはどんな服
白は何にも似合う色
優しい母のすきな色
母の白い手ごはん色

赤い花はにぎやかで
幸せ色の夕日のよう
いちごミルクの食卓に
黄色いたまごのその皿に
こがねの光投げかける

白い花にかあさんの
白い横顔浮かびます
白いエプロンちいさなテーブル
みんな明るい白い色
カーネーションの
白い一輪