ゆっくり行きましょう

気ままに生活してるシニアの残日録

水村美苗「大使とその妻」を読む(1/2)

2025年01月01日 | 読書

あけましておめでとうございます、本年もよろしくお願いします。今年も毎日投稿したいと思っていますので、よろしくお願いします。

水村美苗「大使とその妻」(新潮社)を読んだ、彼女の本は「日本語が亡びるとき」や「本格小説」、「母の遺産」などを読んできたが、一番印象に残っているのは夏目漱石の「明暗」の続編となる「続明暗」だ

漱石の小説の中で私の好きなのは「こころ」や「ぼっちゃん」でなく最後の作品「明暗」である、その「明暗」は未完の小説で、彼女はその未完の「明暗」を自分で想像力を逞しくして結末まで書き上げた、漱石をはじめとする内外の文学に対する深い造詣を有していないとできない作品だと思い、彼女の知性に感心したものだった

水村美苗さんは1951年生れ、母は78歳で初の自伝的小説「高台にある家」を上梓した水村節子(1922-2008)、父親の仕事の関係で12歳の時に渡米、ボストン美術学校、イェール大学フランス文学専攻、イェール大学大学院仏文科博士課程に在籍し、プリンストン大学講師、ミシガン大学客員助教授、スタンフォード大学客員教授として、日本近代文学を教えた経験を持つ、夫は東京大学名誉教授の岩井克人氏

寡作ながらほとんどの作品は何らかの賞を受賞している、本作は12年ぶりの大作、本作は米国人男性の視点で書かれた小説、日本文化を研究する米国人ケヴィンの語りで進む

軽井沢の追分に立つ小屋にひとり暮らすケヴィン、その隣に越してきた篠田氏はかつて南米の大使だった、物語は篠田氏とその妻、貴子が姿を消した山荘から始まる。ケヴィンは夫妻の思い出を日本語で記していく

読後の感想を述べたい

  • 水村さんの小説では軽井沢が出てくる場面が多いように思うが、きっとご自身も好きな場所なのでしょう、この小説でも少し軽井沢に詳しい人ならだれでも知っているパンの浅野屋、スーパーのツルヤ、ハルニレテラスなどが出てくるので読んでいて直ぐにイメージが湧くのが良い、以前の小説では離山通りにあったイタリアン・レストランの「スコルピオーネ」が出てきて、知らない店だったので行ってみたが、今は閉店して無くなってしまったのは残念だ
  • 上巻はすらすらと一気に読めた、軽井沢が舞台であり、主人公のケヴィンの考えや生き方に共感できるところも多く読んでいて心地よかった、しかし、下巻になるとブラジル移民の話や、篠田氏の妻の貴子の生い立ちが多くなり、日系移民の問題など勉強になる部分も多かったが、貴子の両親や若い時の教育を担った北条瑠璃子に関する話などは長すぎるように感じた
  • 最後の結末についてはちょっとしたサプライズもあり納得できるが、ケヴィンと貴子の年令設定が高すぎるのがその後の二人の生活のイメージを描くことを難しくした
  • この小説には主要登場人物の中に同性愛者が二人いる、同性愛者の特性や考えなどが出てくるところが一つの特徴である、これも最近注目されているLGBTなどの影響だろうか

さて、小説の作者は登場人物に自分の考えを言わせることがある、本書を読んでいて、この登場人物の発言は水村さんの考えなのか、そうでないのか、などといろいろ考えながら読んだ、私が気になった登場人物の発言や考えなどを引用し、コメントを付けた

