母はふるさとの風

今は忘れられた美しい日本の言葉の響き、リズミカルな抒情詩は味わえば結構楽しい。 
ここはささやかな、ポエムの部屋です。

紫苑の花咲く庭

2014年10月24日 | ふるさと
紫苑の花の咲く日
亡き母の墓を尋ね生家を訪ねた

紫苑の花はいつもの場所に
背を伸ばしすくっと咲いていた

薄い紫を好んだひとは
地上を見下ろして何か面白そうに笑っていた
そこに確かにそのほほ笑みがあった

苦しいのか楽しいのか 訝しいほどにいつも
明るく笑う人は紫を本当に好きだったのだろうかまたは憧れだったのか
紫苑の花は知っているか

明るい春の花咲く季節に生まれた母娘が
一緒に笑い合う日はない

それでも
笑い合う楽しさは消えずに紫苑咲く庭で
何も変わらないような季節 家の気配

笑っても話しても涙はこぼれない
不思議なこの思いをこれからも静かなシオンの花に尋ねよう
楽しかった日日は土の中深く瓦屋根にも溢れる

空に向かい小さな花は群れて咲く

ムラサキシメジ

2014年10月12日 | 季節
ムラサキシメジは森の中の
細い小道から離れた木々の足もと
木の葉にうもれた土からそっと顔を出す
土は沢山の葉を重ね
何年も荒い雨風にもまれて
山の養分を孕むきのこたちのやさしい寝床

ムラサキシメジはほんに小さなちいさなきのこ
人知れずにひっそり生まれ
のんきに欠伸してしのび来る雨露に背伸びする

ムラサキシメジはまぼろしのきのこ
森の精が冬の衣を纏い始める頃
滲みわたる妖しい匂いを漂わせ
細い首はむらさき色に 傘は小さく健気に
誰にも気付かれない場所に起き上がってくる

葉を落とし始めた森の
たくさんの木々に護られ愛され
清涼の冷気の朝夕
また傾いた太陽の木漏れ日をちらちら浴び
秋色染む森の中で
木の実やリスやヤマネたちやと一緒に冬の到来を知らせる

鍋に入れ味噌うどんに入れ
食べたいきのこ
懐かしい森のちいさな友人
香りが恋しいムラサキシメジに 
またきっと会おう