母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

てまりうた

2024年02月26日 | 
    

    てまりうた(わらべうた)     

                     竹内俊子 作詞 文部省唱歌

 てんてんてん 天神様のお祭りで
 てんてんてまりを買いました
 てんてんてまりはどこでつく
 梅のお花の下でつく
 下でつく


 てんてんてん 天神様の石段は
 だんだん数えていくつある
 だんだん数えて二十段 
 段の数ほどつきましょう
 つきましょう


   https://www.youtube.com/watch?v=JRGbCymN_TM てまりうた

空き地で梅は香る

2024年02月17日 | 
よこみち通りの空き地の古い梅の木を
わざわざ見に来る人もなし

空き地は枯草もまばら
誰の土地かもわからない

閉店したばかりのパン屋のビルは
空き地のそば午後の陽を浴びている

ささやかな空き地にも
春の花は何時かは咲く

そ知らぬ顔で通る人をみおろす
花に纏われた木はしあわせ

人影少ない場所で梅の大樹が
辺りに香りを漂わせ咲いている

いのち菜の花

2024年02月01日 | 
食べるため買った葉
みどり瑞々しい葉から黄色い花が伸びる
菜の花はいのちかけた春の花
南の海辺の街は冬陽射し
気の早い菜の花が春を告げ始めても
北の海辺は哀しみ沈む

この花をじっと見つめると細長い
たおやかな私たちの国の島影その島の中にあるささやかな
営みのあった街街
雪に悶える哀しい家が浮かぶ

春を運ぶ黄色い花に
いのちの喜び悲しみは交差する
蜜の匂いする花に何の罪もないけれど
黄色い菜の花凍る如月


疲れた日は畳の上で

2023年09月21日 | 
思いっきり疲れた日は青い畳の上に寝転がって
あっちごろごろ
こっちごろごろ
そして腹ばいになり
四肢を思いっきり伸ばして
子供の頃のように猫のように
人目はばからずに伸びをして
また仰向けになり
天井の見知らぬ模様を眺めたり
窓から流れる風をほほに受け
生きた今日の時間をなぞり
大の字になって目を閉じて
ふっと微笑みまた伸びをして
畳の柔らかい厚みの上で思いっきり息を吐き
人間をまた続ける気力をいただくのです

四畳半だけ残った和室の
かけがえのない幸せ時間に

蓮のうてなに

2023年07月12日 | 
蓮の葉繁り
蓮の花咲く
薄紅いろに開く花

蓮のうてなにじいちゃんが
載って行った遠い日
ねこたちが
葉に載ったあの日
蓮の葉は池を青く覆い生き生き呼吸する
広い葉の上にじいちゃんも猫たちも
見えない姿になり住んでいる

蓮は夏空の下
ここちよい葉を広げ
すがた無くしにぎやかにいきるいのちを咲く

鯉や塩辛トンボらをいつくしむ夏の池に
繁る蓮の葉

青い花

2023年06月19日 | 


雨に咲く青い花
空と海を映す青い花
それは心の平安を呼ぶ色

切り取り花瓶に差すと
はなは少し寂しそうに
天を仰ぎ
そよぐ風 落ちる雨 語る仲間を
探して少し体よじり
運命を知り黙って咲いている

切り取った花の声が聞こえ少し悲しい人間は
青い花を傍らに
みどりの茶をすするだけ
青い花の優しさを 感じながら

天平の寺

2023年03月30日 | 

弥生の空に薄紅の花の木
天平の寺跡は春の陽にあふれる
短い春をめでて人はさくらに
ほのかに寄せる願い
幸せの時間

天平の空千年を超えて
青く広く風はそよぎ
今はない伽藍の芝に
今を生きる春を楽しむ

楡は手を広げ人と共に憩う
静かなる
武蔵の国分寺

スタンド アローン 『坂の上の雲』より

2023年01月24日 | 
 
   スタンド アローン   
             小山 薫堂 作詞
             久石  譲 作曲

小さな光が 歩んだ道を照らす
希望のつぼみが 遠くを見つめていた
迷い悩むほど 人は強さをつかむから
夢を見る 凛として 旅立つ
一朶(いちだ)の雲をめざし

あなたと歩んだ あの日の道を探す
ひとりの祈りが 心をつないでゆく

空に手を広げ 降り注ぐ光集めて 
共に届けと放てば
夢かなう 果て無き
想いを明日の風に乗せて

私は信じる新たな時がめぐる
凛として 旅立つ
一朶の雲を めざし




           *東京オペラシティコンサートホール 森 麻季 2023.1.24

落葉松 高原の晩秋詩

2022年12月01日 | 

    落 葉 松

          北原 白秋

からまつの林を過ぎて 
からまつをしみじみと見き
からまつはさびしかりけり
たびゆくはさびしかりけり

 からまつの林を出でて
 からまつの林にいりぬ
 からまつの林にいりて
 また細く道は続けり

  からまつの林の奥も
  わが通る道はありけり
  霧雨のかかる道なり
  山風のかよう道なり

   からまつの林の道は
   われのみか ひともかよいぬ
   ほそほそと通う道なり  
   さびさびといそぐ道なり

    からまつの林を過ぎて
    ゆえしらず歩みひそめつ
    からまつはさびしかりけり
    からまつとささやきにけり
    
  からまつの林を出でて
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  浅間嶺にけぶり立つ見つ
  からまつのまたそのうえに 
 
