母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

青春の真ん中にいるときは

2023年08月15日 | 青春
青春の真ん中にいるときは
何にも見ていなくて
過ぎ去る時間の重さも知らない

青春の真ん中にいるときは
流れる汗も勝手に落ちて
疲れるということを知らない

青春の真ん中は台風の眼
周りの嵐は見えなくて
遠い世界をめざすだけ

夏の空 海の匂い
湧水の山の小道はつづく
青春は何処にもいて爽やかな景色に埋もれていた

描きかけの絵をたくさん持ち
キャンバスの白さにときめいて
色を探していたミストの時代

忘れかけた青春の真ん中
夏の面影のシルエット

立原道造の詩界―珠玉の抒情ー

2022年10月03日 | 青春
       のちのおもひに

               立原 道造


夢はいつもかへって行った 山の麓のさびしい村に
水引き草に風が立ち
草ひばりのうたひやまない
しずまりかへった午さがりの林道を

うららかに 青い空には陽が照り 火山は眠っていた
―――そして私は
見て来たものを 島々を 波を 岬を 日光月光を
だれも聞いてゐないと知りながら 語りつづけた...

夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまったときには

夢は 真冬の追憶のうちに凍るであらう
そして それは戸をあけて 寂寥の中に
星くづにてらされた道を過ぎ去るであらう



残酷な春

2018年04月29日 | 青春
ゆっくり眺める間もなく
大急ぎで通り過ぎて行く春の花
人の心に燃え残る短い青春
冷酷な素顔 自然の風は
あっという間に立ち去ってゆく

陽光のもと
午後のぬるむ空気を浴びれば
既にはらはらからかうように急ぐ桜
あけぼのいろの嵐 燃えるはなびら

大輪の牡丹の花は
盛りの顔をふと陰らせ
時の流れに変貌し
丸い舞台を回しゆく

駆け足で秋はやってくるが
春は
飽きやすく心変わりするドンファン
恋人のように
衣の裾ひらり翻し無情な顔でさようなら

取り残された哀れな人間どもは
またかとつぶやき自分の年輪を指折りし
みなしごのように辻で佇んで
糸のようなため息をつく

そして毎年やってくる美魔女の面影い抱き
一年ごとに古くなっていくだけ
残酷な迷い子の 春

秋草の花をたおりて

2013年10月20日 | 青春
秋草の花をたおりて
君住みし町 バスに揺られき
秋草の花はうすべに
秋草の花のいとしさ


歩みゆく我が足元に
まつわれる花はさびしき
絶えて人行き交うもなき道野辺
人知れず 汝は咲きたり


秋草の細き姿は
いにしえの君に似たるかな
うつむきて佇む影の
やさしさを我は忘れず

はつあき

2013年09月29日 | 青春
はつあきは すず風のそよ吹く
はつあきは 白い筋雲
ほほなでるおくれ毛 ちいさく翻る衣のすそ
赤とんぼの茜色
サルビアの紅色のくちもと
遅れ咲くにがうりのはなは 天を仰ぎレモン色に開く

灼熱の怒りの空を遠め 白い季節はなお透きとおり
青空は澄み高まり
夕暮れれば大空の 雲らはみな茜に染まり
待ち望む季節の音色を再び奏でだす九月
日射し温いその末つかたこそ 
遠く名を呼ぶ母の声のごとく嬉し
はつあきの瞳に 護られながら