



須原には
水船という巨木をくり抜いた大桶が
どこもかしこにも置かれ
水は常によどみなく流れ注ぎ
古い時代から
街道を行き交う旅人達の喉を潤した…
それは今も変わらず
水船の傍には柄杓やコップが置かれ
どこの誰であろうと
その冷たさを口にする事が出来
なにより
その水には持ち主というものが無い…
そんな須原には水のほかにも
広く知られた郷土民謡と踊りがある…
♪ハ~ヨイソレ
木曽の須原で自慢のものは ホイ
須原ばねそと定勝寺…
この賑やかな「よいこれ」と
「竹の切株」「甚句」という三曲は
いづれも楽器を使わぬ地唄で歌われ
盆踊りで「ばねそ」として踊られる…
「ばねそ」とは
跳ねて踊るという意味で
六百年前に京都から伝わったという…
由来を同じくするものは
木曽全域で数十種にもなるというが
この須原のばねそは
その中でも最も古いというのが自慢…
そんな話を聞きつつ
水船で水を酌んだそのその後の
「気をつけて…」の大声と
見えなくなるまで手を振ってくれた
初老の夫婦の優しい姿が
いまもこの目蓋から離れようとしない…
