狐の日記帳

倉敷美観地区内の陶芸店の店員が店内の生け花の写真をUpしたりしなかったりするブログ

普通の触れ方を知らないから戸惑っていたら 触れてくれた手にどれだけ夜をくぐり抜けてもずっと冷めないままの熱が脈を打つ

2019年02月14日 23時23分53秒 | 知人、友人に関する日記



 本日2月14日は、兵士の自由結婚禁止政策に反対したウァレンティヌス司祭がローマ皇帝クラウディウス・ゴティクスの迫害を受けて処刑されたとされる日で、教皇グレゴリウス7世が神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世を破門した日で、キャプテン・クックが太平洋探検の第3回航海中にハワイで先住民との諍いによって落命した日で、グラハム・ベルが電話の特許を出願した日で、シカゴで聖バレンタインデーの虐殺が起こった日で、103番目の元素・ローレンシウムが合成された日で、為替レート・1ドル=308円の固定相場制から変動相場制に移行した日で、イランの最高指導者アーヤトッラー・ホメイニーが『悪魔の詩』の著者サルマン・ラシュディと発行に関わった者などに死刑を宣告した日で、アフガニスタンのアブドゥール・ラフマン航空観光相がカブール国際空港で群衆に取り囲まれ撲殺された日で、ふんどしの日で、ばれんたいんでーです。

 本日の倉敷は晴れでありましたよ。
 最高気温は六度。最低気温は二度でありました。
 明日は予報では倉敷は曇りとなっております。







 お鍋はぐつぐつ煮える。
 牛肉の紅は御師匠様の素早い箸で反される。
 白くなつた方が上になる。
 斜に薄く切られた葱は白い処が段々に黄色くなって褐色の汁の中へ沈む。
 箸の素早い御師匠様は晴着らしい付下げを着ている。
 傍に和柄鞄が置いてある。
 御酒を飲んでは肉を反す。
 肉を反しては御酒を飲む。

 狐は御師匠様に御酒を注いで遣る
 狐の目は断えず御師匠様の顔に注がれている。
 永遠に渇しているような眼である。
 眼の渇きは口の渇きを忘れさせる。
 箸の素早い御師匠様は二三度反した肉の一切れを口に入れる。
 白い歯で旨そうに噬む。
 永遠に渇している眼は動く顎に注がれている。
 白い手拭いを畳んで膝の上に置いて割箸を割つて手に持つて待つている。

 御師匠様が肉を三切れ四切れ食べた頃に、狐は箸を持つた手を伸べて一切れの肉を挟もうとした。
 御師匠様に遠慮がないのではない。
 其れならと云つて御師匠様を憚るとも見えない。
 「待ちなさい。其れは未だ煮えていません」
 狐はおとなしく箸を持つた手を引つ込めて待つ。

 暫くすると、御師匠様の箸は一切れの肉を自分の口に運んだ。
 其れはさつき狐の箸の挟もうとした肉であつた。
 狐の眼は又、御師匠様の顔に注がれた。
 其の眼の中には怨も怒もない。
 ただ驚がある。

 狐は驚きの眼を御師匠様の顔に注いでいる。
 食べてよいとは云つて貰われない。
 もう好い頃だと思つて箸を出すと、其の度毎に「其れは煮えていません」を繰り返される。
 
 驚の眼には怨も怒もない。
 しかし卵から出たばかりの雛に穀物を啄ばませ胎を離れたばかりの赤ん坊を何にでも吸い附かせる生活の本能は、驚の眼の主にも動く。
 狐は箸を鍋から引かなくなつた。

 御師匠様の素早い箸が肉の一切れを口に運ぶ隙に、狐の箸は突然手近い肉の一切れを挟んで口に入れた。
 もうどの肉も好く煮えているのである。
 少し煮え過ぎている位である。

 御師匠様は切れ長の眼で狐の顔をちよいと見た。
 叱りはしないのである。
 只これからは御師匠様の素早い箸が一層素早くなつた。
 代りの生を鍋に運ぶ。
 運んでは返す。
 返しては食べる。
 しかし狐も黙つて箸を動かす。
 驚の眼は或る目的に向つて動く活動の眼になって其れが暫らくも鍋を離れない。
 大きな肉の切れは得られないでも小さい切れは得られる。
 好く煮えたのは得られないでも生煮えなのは得られる。
 肉は得られないでも葱は得られる。






 美味しいものは実力で得るべし。
 鍋を食するは知力と速さと胆力の限りを発揮し死力を尽くす闘いである。

 其の夜。狐と御師匠様は死力を尽くし闘い抜いた。
 凄惨なり。相争う者共よ。
 見事な闘いである。
 狐と御師匠様は激闘の末、ふらふらになつて御店を出た。
 そして御互いの健闘を讃えあい、家路についたのだつた。





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