母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

靴下のつぎ

2013年01月11日 | Weblog
冬の陽だまりに脱ぎ捨てられた くつした
何回となく踏みしだかれくたびれ果て
老いた人間のように畳みの上に曲がり横たわり
陽の光をすすりながらくつしたは言うのでした

ご主人様 もういいでしょうか
私ももうすっかり疲れました
そうですあなたと同じなのです
だいぶ長くやってきたもので
編みもゴムもどうやら延びてきて
締りもなくなりそろそろ
引退の時が来ています

素敵だったサーモンピンク色もどこか褪せだし
かかとはうっすら薄くなり
何だか風通しさえよくなってきたようなー
でも長いことあなたは
土踏まずのシェイプが気持ちいい
と私を愛してくれてのでしたね
太めの糸でしっかり織られて
新鮮だったデビュー時から今年で何年たったことでしょう
とにかく
何にでも終わりが来る 変遷はどこにもある
すべてに終末があるのです


むずかしいことも言いだしてくつしたは
なんとか引退させて欲しいと言い出したけれど
かかとに絹の布を三枚重ね折りし
つぎにして当てこの冬いっぱい
働いてもらうことになったのでした

愛着を捨てきれず当て布までも刺し子のようにして
どうしてもあとひと冬をいっしょに過ごさせて
と猫にするように頭をなでると 
くつしたはもう なにも言わずおとなしくなり
日向ぼっこもせずせっせと働きだしたのでした
 
かかとはずっとずっと厚く 温くなって
この つぎ を当てたくつしたをなお
手放せれなくなったのでした