町中の桜はすっかり散ってしまったが、山では今が山桜の見頃となっている。休日、奥武蔵にある名栗湖を訪ねた。
「もろともに あはれと思え 山桜 花より外に 知る人もなし」 百人一首66番
ヤマザクラには意外と水のある風景が良く似合う。
うすべにに葉はいちはやく萠えいでて咲かむとすなり山櫻花 ―牧水
そういえば、藤沢修平の原作を映画にした「山桜」というのがあった。一本のヤマザクラの下で野江と弥一郎が出会う、そのシーンが思い出される。
その映画の主題歌が一青窈の「栞」だった。冒頭の一節を「途方に暮れたのは黄昏時で、空には山まで溶け合って何処か悲しくなる ふいに君がくれし 道の標も見えなくなって 瞼閉じた後花に聞く僕……」
深緑を背景にし、その美しさはまた一層引き立つ。今年はいい潮合に立ち会えたようだ。
これも有名な歌だ。「しき嶋の やまとごゝろを 人とはゞ 朝日にゝほふ 山ざくら花」 ―宣長
戦争中にはどういうわけか散り際の潔さを称賛するのに使われたようだが、宣長の本意は違っていたようだ。
今年は新緑と時期が重なり一際綺麗だった。