母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

チューリップが咲くと

2016年03月29日 | 花(春)
チューリップが咲くと
春は春
今年もまた春 新しい春
健気なチューリップが今年も
庭に一本立って開いた春のときめきを蘇らせて

思い出は遥かに遠くても
茶色の革のランドセル
枝にとまる小鳥の絵が描いてあるセルロイドの筆箱
匂のいい消しゴム
大きなます目のノオト
頭に消しゴムのついたトンボ鉛筆
ピンクの下敷き二人座りの木の机
黒いビロードのスカートに春の風が寒い
さくらの絵の母の紬は汁粉色
朝日を浴びて絵のように思い出させた
チューリップの赤いはなびら

春は春
花に生まれた少年少女らが
今年も人間のはじめのドアをそおっと開けるでしょう



緑の葉

2016年03月10日 | Weblog
二輪のもも色椿

信楽に挿した春の日

朝焼けのようにうす紅が透け

夕焼けのようにうす紅が急ぐ

三日目に椿はひとつ ふたつと畳に落ちて

形を失い命終えたが

花の去った枝はそれから何日も

きらきら光る濃い緑の葉たちを従え

何もなかったように信楽の壺に控えていた

そこに二つのうす紅の花のあったこと

その終わりがあったことも

何もなかったように輝きを失わず

静かに息遣いして

花冷えの午後をゆるりすごしていた