   からまつの林の雨は
   さびしけどいよよしずけし
   かんこ鳥鳴けるのみなる
   からまつの濡るるのみなる

    世の中よあわれなりけり
    常なけどうれしかりけり
    山川に山がわの音
    からまつにからまつのかぜ




秋刀魚の歌  佐藤 春夫の秋

2022年10月15日 | 

  秋刀魚の歌

                        佐藤 春夫   

あはれ
秋風よ
情(こころ)あらば伝えてよ
―――男ありて
今日の夕餉に ひとり
さんまを食(くら)ひて
思ひにふける と。

さんま、さんま 
そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて
秋刀魚を食ふはその男がふる里のならひなり。
そのならひをあやしみなつかしみて 女は
いくたびか青き蜜柑をもぎて夕餉にむかひけむ。
あはれ、人に捨てられんとする人妻と
妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、
愛うすき父を持ちし女の児は
小さな箸をあやつりなやみつつ
父ならぬ男にさんまの腸(わた)をくれむと言ふにあらずや。

あはれ
秋風よ
汝こそは見つらめ
世のつねならぬかの団樂(まどい)を。
いかに
秋風よ
いとせめて
証せよかの一ときの団樂(まどゐ)ゆめに非ずと。

あはれ
秋風よ
情あらば伝へてよ、
夫に去られざりし妻と
父を失はざりし幼児とに
伝へてよ
―――男ありて
今日の夕餉に ひとり
秋刀魚を食ひて
涙をながす と。

さんま、さんま、
さんま苦いか塩っぱいか、
そが上に熱き涙をしたたらせて
さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。
あはれ
げにそは問はまほしくをかし。

フェンネルは咲く

2022年06月14日 | 
フェンネルは伸びに伸び
お空をめざして咲いた
黄色い小さな花
細い枝の先で楽しそうに揺れ揺れ咲いた

フェンネルの種は薬草湯として袋に入れられ
暖かい湯船のなか人間と一緒に欠伸して湯あみして
やがて袋から出され土に捨てられた
捨てられたけどそ知らぬ顔で
芽を出し伸びて蕾を開くのだ

なんという逞しさ
フェンネルは賢い
フェンネルは美しい
不敵に健康で悩みがない
たおやかに背を伸ばし風に揺れそ知らぬ顔で
初夏の空をめざし咲いた
黄色い花フェンネル

白い色に還る

2021年11月07日 | 
人は生まれて様々な色を知る
人は彩にあこがれ色に染まり
人はひとの彩を着る

空の色海の色風の色
この世に色は美しすぎ
人は何時か彩に疲れる
疲れ傷つき人は末枯れて
静かに静かに眠りにつく
思い出を語る色は
白いカーネーションか
人は人の心に多くを残し
悲しみ色の白を残す

純粋とは
あなたのためにある亡き人よ
秋の夕暮れひそかに咲く

あなたの人生今は白く咲け
純白に黙す花よ白いチャペルの
いとしきカーネーション


甃のうへ  ー詩人の春の詩界ー

2021年04月10日 | 
     甃のうへ

        三好 達治

あはれ花びらながれ

をみなごに花びらながれ

をみなごしめやかに語らひあゆみ

うららかの跫音空にながれ

をりふしに瞳をあげて

翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり

み寺の甍みどりにうるほひ

廂ひさしに

風鐸のすがたしづかなれば

ひとりなる

わが身の影をあゆまする 甃(いし)のうへ



たまご

2020年10月21日 | 
たまごは遠くからやってきて
たまごは遠くに去って行く

温かい丸み
ほんわりする形
たまごはいつも平和で
たまごはいつも眠っている
眠っているけれど
生きて呼吸をする

朝早くめんどりは声高く叫ぶ
目覚まし時計のように正確に朝の光の中で
めんどりの日課の歓喜の声
 私が産んだの
 今産んだの
 早く見に来てわたしのたまご
めんどりの体温のままに生きてるたまごは
ふわり初めての呼吸をする

まあるいたまご
やさしいかたち
青草を食み
土壌の生き物を食べ
美味しい高原の空気を吸って
この世に生まれ来るたくさんのたまご
そしてどこかにいつの間にか
ひっそりと去って行く
もの言わぬ愛しい たまご

春の祈り

2020年03月12日 | 
ふわりやさしい春の風
心弾む春の音

この柔らかさの中を
生まれてくるいのちと
去って行くいのちとが
挨拶をするわかれみち
その辺りには
黄色い花の咲く野原

甘美すぎてねむくなり
交差して
光と風
永遠の中にいて
気づかずに過ぎていく
時間