晴れ、7度
主人は福岡に帰る時,自分の母,私の母に身に着けるもの,香水や口紅などを必ずお土産に空港で選びます。もう15年ほど前でしたか,モモさんもまだやって来る前のこと,きっと何かの仏事で主人と私揃って福岡に帰ったことがありました。
いつものように香港の空港に着くと,お店を見て回ります。私の母にはマフラーがいいなあと主人は探します。バーバリーの店先で主人が手に取ったマフラーは例のバーバーリー柄。「それじゃ母は使わないわよ。」と色遣いはバーバリーですが縞が大きな物を主人に手渡しました。母は気に入らないと手も付けない人です。
主人が持参した大柄のマフラー,母は大喜び。東京からは息子も呼んでいました。菩提寺の墓参りの帰り,お寺の門を母、息子、私が並んでくぐる写真が残っています。母の首にはお土産の大柄のマフラー。まだ母が普通に元気に歩いていた頃のことです。
母が足を傷めて家にいることが多くなってもこのマフラーは,冬になると必ず母の身近にありました。いよいよ一人暮らしが無理になって,施設に入るときは,荷物にこのマフラーを入れました。母が逝き,施設の部屋の片付けをしたのは息子と私です。私は,捨てるものとしてダンボールに身の回りのものを入れました。そんなものの中から息子が取り出したものが3つ,このマフラーと母のトレードマークのようなニット帽でした。
家の整理でも私は、母が身につけていたものはひとつしか残しませんでした。全く着るものの好みが違う母です。
一昨日、東京に着いた私を息子家族が途中まで出迎えに来てくれました。東京の日暮れは早く,家に帰り着く頃には真っ暗でした。私鉄の駅から歩いて10分ほど,息子の胸に抱かれている孫に,お嫁さんがトートバックから出して来たのは、例のバーバリーのマフラーでした。息子の首に巻いて孫の頭と首をすっぽり覆います。普通のマフラーよりは大きなサイズです。その様子を見ながら,久しぶりに見た母のマフラーに母を思います。母を思い、それを母に買ってくれた主人を思います。そして,大事にそのマフラーを母亡き後持ち帰った息子を思います。そんなマフラーを子供のために持ち歩いてくれているお嫁さんを思います。
残したものはほんの僅かですが,こうして思い出されている母はきっと幸せなはずです。小さなものが家族に残り伝わって行きます。