晴れ上がった空の下、真新しい墓標がよく映える。
昨日据えたばかりの、立派な墓石だった。
母親の好んだ、小さな花弁の青紫の花を供え、サキシアの祈りは長い。
蹄の音に祈りを止め、サキシアは振り向いた。
いつものように背筋を伸ばし、さばさばと墓地を出ようとすると、フレイアが馬から下りるのが見えた。
フレイアは馬の背から花を下ろし、サキシアを認めると黙礼した。
「サキシアさん。母の代りに謝らせて頂けませんか?」
サキシアは無表情で見返した。
「何をですか?」
「前借りを許可しなかったせいで、お母上がお亡くなりになってしまった」
「王女様の責ではありませんし、もう、何か変わるものでもありません」
サキシアの口元が僅かに歪む。
フレイアはその笑みに、彼女が手紙を渡したことを、確信した。
「手紙をダコタ殿下に渡しましたね?」
サキシアはくすりと笑い、視線を逸らした。
「王女様がそう決めてらっしゃる以上、私の答えに意味はありません」
「貴女を裁くことも出来るのですよ」
「何の罪ででしょうか?下げ渡された不用品は私の物。文書では頂いておりませんが、周知の事実です。それをねじ曲げてまで、私を裁くおつもりですか?」
サキシアが再び、フレイアを見返す。
「そもそもあの手紙にある事実を、隠しておくことことこそ、民への裏切りではないのですか?」
サキシアは一礼して、フレイアの横を通り過ぎた。
二通のうち一通は、王への懺悔と懇願の手紙だった。
細かいことはぼかしてあって、王妃への手紙と合わせなければ、決定的な証拠にはならない。
サキシアは王への手紙だけをダコタに売ったのだ。
そのお金をはたいて、墓石を買った。
もしも王妃が、謝罪か墓参りに来てくれれば、もう一通の手紙は渡すつもりでいた。
王女を相手にしても、思った程心は晴れなかった。
仮に王妃が来たとしても、あまり変わらなかったかもしれない。
王妃を信じ、懸命に仕えた十四年。
けれど、もういい。
全ては終わったのだ。
サキシアは家に戻って、残した手紙を燃やした。
翌日、サキシアは隣町にいた。
八年間通った、学校がある町だ。
村からの道は、昔より整備されてはいたが、それでもかなり荒かった。
子供の足で、毎日よく歩いたものだと思う。
母校を見に来たわけではない。
母親が、仕事を請け負っていた仕立て屋に、お礼と挨拶に来たのだ。
自分の腕も、売り込むつもりだった。
サキシアが仕上げたショールを見て、美しい黒髪の女主人が、目を輝かせた。
「凄いわ!お母さんも上手かったけど、これは本当に凄い!ああ、息子にも見せたいわ!」
「ご子息がいらっしゃるのですか?」
「そうなの。綺麗なものを見極める目だけはあってね。姉から貰ったんだけど。言い年をして、嫁もとらずに、高望みばっかりして」
「叔母さん、外まで聞こえるよ!」
仕立て屋の扉が勢いよく開けられた。
「俺は、綺麗で頭がよくて、気が強い女を探しているだけなんだ」
サキシアが顔を向けた。
見るからに陽気な男だ。
おどけた顔が、板に付いている。
「ほら、いた」
沸き上がる喜びが、男の顔に笑みを作った。
「サキシア!!俺だよ!ギャンだよ!」
面食らいながらも、ガキ大将の面影を探すサキシアを、ギャンが見つめる。
「あの時は上手く言えなかったけど、キリッとした顔に、青い仮面を着けたみたいで、本当に凄く綺麗だと思ったんだ」
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