母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

サイダーの夏

2016年07月30日 | 季節

水玉のコップ 手彫りの木のお盆

サイダーを井戸水で冷やし

ゆりの匂う縁側で

木綿のワンピースの少女らが笑っていた


光と風の暑い季節が立ち止まり

ルリタテハが地面にとまり

太陽に疲れた草の葉がゆれた


しゅわしゅわと咽喉を伝ったサイダー

ビリビリと体に沁みたサイダーは夏の印鑑


深緑に山がうもれ空に入道雲の湧く夏休み

きりきり清やかな透明なサイダーの泡のかたち

蝉も合唱したあかるい真昼 夏の日



黒猫温泉

2016年07月16日 | 
いつかきっときみを
温泉に連れてゆこうまだ若い
きみは溌剌として疲れも知らず
温泉のありがたさも判るまいから
ここしばらくは陽のあたる
風通しのいいテラスの窓辺で気持ちよく
万歳スタイルで眠るがいいさ

きっときみを
連れていくよ 温泉へ
ぎりぎり老いた父母の
晩年を支えてくれたのは
子でもなく孫でもなく
庭に咲く季節の花々と
黒猫きみなのだった と
みんなが気付く日は来るから
そしてきみのあのフットワーク
敏捷でほれぼれとした
足腰だって弱まって
高い机に飛び乗ることもままならず
静かに老いを迎える時も来るだろうから
その時はやっと同輩になって
見晴らしのいい屋上の
露天風呂を借り切って
富士を眺めていっぱいやるのも悪くない
またたび酒は台所の
シンクの下にたっぷりともう造ってあるし
そしてたぶん
その時にはいなくなっているだろう
じじ ばばの
思い出話をはなそうね
岩魚の塩焼きをしゃぶりながら

黒猫きみを連れていくよいつかきっと
私たちの温泉へ
車に乗せて
フードもトイレも一緒にね

(清水みどり詩集『黒猫』 1997年 東京文芸館 より)

梅雨の朝の青い空

2016年07月10日 | 季節
日曜の青空
水甕にもトルコキキョウの青
すすきの葉は緑色
水の色が透けて
何と美しい光る朝

窓の外には冬越えラベンダーが空を指し
紫の小さな花たちがつぶやくので
珈琲は機嫌よく香り
ガーリックトーストはバターとはちみつを載せ肩組む
こんな小さく淡い朝の幸せ

スイカの赤が白い皿に
冷たくシギシギ高原の涼気流す
長雨の間の晴れた朝です