  • 「だから日本はやなんだ」とここ数年間あたりでいよいろ盛んになった軽井沢の開発について述べている、そして乱開発された別荘や山小屋を見て、いろんな国のスタイルの建物が乱立して、散歩すると西洋のあちこちに行った感じになると書いている、そしてヨルゲン爺さんに別荘地なのにもっと厳しい建築規制を書けないのは文明国とは言えないと言わせている
    コメント
    軽井沢に新幹線が通り、コンビニが乱立するようになってすっかり興ざめした、もともと庶民が押し寄せるような所ではない、俗化した軽井沢の魅了は確かに下がったでしょう
  • ドイツ憲法には所有権には義務が伴うといった類の文言があるので個人の所有物でも景観という公共財産のために規制を受けるのは当然としている、ところがGHQがいかにもアメリカらしく個人の自由ばかりに重点を置いたため彼らが作った憲法にそういう規定がないため景観を規制しにくい
    コメント
    自由、自由と何かというと自由と個人の権利が一番大事だ、国家への貢献が悪いことのように言いふらしてきたのが戦後の言論空間だ、自由や権利は大事だが責任や義務が伴うと教えなければ、それこそ無責任というものでしょう

  • 二つも原爆を落とされて必死に再興する日本を助けるのはアメリカ人の人道的な勤めだと父は思っていたようだ
    コメント
    原爆投下や東京大空襲などは人類に対する罪だ、ゲルニカを描いたピカソが日本にいなかったのが残念だ
  • 2016年アメリカの大統領選挙で想像だにしなかった男が当選して、アメリカのひずみがここまで深化し、今まで当たり前だったことが次々と覆されるとは、と嘆いている
    コメント
    水村氏でもトランプ批判ですか、ここは著者の考えと違っていてほしい

  • 日本は日露戦争の勝利で過信し四半世紀後、中国に侵入するに至った
    コメント
    日本は他国と同様に合法的に駐留、居留していたのであり、その日本に対して合意を無視してあらゆる挑発行為をして大きな被害を与え戦争に引きずり込んだのはどの国だ
  • ドイツ人のイーアンに「ITで儲けたやつらにはおおむね教養がない、フランス語や日本語ができるやつなどいない」と言わせている
    コメント
    ITで儲けた人だけでなく、一流企業のトップでもリベラル・アーツの重要性を理解している人は少なく、彼らの平日の夜や休日の過ごし方を聞けばITで儲けた人たちとそう違わないのではないか
  • 200年間の鎖国のあと西洋列強に植民地化される難をかろうじて逃れ、戦争ばかりしながら近代化を推し進めていった極東の国
    コメント
    戦争ばかりしていたのはそういう時代であったからで日本は決して好戦的な国ではない、欧米こそ戦争や侵略ばかりしていた国ではないか

  • イーアンは、日本人のほとんどがここまで極端な平和主義者で、戦争アレルギーっていうか、戦争っていう言葉を口にするのもいやなのは、僕にとって大助かりなんだ、また、そんなひどい戦争をしたから当然だろうけど、と言った
    コメント
    日本を悪者にした占領軍による洗脳も大きいでしょう、極端な平和主義は我が国周辺の覇権国家をその気にさせるだけだ、アメリカは注射が効きすぎたと思っているでしょう
  • それに対してケヴィンは、「若い人はずいぶんと違っていますよ、と以下のように反論し、30年前、私が日本に最初に行こうとしているとき、当時60半ばで今は亡きアメリカ人の教授が私に忠告した、日本人の知識人と言えば「資本論」を聖書のようにあがめる左翼ばかりで、しかも米軍の占領時代からの徹底した反戦教育のおかげで頑迷固陋な平和主義者だから、そのつもりでいるようにと、いつしか時は移り、私が日本の土を踏んだ頃には、そんな日本においてもマルクスは既にはやらなくなっていた、ただ、普通の人でも平和平和と唱えていた
    コメント
    マルクス主義の階級闘争史観は今も生き延びている、今どきマルクス主義とは言えないので、人権、平和、反核、反戦、自由、環境など人の耳に響きやすい言葉で自分たちの姿を隠している、そして、そこに付け込んできているのが隣国だ、今の日本には隣国から見たら利用価値の高い隠れ階級闘争史観信者がいっぱいいるでしょう

(続く)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